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第1話 逃亡

王国を命からがら脱した少女シェリ。

彼女が目にしたのは見知らぬ大地であった。

体を休めるべく、少女は体を洞窟に預けた。


かつて、この地には魔王が存在していた。

数多なる力を持ち、陸空海全てを支配しており、

他を寄せ付けぬ圧倒的なカリスマは、知恵のない魔物のですら頭を垂れるほどであった。


もはや敵など居ないように思えるほどであった。

だが―――

魔王を倒すべく、一人の勇者が立ち上がった。


勇者はオークやエルフなど、様々な種族より募った種族一の戦士たちを率いて魔王を遂に打ち倒すことに成功する。


魔王が敗れ、魔族の残党兵も散り散りとなり、この地に平和が訪れたのだった……。


しかし、永久に続くと思われていた魔王の支配が終わるように、物事に"絶対"というものはない。


永久に続くと思われていた、平和は静かに崩れていく事となるのであった……。


***

―――ヴァスト王国・城下町


「いたぞ! あそこだ! 」


衛兵たちの怒号が、夜の闇に反響する。

その獣の咆哮のような声は、闇を切り裂くように走る一人の少女の背中を追い立てていた。


彼女は狭い路地裏を縫うように抜け、衛兵が通れないような通路を通り、巧みに衛兵たちを躱していく。


息が乱れる。

今にも破れそうな足を引きずるように、それでも走った。


―――止まれない。

少女は夜の街を駆け抜けた。


背後の声は次第に遠ざかった。

だが、完全に消えたわけではない。

耳鳴りの奥で、まだ響いている気がした。


どれほど走ったのか分からない。

気付けば、見知らぬ草原に立っていた。

空を仰ぐと、無数の星が冷たく瞬いている。

その光に照らされ、少女はようやく息を吐く。


視線を落とした先に、仄かな光が揺れている。

岩壁に口を空けた洞窟だった。


引き込まれるように、足を踏み入れる。

もはや脚の感覚は曖昧で、壁に触れた瞬間、力が抜けた。


冷たい風が吹き抜ける洞窟だった。

もたれ掛かった壁は冷たく、灰のようなものにまみれていた。少女の住む家とは雲泥の差であった。


しかし、帰る場所もなく、追われる身の少女にとっては救いとなるものだった。


「どうして……」

目には大粒の涙が浮かんでいた。

家族の元を離れたこと、優しかった衛兵たちが襲ってきたこと、温かい家ではなく冷たく暗い洞窟にいること。溢れた思いは涙と共に流れ出ていった。


「どうしてこんなことになっちゃったの……パパに会いたいよ……」

少女は泣いた。泣いて泣いて……涙が枯れるほど泣き続けた。

ここには誰もいない。

その事実が、遅れて胸に落ちてきた。

孤独と静寂が心を引き裂いていった。


やがて風の音だとなったとき、

泣き腫らした少女は次第に睡魔に襲われた。


"眠れば何も感じない……

明日の朝になったらきっと誰かが助けに来てくれる"


少女は膝を抱え、息を殺した。

星明かりが、外で揺れている。


静寂が少女を包む。

―――その静寂が、永遠でないことを、少女はまだ知らなかった。

読んで頂いてありがとうございます。

こちらは本来の1話として、のちに公開する2話と1セットのはずでした。

しかし、個人的に書きたいことがあったり、"6000文字は長いな"ということで分割させていただきました。


もしよければ感想を書いて頂けるとありがたいです。

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