第13話 異質
豪奢で深い憂愁を秘めた色と光の中、腕を掲げる少女がいる。
太ももからは出血し、大腿骨が穴から見えそうになるほどの穴が開いていた。
掲げた腕は関節の辺りまで凍り付いており、かろうじて凍り付いていない肌は雪のように白くなっていた。
そんな少女がこちらを見るや否や、傷ついた足を引きずりこちらに近づいてくる。
「アムール見てた......? 私が大勝利する姿を......!」
無邪気な子供のように笑っていた。痛みも恐怖も感じさせないほどの満面の笑みであった。
「シェリ......」
私の中にほんのひとかけらにも満たないほどの恐怖が生まれる。
腕を負傷し、太ももはえぐられている。それなのに、なぜ笑顔でいられるのか。数々の戦場を潜り抜けた屈強な戦士なら理解できる。しかし、今私の目の前にいるのは、ほんの少し前まで箱入りだった十歳ほどの少女だ。
「魔法もちゃんと使えるようになったし、合格でいいよね!?」
「......」
戦闘中と戦闘後の精神の切り替えの早さ。自分の身体を簡単に差し出す、迷いのなさ。
どれも十歳の少女には持ちえないはずのものであった。
本来ならば、在り得ぬ。在ってはならない。
――しかし、目の前の少女はそれを、呼吸をするように成し遂げた。
「......? 聞いてる?」
シェリの中で何が渦巻いているか。いったい、その身に何が起こったのか。
彼女のことは理解しているつもりだった。
――そう、私は理解した気になっているだけだったのだ。
「シェリよ......。おぬし一体何があったのじゃ?」
「??? どういうこと?」
シェリの表情から笑みが消える。先ほどまでとは違い、顔には不安や焦燥が浮かび上がっていた。
「ひとつ言っておく。あのような戦い方はやめなさい。」
「え......」
時が止まったように、辺りが静まり返った。
「あの戦い方は褒められたものではない。」
「え......いやでも私......」
シェリの口が魚のように口をもご付かせる。
私は詰め寄るように言葉を続けた。
「今度このような戦い方をしたら、お主を旅に同行させることはできなくなる」
「そんな......なんで――」
シェリの身体が大きくよろめいた。
「シェリ!?」
急いで近づき、弱り切った小さな身体を支える。
少し呼吸が浅いが、間に合わないほどの致命傷ではなかった。
私は小さく息を吐き、胸を撫でおろした。だが、心の霧は晴れることはなかった。
――私は彼女のことを肯定することができなかった。
――彼女のやり方を許容することができなかった。
彼女の行動、言動、戦い方、それらは私の記憶の引き出しを乱暴にこじ開けようとしてきた。
忘れたくても忘れることのできない悪夢。
ワインのように染みついて拭うことのできない失意の記憶を――
夕闇が迫る中、少女を背負う。
この近くには小さな村がある。私は、少女を治療するために村を目指し歩き始めた。
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