第9話 僧侶
幾時か経過した。すでに元居た場所が、遥か彼方のように感じるぐらい歩いている。
シェリの顔色が徐々に優れなくなっている。
かく言う私の方も、持病の腰が痛くなり始めており、正直これ以上歩きたくはなかった。
敵に索敵されることを恐れ、魔法を使わないようにと考えた時点で分かってはいたが、現実になるとやはり辛いものがある。
シェリも休憩がしたそうにたまに視線を送っては来るものの、提案はしてこない。
私に気を遣わせないよに配慮してくれているのだろう。
(......どうやら、わしの方から提案しないと一生休憩できなさそうだのう)
一瞬、針が腰に刺さったような鋭い痛みを感じた。
私は自分の腰の限界を悟り、音を上げることにした。
「そろそろ休憩するかのう」
「!!! そうですよね! 休憩したほうがいいですよね! 」
私のその一言を聞いた瞬間、シェリは”待ってました! ”と言わんばかりに表情を輝かせた。
......別に勝ち負けにがあるわけではないが、根競べに負けた気分である。
私は、瓦礫と化した家から持ってきた愛用の杖と魔道具一式が入った袋を置き、その場にへたり込んだ。
座る瞬間”よっこいしょ”と自然に口から洩れてしまい、ちょっと悲しくなった。
「疲れをとる魔法とかはないのですか? 」
シェリが真剣な眼差しで問いかけてくる。決起迫る眼差しは、先ほどの騎士の眼差しにも勝るとも劣らないものであった。
「あったらとっくに使っておるよ」
私はため息交じりに答えた。
しかし、若いころの私だったら同じ質問をしていたと思うと心境は複雑である。
その答えにシェリは、この世のすべてに絶望するかのような表情となり、俯いた。
「そんな......。回復魔法でもなんとかなりませんか? 」
「なりません」
希望を絶たれた少女は、地面にめり込む勢いで顔から倒れこんだ。
虫のようになったシェリを見つめながら、言葉を発する。
「回復系の魔法は難しいんじゃよ。本来、『慈愛の女神 エレオノール』様の深き御慈悲なくしては、発動すら叶わぬ代物ゆえにのう」
私が刻まれた皺を深くして静かに語ると、傍らのシェリは不可解そうに首を傾げた。
「『本来』……? それ、どういう意味ですか? 」
「そもそもわしは、神に仕える本職の僧侶ではないからな。女神の加護など、端から持ち合わせてはおらんよ」
――さらりと告げた言葉に、シェリは目を丸くして絶句した。
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