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 第十八話 決戦始動【2/2】


 告知から三日目――。



 黄昏の空の下、ウィンドミル北方の廃墟に、不穏な気配が集まり始めていた。


 瓦礫に囲まれた広場には、フードを被った冒険者たちが数人ずつ姿を現し、ぽつり、ぽつりと集まってくる。


 ガストン、キール、フェルト――前回と同様の顔ぶれだ。


 セオドアは廃墟の屋根裏、見晴らしのいい影に潜みながら、息を殺していた。


 手には、常に魔力を流し続けている記憶結晶。


 ごく小さな振動と光が、記録の起動を示していた。


(順調に録れてる……。これで証拠として残せる)


 その場にいる誰もが、セオドアの存在に気づいていない。


 ――今はまだ、戦うときではない。


 下ではガストンが声を上げ、実地研修の内容や新人の動きについて報告し始めた。


「場所はクローヴの森。魔物の誘導が済めば、“事故”として片付けられる」


 「数日後には確実に接触できる」


「今度こそ、あの小僧ごと消し去る」――


 セオドアは一字一句を逃さず記録しながら、ゆっくりと息を吐いた。


 その瞬間――。


「何をしている......」


 耳元で、低く冷たい声が囁かれた。


 ぞわり、と背中が凍りつく。


 振り返るとそこには、ウィンドミル最強のバルトが立っていた。


 闇の中に溶け込むようにして、いつの間にか背後を取られていた。


(影踏みの牙......!)


 セオドアは咄嗟に記憶結晶を懐に隠し、距離を取る。


「……悪党が悪巧みをしていたので」


「......そうか」


 バルトは静かに笑った。その眼光は、冷たい炎のようだった。


 その時、バルトの吹き抜ける様な斬撃がセオドアを襲った。


 廃墟の上部に衝撃が起こった。


 下で待機していたブックメーカーの仲間たちも異変に気づいた。


 ノエルが小声で囁く。


「……セオドアくんに何かあったかも。全員、展開!」


「了解。まずは――フェルトからね」


 フィオナが頷き、腰に装備していた小型の魔道具を手に取る。


 それは、セリカがこの作戦のためだけに開発した“魔力抑制具”――《封呪環〈シール・リンク〉》。



 廃墟の上部で衝撃が起こり、下の階まで何かが降ってくる。


「なんだ......!?」


 下に集まっていた反対派の冒険者達は突然の衝撃に動揺する。


 埃が晴れて降ってきた何かが段々と姿を表す。


「ほぉ......仲間も連れていたか」


 バルトの低い声が聞こえた。


 埃が晴れ、そこにはセオドアとバルトの剣撃を受け止めるドランの姿があった。


「こ、小僧!」


 セオドアの姿を確認したガストンが声を上げた。


「今です!」


 セオドアが声を上げると、フィオナとノエルも廃墟へ突入する。


 フェルトが戦闘体制に入ろうと杖を構える。フィオナが矢をつがえ、ノエルが精霊魔法を放つ。


 ノエルの精霊魔法が反対派の足元に着弾し、衝撃で敵は目を覆う。


 フェルトの構えた杖にフィオナの放った矢があたり、フェルトの手元から杖が弾かれる。


「つ、杖が!」


「フィオナ!」


「わかってる!」


 フィオナはすかさずフェルトに《封呪環》を投げつける。


「なんだ!?」


 封呪環はフェルトにぶつかると瞬時に絡みつき、拘束する。


 フェルトの身体から魔力が抜けるように力を失い、呪文が中断された。


「……く、ああっ……!」


 それを見ていた他の反対派冒険者たちが動揺し、一瞬陣形が崩れる。


「セオドアを援護!」


 合図を受け、ブックメーカーの三人が一気に動いた。


 セオドアはバルトの剣閃をギリギリでかわしながら、声を張り上げた。


「他の制圧をお願いします!」


 バルトの目が、僅かに細められる。


(こいつら......いつのまに......)


 次の瞬間、バルトは自身の影に右足を沈めた。


 まるで影の中に沈んでいく様に姿を消す――《影踏みの牙》が発動する。


 その黒い斬撃が、セオドアの背後から襲いかかっていた。


(――来る!)


 セオドアはブレイン・ブーストで集中を高めながら、後方に跳躍し、盾で防ぎきったドランの背後に滑り込み、バルトに切りかかり、鍔迫り合いに持ち込む。


 廃墟の中央に展開した戦場では、ブックメーカーの面々が各個に動いていた。


 ドランは正面から突っ込んでくる戦士タイプの冒険者と盾をぶつけ合い、受け止めるたびに《鉄壁装甲》の魔力を圧し返すように放っていた。


 吹き飛ばされた敵の身体が、壁にめり込む。


 ノエルは空中に舞うように跳ねながら、四属性の精霊たちを同時に指揮して戦場を制圧していた。


 地面から這い上がる炎、水の渦、風の刃――それらが敵の足元を奪い、前線を分断する。


「道を作ったよ! 次はフィオナ!」


「了解!」


 フィオナは視線の先にいた、あの男――ガストンを見据えた。


「くそ!耳長ぁ……!前々からテメェは気に入らなかったんだよぉ!!」


 ガストンが剣を振りかぶる。だが、フィオナの目は怒りに静かに燃えていた。


「奇遇ね!私もあんたが気に食わなかったのよ!」


 彼女は駆けた。


 拳を握る。その感触に、セオドアが過去のループで味わった悔しさや怒りを思いやる。


 初めて仲裁に入ったあの日。


 セオドアを庇って、あの男に真正面から立ち向かったあの日。


 何度、何度も――。


「今までのぶん、まとめて返すわよ!」


 ガストンの剣が振り下ろされるその瞬間、フィオナの拳が、その顎に突き上げられた。


 ぐらりとガストンの身体が浮く。


「なっ……!?」


 次の瞬間、フィオナの回し蹴りが脇腹に突き刺さる。


 ガストンの巨体が吹き飛び、瓦礫を転がる。


 それでも立ち上がろうとする彼の前に、フィオナが再び立ちはだかった。


 フィオナの瞳は、まっすぐに射抜いていた。


「あんたの嫌がらせにはうんざりよ、ガストン!」


 鋭い打撃が、続けざまに繰り出される。腹、顔面、膝――そして最後に、真っ直ぐな拳が胸板を撃ち抜いた。


「ぐはっ……!」


 ガストンの膝が折れ、地面に倒れる。


 動けない。その顔には、戦意すらもう残っていなかった。


 フィオナは「フン」と鼻を鳴らして、拳をおろした。


「あー、スッキリした!」


 ノエルはその様子を見て「恐ろしや〜」と声を上げる。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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