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第三話 村唯一の魔法使い【1/2】


挿絵(By みてみん)



 エルダは十ヶ月前に村へ戻ってきたヒルクレスト唯一の魔法使いだ。


 気難しくて、人を寄せ付けない――それが村の評判。


(頼れるのは、あの人だけ。……けど、まともに取り合ってくれるか?)


「エルダさん、今ちょっといいですか?」


「駄目。今は忙しいのよ。見てわからない?」


 エルダは本音を隠そうともせず、石碑から視線を動かさずに言い放った。


 その声には明らかに「話しかけるな」という苛立ちが滲んでいる。


「ごめんなさい。この石碑の魔法陣を書いたのはエルダさんですよね?」


 セオドアは怯まず、しかし慎重に言葉を選んだ。


「そうよ。私が魔法陣を書いて、石工達に彫らせたのよ」


 エルダはちらりとセオドアに視線を向けたものの、すぐに魔法陣へと戻した。


 セオドアはためらいながらも言葉を続ける。


「ヒルクレストで魔法陣なんて見たことないので、こんな複雑な魔法を書いたエルダさんはすごいと思っていまして……」


 お世辞とも本心ともつかないセオドアの言葉に、エルダはようやく石碑から顔を上げた。


 その目は、少しだけ興味を宿しているように見えた。


「あんた……セオドアね。ガキンチョが何の用なの?」


 セオドアのお世辞が功を奏したのか、エルダが話に少しでも興味を持った様子だった。


 今がチャンスとばかりに、セオドアは本題に入っていく。


「実は魔法絡みで困っていることがあって……相談できるのはこの村じゃエルダさんしかいなくって」


「それって今日じゃなきゃ駄目なの?明日……いや、明後日あたりなら相談に乗ってやってもいいわよ。ただし魔法を教えろとかならお断りよ」


 エルダは腕を組み、面倒くさそうに言った。いつものことながら、彼女の態度はどこか素っ気ない。


「いやいや、魔法を教わりたいとかではなくて、今日までに解決しないといけないことでして……」


「はぁ?今日?急に来てそれはないんじゃない?」


 エルダは露骨に不満そうな表情を浮かべ、眉を吊り上げた。


「勿論!お礼はさせてもらいます!」


 セオドアは希望を込めてそう言った。エルダの性格を考慮し、最も効果的な「お礼」を思い浮かべる。


「お礼?ガキンチョのお礼なんてたかが知れていると思うのだけど?」


 エルダの目には先ほどとは違う種類の光宿った。


「いえ!今日の祭りでお酒を好きなだけ奢ります!」


 セオドアの言葉に、エルダの表情が一変する。その目は明らかに輝きを増した。


「奢り……!」


 エルダは感情を表情に出してしまった事を隠すようにすぐにしかめっ面に戻す。


「いいわ!話だけでも聞いてみようじゃないの!」


「ありがとうございます!」


 セオドアは安堵の息を吐き、昨日からの出来事を慎重に言葉を選びながらエルダに説明し始めた。


 毎日祭りの日を繰り返していること。


 一日の終わりにはレッドデスキャップの毒の症状が出て気を失うとまた祭りの日の朝に戻っていること。


 レッドデスキャップの症状で意識を失う前に、謎の男がレッドデスキャップの毒で死ぬビジョンが脳裏によぎること。


 食事を一切口にせずとも、レッドデスキャップの症状が現れたこと。


 一通り話し終えたセオドアは、石碑の傍らに腕と足を組んで座るエルダに、興味なさそうな表情の奥にある本心を探るように目をやった。


「へぇー時間が繰り返されている……


ーーつまりは《タイムループ》ね。


魔法学校にあった書物にそういう魔法現象の記述があったような気がしないでもないけど」


 エルダは腕を組み、顎に手を当てて考え込む素振りを見せた。


 その表情は、普段の面倒くさがりな彼女からは想像できないほど真剣に見えた。


「《タイムループ》……!


エルダさんなら僕に起こっている、その……


タイムループをどうにかできたりしないんですか?」


 セオドアはわずかな望みを託して身を乗り出した。エルダの言葉一つ一つに、彼の未来が懸かっているように感じられた。


「いやいや。無理無理。


タイムループが本当だとしたら私には手に負えない。それにあんたには魔法の痕跡は見えないわ」


 エルダは見事にセオドアの期待を打ち砕き、言葉には容赦がない。


「魔法による現象じゃないということですか?……では、呪いだったり?」


 セオドアは食い下がった。何かしらの原因が知りたかった。


「あんたの場合だとその謎の男ってやつとの《死の同期》ならあるいは可能かもしれない……」


「《死の同期》……!そんな呪いがあるんですね!」


「あるにはあるらしいけど、あんたの言っている現象が本当なら相当高度な呪いで制約もかなりきついわ。


つまり、あんたに知られずにかけられる代物じゃないってこと。それにあんたから呪いを感じないの」


 エルダはつまらなそうに首を振る。


「呪いでもない……じゃあ僕はどうしたら?」


 セオドアはすっかり希望を失いかけていた。肩を落とし、その場に崩れ落ちそうになる。


「知らないわよ。私はこんな辺境の村の魔法使いよ。そんな面倒なことに巻き込まれるなんて、まっぴらごめんよ」


 エルダはセオドアの問題を他人事のようにしか捉えていない様子だった。


「悪いけど、私はタイムループなんて専門外なの。


専門にしている魔法使いがいるのかも怪しい分野よ。


そ・れ・に!」


 エルダは言葉を強調してセオドアに指を指す。その指先は、まるで彼を詰問しているかのようだった。


「魔法も呪いの痕跡もないなら、あんたの虚言って判断しても仕方がないんだから!」


「そんな!虚言だなんて!


エルダさんの酒代なんて安いもんじゃないですし!


そこまで高いお金払って嘘なんかつきませんよ!」


 セオドアは必死に反論した。


「……ちょっと待って……


ーーなんで私の酒代が高いって知ってるのよ?」


 エルダの目が丸くなる。その声には、驚きと少しの警戒が混じっていた。


「……この後の酒盛り大会で、エルダさんが優勝してたのを見たんです。それでお酒が好きなんだろうなって……」


 セオドアは正直に答えた。エルダの表情は、困惑から真剣なものへと変わっていく。


「……この話は誰かにしたの?」


 エルダの問いかけに、セオドアは首を振った。


「いえ、自分の現状もようやく整理できたのも今回のループでしたので、ちゃんと話せたのはエルダさんだけです」


「そう……まったくっ!厄介なことに巻き込まれたのね!それで次はどうするつもり?」


 エルダの口調が、少しだけ角が取れたようになった。彼女なりに、セオドアの言葉に信憑性を感じ始めたようだった。


「そうですね……


謎の男が食べたレッドデスキャップの毒の症状が僕に現れたときはエルダさんに解毒してもらうことはできますか?」


「まぁレッドデスキャップの解毒はできるかもしれないけど、あんたが食べたわけじゃないから何とも言えないわね……


その男が食べたせいで強制的に症状を押し付けられているのだとしたら、その男を治療するしかないと思うのだけど……まぁやってみないとわからないところね」


 エルダは腕を組み、難しい顔で呟いた。


「では解毒をお願いしても……?」


「……仕方がないわね」


 エルダは諦めたようにため息をついた。その表情には、少しばかりの優しさが滲んでいるように見えた。


「ありがとうございます!」


 セオドアは思わず大きな声でお礼を言った。


「で?その男が現れる場所はわかっているの?」


「はい!丁度ここなんです!ビジョンの中で確かに今日設置した、この石碑が見えていました!


ビジョンでは夜だったので、もしかしたらその男は今夜、ここに現れてレッドデスキャップを食べるのかもしれません!」


 セオドアは石碑を指差し、熱弁した。


「本当にここ?確かに村の近くの森にはレッドデスキャップは自生してるけど、この石碑の周りには生えてないわよ?」


 エルダは懐疑的な目で石碑の周りを見回した。


「……そうですね。森で見つけた物を持ち歩いていて、空腹で食べてしまったということでしょうか?」


「まぁ、あの見た目のレッドデスキャップを口にするくらいの馬鹿の行動を考えても仕方がないわ」


 エルダは呆れたように肩をすくめた。


「ビジョンの男がレッドデスキャップを食べたのが僕に毒の症状が現れた時間だとしたら祭りが終わった後だと思います」


「じゃあ祭りが終わったあとここに来れば、そいつがレッドデスキャップを食べるのを阻止できるんじゃない?」


 エルダは閃いたように言った。


「そうですね!祭りが終わった後、一緒に来てもらってもいいですか!?」


 セオドアは期待を込めてエルダを見つめた。


「はぁ?いやよ!私は気にせず祭りを楽しみたいのよ!」


 エルダは即座に拒否した。その声は、祭りのこととなると一変して子供じみている。


「えぇ!?」


 セオドアは思わず声を上げた。


「そいつがレッドデスキャップを食べるのを阻止したら、そもそもあんたに毒の症状は現れないでしょ!?私がいく必要なんてないでしょう!?」


 エルダは不機嫌そうにまくし立てる。


「もしもの時は解毒してくださいよ!」


「解毒が必要じゃないかもしれないのに!?」


 セオドアとエルダがそうやって言い争っていると、ベンジャミンが急いで駆け寄ってきた。


「おいおい、セオドア!」


 ベンジャミンが仲裁に入ったことで、エルダは不機嫌そうにそっぽを向いた。


 それに対してセオドアも少しムッとする表情を浮かべた。


「なんだ、お前らいつから仲良かったんだよ?」


 ベンジャミンが馬鹿にしたようにそう言うと、エルダは食ってかかる。


「仲良くなんかないわよ!」


「あー……」


 ベンジャミンはセオドアの肩に手を置くと耳打ちする。


「セオドア……お前……さっき言ってた野暮用がまさかエルダにナンパとはな……村に若い女が少ないとは言え、ああいうのがタイプなのか?」


「だからそう言う事じゃないってベンジャミン……」


「わかったわかった」


「わかってないだろ……」


 セオドアがベンジャミンのからかいに頭を抱えていると、エルダが面倒くさそうに眉を吊り上げた。


「もううるさい!ガキンチョ共!準備の邪魔よ、散りなさい!」


 エルダは癇癪を起こしたようにセオドアとベンジャミンに怒鳴る。


「エルダさん……あの……」


 セオドアが解毒の件について再度確認する。


「もう!わかったから!どっか行け!」


 エルダはこの状況に嫌気がさしたのか、渋々引き受けた。


「ありがとうございます!」


 セオドアはお礼を言うと、勘違いでニヤニヤしているベンジャミンの腕を掴んでその場から離れようとする。


「行くよ、ベンジャミン」


「おい、今のなんだよ!まさかデートの約束オッケー貰ったのか!?」


「だから違うってベンジャミン!行くよ!」


 勘違いをするベンジャミンを引きずるようにして、セオドアはその場から離れた。


 ……けれど、今夜の運命は変えられるかもしれない。今度こそ、僕はこの祭りの日から抜け出して見せる!


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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次回もどうぞよろしくお願いします。

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