第一話 冒険者フィオナ【2/3】
幕間
セオドアとフィオナ達が出会う前の話。
精霊魔法使いのノエルがウィンドミルの冒険者ギルドを訪れる。
初めての依頼をこなすのに、時間はかからなかった。
射撃訓練は子供の頃からしていたし、森の中で動物を狩った経験だってある。
冒険者になって初めての依頼は問題なくこなす事ができた。
冒険者になって、数ヶ月が経った。
私は相変わらず一人で依頼をこなし、寝て、食べて、また依頼を受ける日々を繰り返していた。
少しずつ顔を覚えられ、ギルドでもエルフであることは目立たなくなったが、それはつまり誰も私に関わってこなくなったということでもある。
――けれど、それは別に、悪いことじゃない。
「一人のほうが楽だし……」
そう言い聞かせながらも、依頼の帰り道でふと耳にした笑い声に、つい目を向けてしまう自分がいた。
二人、三人、複数人で依頼に出て、仲間内で談笑している冒険者たち。その輪に入ることを、いつの間にか諦めていたのかもしれない。
ある日、珍しく討伐依頼で別の冒険者パーティーと現場が被った。
少し離れた場所でその様子を見る。
草原地帯での戦闘中、突如現れた群れのボアを前に、パーティーは混乱していた。
「前に出ろ、ドラン!」
「もっと早く構えてくれなきゃ、こっちは動けないんだよ!」
「声出せ!急に前に立たれると盾で後ろの俺たちが見えないだろ!」
飛び交う怒声。罵声の矛先は、前衛の盾役――ドランに向けられていた。
(……あの男......あの時の)
そう。あのガストンとの一件で間に入ってくれた、無口な長身の男。名前は確か、ドラン。
彼は、何も言い返さずにただ静かに前に立ち、敵の攻撃を受け止めていた。
重い一撃が彼の盾に直撃するたびに、その腕が鈍く揺れる。けれど、ドランは一歩も退かずに仲間を庇い続けていた。
(声を出さない、反応が遅い……そういうふうに見えるのかも知れない。でも……)
フィオナは見抜いていた。
ドランの動きは、慎重で丁寧だった。仲間の位置を確認し、後衛が矢や魔法を放ちやすいように体勢を整え、敵の攻撃を引き受ける。
彼の立ち回りには、計算された意図があった。ただ、それを周囲に伝える手段が、あまりに乏しいのだ。
「……っ!」
ある仲間が、ドランの背後から回り込んできたモンスターに気づかず襲われそうになった。瞬間、ドランが反応し、咄嗟に盾でその一撃を受け止める。
だが、また怒声が飛ぶ。
「ちゃんと引きつけとけよ!」
「なんで黙って動くんだよ!」
彼の堅実な働きは、誰にも伝わっていなかった。
――戦闘が終わった後、ギルドの前で水を飲んでいたドランに声をかけた。
「……よくあんな奴らと組めるわね。あんたが守ってなかったら、何人かやられてたわよ?」
ドランはちらりと視線を向けるも、やはり何も言わない。
「あんた無口だけど、本当はみんなのことをよく見てるわよね」
ドランの手が、ほんのわずかに止まった。
数秒の沈黙。彼は何も言わなかった。
けれど、その表情に、ほんの僅かな驚きと戸惑いが浮かんでいるように見えた。
「私はフィオナよ。前にガストンから庇ってくれたでしょ?」
「......」
ドランは黙って少し頭を下げるとのそのそとギルドに入っていく。
優秀なんだろうけどコミュニケーションは壊滅的ね......
ウィンドミルの冒険者ギルドに、新たな風が吹いたのは、その数日後だった。
受付の前に立つ、見慣れない少女。肩までの白髪に年齢不相応の大きな杖。そして、年齢相応の無邪気すぎる笑顔。
「精霊魔法使いのノエル!今日からよろしくお願いしま〜す!」
魔法使いという肩書きもあって、彼女は瞬く間に注目を集めた。
「魔法使いか!是非俺らのパーティーに入ってくれ!」
「魔法使いを探してたんだ!」
しばらくは引く手あまただった。今日も誰かと依頼へ、明日もまた別の誰かと――そんな日々が続いた。
自分にはなかったイベントに少し、不貞腐れた様に飲み物を啜る。
「私の時はあんなじゃなかったのに......」
「まぁ、魔法を扱える人はウィンドミルでもそう多くはないですからね」
カウンターの向かいのミアが不貞腐れる私をフォローする。
けれど――。
「ちょっとノエル!なんで今魔法打ったの?」
「えぇ〜?だって今しかないって精霊さんが言ってたもん〜」
「おい、ノエル!話聞いてるのか!」
「へ?あぁごめんごめん!今精霊さんとお話ししてるから後でいい?」
明らかにノエルはパーティーの中で浮いていた。
精霊の声を聞いて動く。直感で魔法を撃つ。敵味方の配置より、精霊の機嫌を優先する。
そんなノエルの“独特すぎる”様子に次第に距離を取る者が増え――やがて、彼女へのパーティーの誘いは途絶えた。
それでもノエルは笑っていた。というより、気づいていないように見えた。
「誰か〜依頼行こうよ〜!」
クエストボードの前で明るく他の冒険者にノエルは声をかける。
「あ!ロバートくん!一緒に行こ〜」
「悪いな......今日はパーティー人数埋まっちまってるんだ」
声をかけられた冒険者はそそくさとノエルから離れていく。
「あ!ルイーゼちゃん!また一緒に行こう〜」
ノエルが声をかけた女性冒険者は明らかに悪態をつく。
「......いやよ!あんたみたいな不思議ちゃんとはもう行かないわよ!二度と話しかけてこないで!」
明らかな拒絶にノエルは笑顔のまま固まる。
「あらら〜また断られちゃったな......」
ノエルは一人恥ずかしそうに頭を掻く。
最初は嫉妬心からザマァみろと思っていたが、次第に孤立していくノエルに居た堪れなくなっていた。
ある日の夜、ウィンドミルの風車の上に立つノエルの姿を見つけた。
「まさかあの子、飛び降りるわけじゃ無いよね......ったく!」
フィオナは急いでウィンドミルの風車の上へと向かう。最上部に差し掛かるとノエルの話し声が聞こえて足を止める。
「どうやったら友達できるかな〜......」
誰からの返答もなく、ノエルは「ふふふ」と微笑む。
「精霊さん達が友達だって?ありがとう〜」
ノエルはまた一人で話し始める。今までは楽しげに身体を揺らしながら話していたが、ぴたりと動きを止めた。
「でも......みんな、私が変だって......いうんだ」
ノエルは膝を抱える。
「みんなには精霊さん達が見えないからね。私が誰もいないところに向かって話すのが気持ち悪いんだって......」
ノエルは鼻をすする。
……あの子、泣いてるの?
「……大きな街に来たら、何か変わると思ってた......でも、やっぱり……一人になっちゃったな......」
肩を震わせるその背中が、風の音にかき消されてしまいそうだった。
「……友達が……欲しいよ……」
涙混じりの声が、夜空に溶けていく。
――気づけば私は、ノエルの隣に立っていた。
「ノエル」
ノエルは驚いて跳ねるように肩を揺らした。
「うわぉっ!? び、びっくりした~……!」
「私はフィオナよ」
「フィオナ……ちゃん? どうしてこんなところに……?」
「私も、一人なの」
「フィオナちゃんも……?」
そして、私は言った。
「……私と、友達にならない?」
ノエルは目を丸くして、しばらく動かなかった。
けれど、やがて――
「……なる!なるなるなるっ!なりたいよ!」
ぱあっと、笑顔が咲いた。
「ノエル!右の方お願い!」
「合点承知の助!」
二人で組んだことにより、攻撃の幅に広がりを見せていた。
フィオナとノエルはハイタッチをし、笑い合った。
しかし、フィオナとノエルが組んで数日。女子二人での依頼は順調……とは言いがたかった。
ノエルの精霊魔法は強力だったが、状況によっては発動にムラがあり、フィオナの弓と合わせて遠距離攻撃に偏っていた。
自分の弓とノエルの魔法でモンスターが食い止められない。
「ちょっとノエル!もっと強力なの撃てないの!?」
モンスターに追いかけられながら二人して走って逃げる。
「精霊さんが今は気分じゃ無いって!」
「気分って何よ!ちょっとそいつぶん殴らせて!」
「駄目だよ!何言ってんの!精霊さんかわいそうでしょ!」
「だぁー!!こんちくしょう!!」
しばらく駆け回り、モンスターから逃げ切った二人は息を切らしてその場にへたり込む。
二人だけでは敵との距離を詰められたときの対処が難しく、対応にも限界があった。
「やっぱり……前衛がいないと......近付かれた途端詰むわね......」
「同感だよ〜......フィオナちゃん、誰か当て無いの〜?」
「当て?そんなのいたら私も一人でやってこなかったわよ」
疲れ切った二人は、ギルドのロビーに置かれた椅子にへたり込んだ。
そのとき、近くの冒険者たちの話し声が耳に入る。
「ドランって奴、またパーティーをクビになったらしいぜ」
「ああ、あいつか。相変わらず無口で、何考えてんのか分かんねぇからな……」
フィオナはそっとギルドの隅を見た。壁際の椅子に腰掛け、水を飲んでいる長身の男――ドランが、ひとり静かに目を閉じていた。
「いた……!」
ハッとして、すくっと立ち上がる。
「“いた”って、何が?」
「当てよ。当て!」
ノエルが問い返す頃には、フィオナはすでにドランへと足を進めていた。
「ドラン」
ゆっくりと目を開けた彼は、無言のまま、二人をじっと見つめる。
「私たちと、組まない?」
「えぇっ!? いきなりスカウトするの!?」
「寡黙だけど……仲間のこと、ちゃんと見てるの、知ってるから。動きも無駄がないし、盾役としても一流。仲間にするならドランしかいないわ!」
「フィオナちゃんがそう言うのなら……」
ノエルが不安げに、ドランの表情をうかがう。
「ねえ、ドラン。聞いたわよ。あんた、パーティーをクビになったんだって?」
「フィオナちゃん、それ唐突すぎるよ……」
「ドランの実力が見抜けないパーティーなんて、気にすることないわ」
ドランは黙ったまま、フィオナとノエルを交互に見つめた。
そして――
「……わかった」
驚いたように、ほんのわずかに目を見開くと、静かに、しかし確かな声でそう答えた。
「わあっ、しゃべった!」
ノエルが両手を叩いて飛び跳ね、フィオナは思わず吹き出す。
こうして――フィオナ、ノエル、ドランの三人は、正式にパーティーを組むことになった。
幕間を読んで頂きありがとうございます。
ノエルの過去話は泣けると思って本編に入れたかったのですが幕間の機会に入れさせて頂きました。
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次回もどうぞよろしくお願いします。




