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第14話:薬に潜む陰影と、秘められた縁

 辺境診療院の朝は、静謐だった。

 薄明かりのなか、ユウは手にした薬草標本をじっと見つめていた。


 先日の“月喰い”事件から数日。村の動揺は少しずつ鎮まっていたが、診療所に新たな謎が持ち込まれた。


「ユウ様、また妙な症状の患者が……」


 サラが差し出した診療記録には、発熱、全身の湿疹、そして急激な呼吸困難が記されていた。しかも、複数の患者に共通する点があった。


 ──皆、最近新しい薬草茶を飲んでいる。


 ユウは眉をひそめた。


「その茶葉はどこで入手した?」


「村の交易所で売られているものです。製造元は不明……」


 辺境の村で流通する薬草は、ほとんど診療所か村人の自家採取品だ。未知の製品は珍しい。


 ユウは外套を羽織り、交易所へ向かった。


 交易所は、薄暗い木造の建物。棚には乾燥した薬草や調合済みの袋が整然と並んでいた。


「この薬草茶について、何か知っていますか?」


 店主に尋ねると、険しい表情で答えた。


「最近、新しい商人が持ち込んだものだ。彼はすぐに姿を消したが、売れ行きは良かった。だがその茶を飲んだ者から体調不良の話も聞く」


 ユウの心に警鐘が鳴る。


「新しい商人……何者?」


 診療所に戻ると、患者の症状は悪化していた。呼吸が浅く、全身の発疹は広がり、顔色は青ざめている。


 ユウは患者から茶葉の袋を取り上げ、慎重に分析を始めた。


 「……これは……」


 乾燥薬草に紛れていたのは、猛毒性のある“夜毒草”の粉末だった。


 だが、不思議なことに、患者の中には発症しない者もいた。


 そこで、ユウは水平思考を働かせた。


「毒の影響を受けない者に共通点があるか調べましょう」


 調査の結果、患者の中で発症しなかったのは、ある特定の薬草を日常的に使っていた家系の者たちだった。


 その薬草こそが、“解毒草”と呼ばれる、古くから伝わるものだった。


 ユウは薬草学の古書を引きながら、解毒草の成分が夜毒草の猛毒性を中和する効果があることを突き止めた。


 「これは巧妙な毒殺未遂です」


 新参の商人は、辺境の伝統知識を調べ尽くし、解毒草を知らない者を狙ったのだ。


 誰かがこの地で、知識を悪用しようとしている。


 その夜、ユウは診療所の小窓から見える星空を見上げながら思う。


「毒とは、ただの薬の裏返し。だが、それを操る心は、もっと怖い」


 静かな決意が彼女の胸に灯る。


「次は、必ず犯人を見つけ出す」

2話更新が終わったので、一度完結済みにしておきます。

明日以降執筆が終わり次第、再開します。

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