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7話 7人の世直し侍

7月20日まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。

人格が入れ替わり、体を動かせるようになる。

「あんた。穴あきバケツだっけ? 世直し侍の仲間なんだよな?」

「世直し侍は7人いるって教わらなかった?」

そういえばそんなこと言ってたような気がしないでもない。

「穴あきバケツ。お前が2人目の世直し侍ってことか?」

「理解が早くて助かるよ。まあこの子ほどじゃないけど」

目の前の女子を見る。胸が大きくてかわいいこだけど。服装はパーカーで地味な感じ。

「お前、その女の子の体を乗っ取ったのか?」

「この子は柿音っていう女子大学生なんだけど、見ての通り人見知りする子でね、外出するのが苦手なんだよ。ずっと部屋にこもってパソコンをいじっている。だから、外に出かけるときは穴あきバケツ、つまり自分が体を使わせてもらっているってわけ」

「どうやって体を乗っ取ったんだ? 悪夢でも見せたのか?」

「悪夢? そんなもの見せてないよ。ふつうにお願いしたんだよ。この子は世直しに賛成して体を貸してくれている。細かい事情は本人に聞いたらいい。教えてくれたらの話だけど」

「事情は分かった。でも、警察を殺すなんてダメだ。いくら柿音さんが世直しに賛成していても」

「殺す? 別に殺したりはしなよ。要するに口封じできればいいわけだからね」

「結局殺すってことだろ」

「もしかして、白米さあ。世直し侍の特殊能力のこと話してないのかな?」

頭の中で声が響く。『言っていない』

「世直し侍の刀には特殊能力があるの。穴あきバケツの持つ記憶刀は、斬った相手の記憶を斬り取ることができる『記憶斬り捨て御免』っていう技が使える。さっき、斬った時式目に関係する捜査の記憶をすべて斬り取っておいたわけ」

「ってことは、殺さないのか?」

「式目くん自分で言ったけど、わたしも基本的に人殺しには反対なの。たくさん殺しても世直しにはつながらない。むしろ民衆の反発を招くことだってある。だからリーダーが目覚めるまで待ってろって、共有したはずなんだけどね」

「共有ってどうやって?」

「夢を通じて7人の世直し侍は互いの情報を共有することができる。指示を出すことだってね。白米。あんたの体の中にいるこいつは先走ったんだよ」

頭の中で声が響く。『それは、事故のようなものだ』

「なるほど。で、そのリーダーってのはどこにいるんだ?」と俺が穴あきバケツに聞く。

「宿主が決まっていれば夢の中で会えるはずなんだけど、リーダーとはまだあえてない。見つけてないのか、見つけているけど宿主の目覚めている睡眠リズムが違って会えないのかのどちらか」

「宿主が同じ時間に寝て夢を見ないと会えないってことか」

「そういうこと」

「お前らはそのリーダーのいうことを聞いて世直ししているのか?」

「そういうことだね。まあ、従うも従わないもの自由だけど」

「世直し侍ってなんなんだ?」

「それも聞いてないの? 世直しが必要な世界に送られてくる7人の侍のことだよ。世直しという目的のために集まったメンバーなんだけど全員前世は違うし、任務ごとにメンバーも変わるから面識ないやつもいる。白米とは前に一度一緒に世直ししたから互いに面識あるけど」

「穴あきバケツはどうして世直し侍になったんだ?」

「前世がまあろくでもない世界で変えようとがんばったけど失敗した。世直し侍っていうのはそういうやつの集まりだよ。多かれ少なかれみな悪しきを世ただしたいという正義の心を持っている」

「なんで日本に来たんだ?」

「さあね。そこらへんはわたしたちが知らないもっと上の話だよ。上が日本という国に世直しが必要して任務を達成するのにふさわしい7人の侍が派遣された、そんな感じ」

上の存在? 世直し侍にも上司っているのか。まあそこは聞いてもわからないんだろうな。

「世直しが必要なのはそうかなって俺も思うけど、なんか変じゃないか。日本は民主主義の国だ。政治家は選挙で選ぶ。わざわざ別の世界や時代の人間に世直ししてもらうなんて」

「自浄作用が働いていないんだろうね。もし日本に住む人たちが自分たちの力で世直しできるなら、わざわざわたしらを派遣するはずがない。日本人には無理だから我々が呼ばれたってことだと思う」

「世直しが終わったらどうするんだ? 帰るのか」

「帰るよ。世直しが終わってこの世界の残る意味なんてないしね」

ようやく目的が見えてきた。こいつらの世直しっていうやつが終われば白米は出て行って自分の体を取り戻せるわけだ。

「世直しっていつ終わるんだ?」

「リーダーの方針次第かな。1年から3年程度はかかるはず」

「学生の間はずっと世直しってことかよ。めんどくさいな」

「どうやら式目くんは世直しに乗り気じゃないみたいだね」

「当たり前だろ。いきなり枝葉議員を斬ったりして、人を斬って世直しっておかしいだろ」

「本当にそうかな? 柿音に聞いた話だと、3年前にこの国の偉い人物が殺されたんだよね。そのあと政治が少し変わった。強い権力を握る人間が死ねば政治が変わる。要人暗殺も世直しに必要な要素だよ。実際、歴史を振り返れば暗殺から戦争や政変が起こることは珍しいことじゃないんだよ」

「でもなあ」

「この国では毎年80万人人口が減っているって聞いたよ。それって政治が悪いからじゃないの? 政治が悪いから子供が生まれず人が死んでいく。毎年減っていく人口に比べれば要人の一人や二人、100人や1000人なんて小さな犠牲だと思わない?」

どう反応したらいいのかわからない。俺とこの穴あきバケツは全く違う価値観、世界で生きて来たんだろうということだけがかろうじて理解できた。

「どうして困惑しているの? 当たり前のことを言っただけなの」

「人の命をなんだと思っているんだよ」

「大切だと思っているよ。人の命は平等で、だからこそ守らないといけない。悪政をやめさせれば多くの命が救われる。場合によっては人を斬ることだって善行になる。もちろん、死ぬのはよくない。死は良くも悪くも影響が大きいからね。あえて殺さない方が効果的なことだってある。この日本みたいに平和ボケした国に死は過激すぎる」

「わからねえ。わからねえよ」

「みたところ、日本はわたしが生きていた世界よりだいぶましみたいだね。自分が生きるためには嘘をついて他人を貶めないといけないあの世界に比べれば。でも、世直ししなければいずれそうなる。どの世界でも悪を滅ぼさない限り、事態の悪化は避けられない」

俺にはわからなかった。そういう天下国家を論じるみたいなの、そういうのは東大出のエリートとかが考えればいい、自分には無関係だと思っていたから。

いまの俺には穴あきバケツにいう言葉がない。


「戻るよ」

俺は体を世直し侍に譲った。

「それで、この警察はどうするつもりだ?」

「白米に戻っちゃったんだ。まあいいか。記憶は消したから、あとは勝手に埼玉に帰ってくれればいいんだけど、あとで『なんでここに来たんだ』ってなると面倒だから、種を植え付けて返そう」

そういうと穴あきバケツは、植物の種を取り出して、2人の警察官の頭に植え付けた。種から目が出て頭が植物に寄生されたみたいな感じになる。

「あとは大宮に帰るようにプログラムしてと。あ、柿音ちゃん、お願いね」

女子の表情が変わる。さっきの明るい感じではなく、目線を下に向ける暗い雰囲気になる。

女子はスマホを手に持ち、指を動かし始める。

5分ほどで操作する指が止まる。「終わりです」

すると、元の明るい顔に戻る。

「ありがとう、柿音ちゃん」

そのあと、警察官2人が勝手に目を覚ます。そして、歩き出してどこかへと消えていった。

「植物のプログラムを変更できるのか、その柿音という女子は」

「頭いいっていったでしょ。いろいろ相性いいみたい」

「今後の情報操作は穴あきバケツに任せてよさそうだな」

「だからって、好き勝手に人を斬っていいわけじゃないんだからね」

「わかっている」

「いや、その顔はわかってない。いまから人を斬りに行こうとしている顔だ」

「斬り込み隊長の役割は勇敢であることだ。兵は拙速を尊ぶものだ」

「6月13日。その日になったら動くからそれまでは静かに潜んでいて」

「あと11日もあるではないか」と白米が不満を言う。

「6月13日の午前0時から夢で侍会議をする。7人で集まって今後の方針を話し合おう」

「それまで待てということか」

「白米。あんたさ、まだ力を取り戻してないでしょ。そっちを先にした方がいいんじゃないの? 結界があれば情報操作なんてしなくて済むんだからさ」

「そうだな。最後の一人から米を回収せねばならない」

「そうそう。だから6月12日までは余計なことしないでね」

「……善処する」

まあ、すでに小泉農水相をやっているんだけどな。

「信用してるからね」

そういって、穴あきバケツは立ち上がり、部屋を出ていった。


人の命は平等。なら、少数の犠牲で多数が助かる選択をすることは悪いことなのだろうか?

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