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第三話 黒豹の求婚【1/3】


 鐘の音が遠ざかっていくなか、一行は都市の門を抜けた先の広場で馬車を停めた。


「アトラス商会の皆様、ここまで送っていただき、ありがとうございました。おかげで無事に辿り着けました」


 ヘンリクが馬車から降り、整った所作で頭を下げる。その隣では、リヴィが変わらぬ無表情のまま一礼した。


「こちらこそ。お怪我お大事にして下さい」


「いえ、セリカさんの処置でもう随分と癒えましたから。それに冒険の書まで頂いてしまい、本当にありがとうございます」


 セオドアが柔らかく笑う。


「私たちは、しばらくこの街を拠点にする予定です。またどこかでお会いすることもあるかもしれませんね」


「ええ。もし再びお会いできたら、その時はぜひ、お礼をさせて頂ければと思います」


 ヘンリクはそう言い、マントの裾を翻して人波へと歩み出す。


「それでは皆様。ごきげんよう」


 その後ろ姿を見送りながら、セオドアは胸の奥に小さな違和感が残っているのを感じていた。


 その疑問を最初に投げかけたのはフィオナであった。


「マックス、ヘンリクにやたら親切にしてたみたいだけど何なの?」


「顧客獲得ですよ」


 マックスはそう言うとニヤリと口角を上げる。


「顧客?冒険者でもないヘンリクが?」


 フィオナはマックスの言葉に首を傾げる。


「分かっていませんね。フィオナさん。ヘンリク様のあの身なりと立ち振る舞い......何かお気付きになりませんか?」


「まぁ上等な装備だとは思ったけど」


「本人はお忍びのつもりだったかもしれませんが、それでもあの装備......高級品です。そして隠しきれぬ、品のある所作。


おそらく......彼は貴族......いや、大貴族以上の資産をお持ちかと。そして。リヴィさんは彼の護衛といったところでしょうか?」


 マックスの推測にみんな目を丸くさせる。


「え?そうなの!?」


 驚嘆の声を上げたフィオナはセオドアと顔を見合わせる。


「僕達何か失礼に当たる様な事していませんでしたか!?」


 セオドアは焦った様にマックスに詰め寄る。


「彼が大貴族だとすれば、それはもう数々の無礼を」


 マックスは笑顔で答えた。


 マックス以外の全員の顔から血の気が引いていく。


「どうしよう、セオドア......」


「打首になったりしませんかね......」


 今更アタフタするセオドアとフィオナなにマックスは微笑む。


「大丈夫ですよ。ヘンリク様の人柄を見るに私達の空気感を楽しんでおられる様子でした」


「よかった〜......」


 二人は胸を撫で下ろした。


「大貴族ともあれば、冒険の書を売り込んでいて後々損はしませんからね。自身の領地で触れ回っていただく、“いい広告塔”と言ったところです。本当にいいご縁でしたよ」


 マックスは不適な笑みを浮かべる。


「抜かりないわね、あんた」


「商人ですので」


 ヘンリク達を見送ったアトラス商会一行は再び馬車に乗車する。


「マックスさん、新しく抑えた事務所って……」


「はい、こちらです。ギルドから徒歩五分、商業地区に近い好立地です」


 マックスが懐から取り出した鍵を軽く掲げる。


 馬車を引きながら一行が向かったのは、大通りから少し外れた住宅と店舗が混在する通りだった。


 そこにあったのは、三階建ての石造りの建物。外壁は清潔に保たれ、入口には小さな看板を掛けるスペースもある。


「思ったより……立派じゃない?」


 フィオナが驚いたように呟く。


「ちゃんと水道と屋内魔灯も整ってます。倉庫スペースもありますし、地下には各々の作業部屋も設けられています。資金が潤うまでは全員での共同生活になります」


 マックスが扉を開くと、ほのかに木の香りがした。


 中は天井が高く、広々としたエントランスが迎えてくれる。椅子や机はまだ仮置き状態だが、十分すぎるほどの空間だった。


「……住めるな、ここは」


 ドランがポツリと呟く。


「なんなら事務所じゃなくて寮でもいいかも」


 ノエルが既にクッションを手に座り込んでいた。


「それではみなさん、まず荷物を運び込みましょう」


 セオドアの号令で、全員が動き出す。


 荷車から箱を下ろし、部屋ごとに荷物を運び込む作業は、思いのほか時間がかかった。けれど誰も文句は言わなかった。新天地に腰を据える、その実感が胸の内にじんわりと広がっていたからだ。


「終わったー!!!」


 あらかたの物品の運び込みと整理が済んだ、ノエルは椅子に倒れ込む様に座ると鼻息で鼻に詰めていたメリルミントを吹き飛ばす。


「ノエル。今片付けたところでしょ」


「えへへ〜やっと馬車から解放されたからつい」


 皆で和んでいるとマックスが手を叩く。


「はい。それではみなさん」


 全員がマックスに視線を向ける。


「ブックメーカーの皆さんには冒険者ギルドへのご挨拶に行ってもらいますよ」


「そうですね。ルーメンベルに着いたらグレッグギルド長がギルドに顔を出す様に言っていました」


「えー、疲れてるのに〜?」


 ノエルが駄々をこねる様に身体をばたつかせる。


「今日は依頼を受けるわけではないので、ちょっと挨拶するだけですから」


「観念しなさい。終わったらルーメンベルの美味しいものでも食べましょう」


「ごはん......いく......」


「それではみなさん。ご挨拶、お願いします。私もルーメンベルの商業ギルドに手続きに行ってきますので」


「商業ギルドにも......僕は行かなくていいのですか?」


「今日は手続きだけですので、構いません。後日改めてセオドア代表には挨拶に行ってもらいますから」


「わかりました」


「では皆さん、冒険者ギルドに挨拶しておきましょう。ルーメンベルで活動するには、まず地元のギルドと関係を築かないといけませんから」


 セオドアはそう言うと仲間達は頷き、事務所を後にした。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

お知らせ

7/10 第一章 毒キノコループ編 1〜5話に挿絵を追加しました。よかったらみてみて下さい。

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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