第10話 神の御業(2)
私が怒りに駆られ、歯を軋ませていると、アムールがなだめる様に言葉を投げかけてきた。
「怒っているところ悪いが、何も教会側だけの問題じゃないんじゃよ」
私はしかめっ面で彼の方に目線をやった。
私の視線を感じ取り、こちらに目を向けたアムールもまた、くちばしのように口をとがらせて、不満を示していた。
「......どういうことですか?」
「教会側は確かに嚙みついてきたんじゃが、決して世の中に公表することを否定してきたわけじゃないんじゃよ」
ますます、不満が膨れあがっていった。昔、調子に乗ってお肉をドカ食いし、胃もたれをした時のような気分になっていた。それほどまでに解せなかったのだ。
「じゃあ、なぜ!?」
私は体当たりをするような勢いで、顔を近づけた。
アムールは掌を組み、不満をさらけ出すような感じで溜息を吐いた。
「公表できなかった理由は、儂以外が扱えなかったことにあるんじゃよ」
彼の一言に、私はあっけにとられた。
「使えない......?」
アムールは深くうなずく。ひげを指でらせん状に巻き取るようなしぐさをしながら話を続けた。
「理論も、術式の構築法も、すべてを詳らかに公表した。……だが皮肉なものよ。結局のところ、その真髄を理解し、再現できた者は、この大陸に儂一人しかおらんかった」
喉の奥が乾き、私は一つ、重く唾を飲み込んだ。
ヴァスト王国が誇る宮廷魔法使いたちは、大陸全土を見渡しても比類なきエリート集団だ。魔法学の最先端を行く彼らが、束になってかかっても再現すら叶わなかったというのか。その事実の重みが、私の胸を激しく突き上げた。
「結局、儂以外が再現できないんじゃあ、公表したところで混乱を招くだけだと判断され、お蔵入りになった......というのが事の全貌よ」
あんなに熱かった胸のざわめきが、嘘みたいに引いていった。
それと同時に、自分への情けなさで胸がいっぱいになった。
考えることをやめて、ただ怒りにまかせて怒鳴るという愚行を犯してしまった。
(アムールと出会って、何もできなかった弱い自分から、立派な王女になろうと決めたのに......。これじゃあ、お勉強を放りだして泣いていた頃の、ちいさな子供に戻ったみたいじゃない。)
私はぎゅっと拳をにぎりしめて、心の中で何度も自分を叱りつけた。
心の未熟さを肌で感じ、やるせない気分となっていた。
ほんの少しの休憩時間は終わりを迎え、私たちは街を目指し再び歩き始めた。
読んでいただき感謝~
時々、過去の話も少し添削を行ったりしているから、時間があるときに見ていただけるとありがたいです。




