第11話 特訓(4)
「な、なんですか!? もしかして、さっきの騎士が現れたのですか!?」
狼狽の色を隠せない私の前に、散歩でもするようなのんびりした足取りのアムールが戻ってきた。
アムールの服はほんのりと濡れており、まるで、霧吹きでもかけられたかのような様相だった。
「奴が戻ってきてたら、とっくに叫んで教えとるよ。さっきのは、お主の特訓相手からの洗礼じゃよ」
(特訓相手......。水の刃を飛ばしてくるだなんて、いったいどれほど屈強なやつなの......)
唾液が音を立てながら喉を通過していく。
筋肉モリモリの大男。はたまたは、案外小柄ですばしっこい奴か。
私が悶々と思案していると、草むらが音を立てて揺れた。
どうやら特訓相手の方から会いに来てくれたようだ。
(かわいい動物系だったりしないかな......)
両手を合わせ、空気と一体になるように祈っていると、草むらから一つの影が飛び出してきた。
「ほ~れ来た来た! おぬしの対戦相手じゃ!」
その姿形は、私のよく知るものだった。
冒険者たちの御用達......と図鑑にも書いてあった、スライムだ。
体を変幻自在に変化させ、近づいたものを取り込み、秒もかからず溶かすと噂のあのスライムさんだ。
図鑑で読んだときは、『こいつを倒せれば君も一人前の冒険者だ!』とあったが、大きい個体になると最強種の竜ですら、取り込み溶解してしまうらしい。......どう考えても、討伐難度と得られるリターンが釣り合っていないように感じる。
おやつのゼリーのようにプルプルと震えながら私の方に近づいてくる。アムールの方にちらりと視線を送るが、悪意のこもっているような笑顔を返してくるばかりだ。
どうやら本当に戦わなくてはならないらしい.......。
***
こうして今に至るというわけだ。現在の私の装備は、護身用にアムールから渡された切れ味の悪い探検を一本と、小銭が少々だけだ。肉体を持つ相手ならまだしも、流体を相手にこれでどうやって戦えばよいのだろうか。
「よ~く考えるんじゃよ。気抜いたら死ぬからな~」
「死ぬって......初めからスパルタすぎる......」
愚痴をこぼしながらも、武器を構える。
握る手の力を抜き、胸の辺りに切っ先が来るように意識する。腰を少し曲げ、いつでも踏み出せるように足に意識を置く。
「ほーなかなか良い構えじゃ。とても十歳の王女様とは思えぬ」
スライムの後ろで寛いでいる、アムールがちらちらと視界に移るのが若干鬱陶しいが、無視してスライムに目を向ける。相手も警戒してくれてるのか、迂闊には攻撃はしかけてこなかった。
――辺りの音をすべて持ち去られたように静かになる。
一枚の葉が、私の視界を通り過ぎたその時、戦いの火蓋は切って落とされた。
読んでいただきありがとうございます!




