12話 世直しお茶会
7月20日まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。
夜。夢を見た。
7色の虹が見える。虹は2つの窓から伸びている。
窓の一つから7色の光があふれ出て、虹を進み始める。
虹の上には真っ白なテーブルとイスがおかれていて、7つの光が人の姿をして現れる。
俺はその様子を虹の下から見上げるように見ている。
どこかかからか声が聞こえる。
『赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫。いま7人の世直し侍がここにそろった。ただいまより、世直しお茶会を始める』
紫色の人影がいう。「7人の世直し侍がそろったことだし、自己紹介しようよ」
赤色の人影が答える。「よかろう。吾輩は赤。切り込み隊長に任命された。世直し経験は4回。そのうち3回が成功だ」
オレンジの人影が答える。「オレンジだよ。よろしくねみんな。世直し経験は3回目で、2回成功した。ポジションは通信」
黄色の人影が答える。「黄色よ。世直し経験はそれなりに。失敗したことは1度もないわ。役職は出資者」
緑色の人影が答える。「緑だよ。世直し経験は35回。成功したのは29回。役職は医師だ、よろしく頼むよ」
青色の人影が答える。「青だ。役職は参謀。世直し経験は42回、うち成功は10回」
緑が言う。「おやおや、参謀のわりには成功率が低いですねえ。成功率の低い参謀の言うことになんて従いたくはありませんね」
青色が毅然とした態度で答える。「一つ誤解を与えてしまったようだな。世直しの企画立案を行うのが参謀の役割であるわけだが、それを100%完璧に遂行し、期待通りの結果を出せたのが10回という意味だ。一般的な世直し成功率で見れば100%だ」
緑「それは失礼。どうやら今回の青は完璧主義者のようだ」
青が赤を見ていう。「ついでだから言っておくが、赤。お前は計画にないことをやりすぎる。枝葉と小泉農水相を斬るのは時期尚早だったな。参議院選挙で警戒が強まれば100人斬りの達成が困難になる。自覚はあるか?」
赤「目覚めたばかりでな、試し切りの必要があったのだ。まだ体が完全になじんだとは言えない。60キロある米のうち、」
オレンジが言う。「だから、先に米を集めればよかったんだよ。米を食べれば体がなじんでコントロールしやすくなる。赤。あんたは要するに斬りたかったんだろ」
青がいう。「とにかく、独断専行はこのあたりにしてもらいたい。幸い、この程度なら想定の範囲内だ。いきなり100人斬りをすれば民衆が動揺する。何人か切って慣れさせておく必要があったのも事実」
「そうだ。別に問題はないはずだ」
紫が言う。「まだ全員の紹介が終わってないよね。はい、藍色さんの番だよ」
藍色の人影が言う。「……藍、です。世直しは初めてなので先輩たちにはいろいろ教えてほしいです。ポジションは偵察です」
紫色の人影が言う。「最後はわたしだね。紫です。世直しは軽く1万を超えていますが、失敗したことはありません。ポジションは将軍兼研究者です」
緑の医師が感心した様子でいう。「ほお、1万回というのは初めて見ましたね。しかも、失敗したことがないとは大きく出ましたねえ。一応聞きますけど、虚偽申告ではないですよね」
紫が答える。「失敗したことはないのは確かだよ。回数は正直言うとよく覚えてないんだよね。1万だったか、2万だったか、10万だったか」
紫の答えに満足した緑。「いえ。答えていただきありがとうございます、紫大将軍閣下」
紫「はじめての人もいるから、まず世直しについて説明しようか。世直しはね、人を殺すことでも体制を転覆することでもない。乱れた人心に秩序を取り戻すのが世直し。具体的に言うと、悪いことをしているのに裁かれないお金や特権を使って罰せられることがないような不条理をただす。正義と法に基づく秩序を取り戻すことだよ。もちろん、そのために法で裁かれない犯罪者を正義によって裁くこともある」
青が言う。「今回のターゲットは政治家だ。この国の国会議員は不逮捕特権があり、国会会期中は逮捕されないだけでなく、役職を降りれば責任を取ったことになりおとがめなしになり、悪いことをしても選挙で再選すれば禊が済んだといって開き直る。腐敗議員に投票して再選させる有権者もたいがいだが、政治は変わらないという諦めがそうさせてしまっているところがある」
緑がいう。「くだらないですね。いつの時代もそういった特権階級、上級国民がいる。まあ、特権が問題というより、必要がなくなり形骸化した特権、既得権益が世界を悪化させてきた事例は数多くあるわけですがね」
黄色がいう。「選挙なんてくだらない。選挙なんてやるから、政治家たちのことを自分たちの代表だと勘違いしてしまうのよ。あいつらはただの税金にたかる寄生虫に過ぎないのに」
青が言う。「その点については宿主たちも議論しているところだ。民主主義を選挙制と同一視する詐欺によって民意を無視した議会制民主主義が成り立っている。それを打破する必要があるとね」
赤が言う。「要するに、悪い政治家どもを斬りまくればいいんだろう?」
青が答える。「ああ、そういうことだ。明日から都議会議員選挙が始まる。赤。君には都議会選挙では自民党の裏金議員を一人だけ斬ってほしい」
「一人だけなのか?」赤は不満そうだ。
「前にも説明したが、あまりたくさん斬ると本番の参議院選挙で100人斬りがやりづらくなる。本番は参議院選挙。都議選はそのための慣らし運転だ」
「紫。紫大将軍にもお伺いしたい。同意見なのか?」
「すでに2人斬っているし、試し切りは必要ないよね? もし必要なら一人だけ斬ったらいい。本番はあくまで参議院選挙。この戦に勝って世直しを始める。はっきりいうと、都議選はなにもしなくていいとさえ思っているの」
「心得た。将軍がそういうなら従おう。まあ、それ以前に宿主がやる気をなくしているようなのだからな」
「宿主、式目君はどうしてやる気をなくしちゃったの?」
「仲間を信じられないようだ。無理もない。2人斬ったことで世間から好きかって言われているし、彼の仲間、つまりそなたらの宿主にも人を斬ることを期待されているのだ。人斬りのプレッシャーは相当強い。式目殿が正義のために覚悟を決めるまではいましばらく待っていただきたい」
緑が同情する。「気持ちはわかりますよ。わたくしも世直し侍になる前は異端審問官をやっていましたがね、あれは自分が正義だと信じていなければ、正義によっていなければできない仕事でした。目の前にいるやつが本気で背教者で、異端を絶対に許してはいけない、そうやって自分を追い込むことで初めて魔女を狩ることができる。そういう仕事です。世直し侍の切り込み隊長も経験したからよくわかります。式目氏が、悪い政治家どもを斬るのが正義だと心の底から信じなければ100人斬りを達成することは困難」
紫が言う。「もし式目さんにできないなら緑に任せることになるよ」
緑が答える。「その時はお任せください。わたくしの宿主も正義に狂った狂信者ですからね。なにせ、死体をいじるのが大好きなネクロマンサーですから」
紫が笑う。「その言い方はずるいよ。緑の宿主って、司法解剖しているお医者さんでしょ?」
緑も笑う。「死体に対する抵抗がない。そして、死体を処理するすべを身につけている。彼なら代役を果たせるでしょうが、しかし、彼は大根役者ですからね。到底主演を演じ切ることはできそうにありません。できれば、サポートに徹する立場でやらせていただきたい」
赤が言う。「式目殿は必ず100人斬りをやり遂げる。吾輩は知っているのだ。式目殿は誰よりも正義にあこがれているのだから。彼は拍手喝さいに包まれるべき人物、主演にふさわしい」
青が言う。「なら信じよう。一応サブシナリオも組むが、メインは式目の御成敗、上級国民100人斬りだ」
赤「式目殿ならきっと」
丸いテーブルと7つのイスが虹の端に到着する。
会議は終わり、虹は消えた。
会議ばっかり続くけど、次の次くらいから話が動くはず。