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第二話 レッドデスキャップの毒【1/2】

挿絵(By みてみん)


 朝陽がセオドアの顔に差し、鳥の囀りでセオドアは目覚める。


 セオドアは飛び起きて辺りを見渡す。


 何も散らかっていない自室。


「そんな……」


 嫌な予感がする。


 セオドアは急いで食料袋に駆け寄り中身を確認すると絶望した。


「なんであるんだよ……」


ーーそこには昨日食べたはずのりんごと黒パンが食料袋の中に入っていた。


「またかよっ!!」


 感情的になったセオドアは食料袋の中身を床にぶちまける。


「ま、また昨日と一緒だ……!?なんで?なんで?なんで!」


 セオドアは頭を抱えて床に散らばる食料に目をやった。


 昨日意識が途切れる前に至った推測を思い出す。



ーー誰かが食事にレッドデスキャップの毒を混入させた?



 セオドアは口にした物を思い出す。


「村で買ったりんご、アグネスのパン屋で買った黒パン。


ロバートさんに貰ったトマト……

祭りでベンジャミンから貰ったビスケットに祭りの料理……

ぶどうジュース……


ーーどれかにレッドデスキャップの毒が入ってた?」


 その考えにセオドアはごくりと生唾を飲み込む。


「アグネスさんはヒルクレストで唯一のパン屋噂好きで少し煙たがる人もいるけど悪い人じゃない……


ロバートさんだってあんなに作物に優しい人が自慢の作物に毒を仕込むなんて事はしない筈だ……!


祭りの料理だって村の人たちが総出で用意したもの……


みんな悪い人たちじゃない……


ーーもしかしてベンジャミンがくれたビスケットに……??」


 セオドアはヒルクレスト村の村人達の顔を思い浮かべ、ぶつぶつと呟いた。


 ベンジャミンの無邪気そうな笑顔が頭を過ったその時、ベンジャミンを疑った自分に気が付いた。


 セオドアは机に拳を勢いよく叩きつけた。


「くそっ……!親友のベンジャミンを疑うだなんて..なんて僕は最低なんだ……!


ベンジャミンだけじゃない……!


村の人達はみんないい人達だ……!


毒を仕込むだなんて……!」


 セオドアは何度も机に拳を叩きつける。


 しかし、一日の終わりに襲いくる症状は紛れもなくレッドデスキャップの毒。


 どこかのタイミングで毒がセオドアの体内に入ったのは間違いがない。


 この謎を解かなければ、ずっとこの一日を繰り返さなければならないのかもしれない。


 そんな中セオドアは一つの案を思いつく。


「そうだ……


今日は何も口にしなければいい……


そうすれば、レッドデスキャップの毒を僕が摂取することもない!」


 セオドアはその考えで少しずつ冷静さを取り戻す。床に散らばった食料を食料袋に詰め直す。


 無意識に水を飲もうとして水瓶の水をすくうが、ここまでくれば水さえも疑わしくなってくる。


 セオドアは水を睨むも、飲む勇気が湧かず水瓶に戻した。セオドアは何も口にする事なく、斧を担いで小屋を後にした。


 想像通りヒルクレストは同じ一日を繰り返していた。


 アグネスはまた家の前でメアリー婦人と噂話をしている。パンに毒を仕掛けたかもと欠片でも疑ってしまっているセオドアはぎこちない笑みで挨拶する。


 セオドアの横を元気にリリーがかけていく。


「セオドアおはよー!今日は祭りだよー!!」


 そう言って派手に転ぶ。


(やっぱり、昨日と同じ……祭りの日を繰り返している……)


 セオドアは村の住民達を目で追う。


(僕が毒を食べたのなら……

ーーこの村にいる誰かが、僕に毒を盛った?)


 セオドアは同じ行動を繰り返す村人を疑いの目で追ってしまう。


 村長はせっせと村の大人達と祭りの準備をしていて、石工のベンジャミン親子が石碑を運んでいる。


 ベンジャミンはセオドアに気がついていつものように会話をする。


 しかし、今朝ベンジャミンを疑ってしまった罪悪感からか上手く目が合わせられない。


 ベンジャミンも少しぎこちないセオドアの様子に首を傾げていたが、父のルーカスに呼ばれて去っていく。


「じゃあまた昼にな!セオドア!」


 村を後にしたセオドアはロバートに話しかけられ、いつものように長話を聞きていた。


「それでこの子は……っとすまんすまん。家内と違ってセオドアは私の話をいつも聞いてくれるからついつい長話をしてしまったな。それにしてもセオドア少しやつれている様に見えるが大丈夫か?」


 ロバートは朝から何も口にしていないセオドアの様子をどこか感じ取ったのか体調を気にする。


「あ、いえ……今朝は寝坊してしまって朝食が取れなかっただけなんですよ」


「あーいかんいかん。育ち盛りの若者が食事を抜くだなんて。ほれ、トマトさん達をもっていきなさい。仕事前にしっかりと食べなきゃ力も出なんぞ」


 そう言ってロバートはトマトをセオドアに手渡した。


 セオドアは艶のいいトマトを見て今は「美味しそう」ではなく「これに毒が入っていたら……」と考えてしまう。


 故に優しいロバートの心遣いを恐ろしく思えてしまった。


「あ、ありがとうございます。有り難く頂戴しますね」


「大丈夫か、セオドア?」


「大丈夫です……気になさらないで下さい」


 ロバートは少しぎこちないセオドアの様子に心配する様子を見せたが、セオドアは仕事があるからと作業場を目指し始めた。


(ごめんなさい……ロバートさん。このトマトは今日を終える事ができたら必ず頂かせていただきます)


 そう心の中でロバートへ謝罪し、トマトを鞄の中へと入れ込んだ。


 伐採場についたセオドアは再び昨日の作業が無駄になっている光景に苛立ちを見せた。


「また最初からか……」


 空腹と喉の渇きから少しの事で苛立ちを覚え、作業が雑になっていく。


 セオドアは太陽が真上に昇る頃にはどっと疲労を感じていた。


 喉は乾いているし、お腹も空いている。15歳の育ち盛りの身体に飲まず食わずは少し堪えるものがあった。


 何度か空腹から鞄の中にあるロバートのトマトを確認したが、そこには毒なんて入っているはずもない艶やかなトマトがあり、誘惑に負けそうになる。


 しかし、祭りの夜に自分に襲いかかる毒キノコの症状を思い出すと吐き気を催し、一気に食欲が失せる。


 なんとか仕事の作業を終えて村へ戻ることにした。


 村に戻る道中、作業中は頭が働かない事もあり、今自分に起こっていることについて状況整理まで考えが及ばなかった。


 しかし、空腹状態に慣れてきたことで少しずつ思考が進み始め、自身の状況を整理し始める。


ーー第一の疑問。


 僕は何故同じ一日を3日も繰り返しているのか?これが1番の僕の問題である。正直検討もつかない。


 魔法か?呪いか?どこかのタイミングでエルダさんに相談してみようか?


 何か魔法によるものであれば解決してくれるかもしれない……


ーー第二の疑問。


 一日の終わりに何故レッドデスキャップの毒の症状が現れるのか。


 僕は自分からレッドデスキャップを食べるような馬鹿な事はしていない。


……とすれば僕が気付かずに口にしていた可能性がある。


 朝食や……ロバートさんにもらった野菜。祭りで出てきた料理にレッドデスキャップの毒が含まれていたかもしれない……


ーーそれなら誰が……なぜ僕を……?


 恨まれるような事はしていない、つもり……まぁ恨みを買う時には買われた人は気付かないものか。


 考えれば考えるほど、疑心暗鬼になってくる。今日僕が何も口にしなければにいい筈だ。


ーー第三の疑問。


 一日の終わり、レッドデスキャップの症状が出た後に頭の中で再生されるビジョン。


 謎の男が毒キノコを食べて死ぬ場面。正直これはに関しても全く検討つかない。


 ただ共通点として僕と同じ症状が出ていることだ。


 今日進展がなければ、問題はこの男にあるのかもしれない。


 そうこう考えているといつのまにか村に到着していたのかベンジャミンの声が聞こえた。


「セオドアー!こっちこっち!」


 いつものようにベンジャミンが袋にアグネスの出している出店のビスケットをいっぱいにして駆け寄ってくる。


 セオドアが毒が入っているかもしれないと疑っている食べ物をバリボリと食べるベンジャミンをみて今更ながらに一つの推測が上がった。


(毒が入っていて僕を狙ったわけじゃなくて……


ーー無差別に毒を混入させていた場合もあるじゃないか!)


「べ、ベンジャミン……」


「あ、今のおすすめはこのあたりじゃ手に入らないグリーンベリーのビスケットだ」


 そう言って見せたビスケットを頬張り「美味しー」と喜んでいる。


(正直もう手遅れか……)


 村の人達を見渡してもすでに皆何かを口にしている様子で今更止めようもないことに気がつく。


「美味しそうで何よりだよ、ベンジャミン」


「おぅ。セオドアも食うか?」


「いや、今日はお腹の調子が悪いみたいで遠慮しとくよ」


「マジで?祭りの日に災難だなセオドア」


「本当だよな」


 お気楽なベンジャミンにセオドアは苦笑いを浮かべた。


(どうか……!みんなの食べ物には毒が入っていない様に……!)


 そうこうしていると住民達は村の外れにある石碑へと移動を始めた。


 村外れの街道ではこれまでと変わることなく村長の話とエルダによる石碑に魔除けの魔法を付与は問題なく終わった。


 セオドアはエルダが前を通った際に自身の身に起きている事象について相談しようと声を上げる。


「え、エルダさん……!ちょっといいですか!」


 セオドアが声を上げた途端にベンジャミンがセオドアの肩を掴んだ。


「おい!セオドア。俺の野次の事チクるんじゃないだろな!」


「違うよベンジャミン!」


 空腹と喉の渇きからうまく舌が回らず声量が出なかった。


 加えてベンジャミンの横槍のおかげエルダはセオドアを一瞬だけ横目に見て、他の住人達に魔法の称賛を受けながら村の方へと移動してしまった。


「セオドア……エルダは確か25歳だぞ。年上の女性を狙うにしたって、あのエルダはなー」


 ベンジャミンはセオドアの肩にそう言って手を置いた。


「そう言うのでもないってベンジャミン……」


 もう空腹と喉の渇きから頭が回らずベンジャミンの冷やかしにもツッコミを入れる事ができなかった。


 その後もセオドアは祭りの食事や飲み物にも手を出さずに空腹と喉の渇きに耐えた。


 正直レッドデスキャップの症状を思い出すと一気に食欲がなくなる。セオドアはおかしな動きをしている住民はいないか目を光らせた。


 そんな様子に流石のベンジャミンも心配した様子で声をかけてきた。


「セオドア?腹の調子そんなに悪いのか?もう祭りはやめて帰るか?」


「いやいや、本当に腹がちょっと痛いくらいなんだ」


「そ、そうか?」


「あ、ほら!酒盛りもついにエルダさんとルーカスさんだけだぞ?」


 セオドアがベンジャミンの意識を祭りの酒盛り大会へと移させる。


「お?ほんとだ!父さんいけーいけー!ってかエルダってあんなに酒強かったんだな!」


 エルダとルーカスが一杯、また一杯と同時に酒を飲んでいく。


 段々とルーカスは頭が下がっていき遂にはテーブルに突っ伏した。


 その瞬間、エルダが酒盛り大会の優勝者として勝鬨を上げた。


 住民達も歓声を上げてエルダを称賛する。


 酒盛り大会が終われば、祭りもいよいよお開きだ。セオドアは今日は何も口にする事なく過ごした。


 住民達も全ての行動を追えていたわけじゃあないが不審な動きをする住民は誰一人いなかった。


 少しの安堵から眠気さえ感じる。


 ベンジャミンとセオドアは帰路につき昨日のように言葉を交わして別れた。


「おう、おやすみー」


 ベンジャミンの帰る背中を見送るとセオドアも力のでない足でふらふらと自宅に戻る。


 自宅に着くなり、ベッドに転がり眠気に身体を預けた。


「今日は何も口にしなかったから僕がレッドデスキャップを食べた筈はないのは確実……」


 そう呟いたセオドアは眠気で瞼が重く感じたと思ったが違った。


ーーこれは眩暈だ。


「嘘だろ……」


 途端に激しい嘔吐が始まる。


 もうセオドアの胃袋には何も入っていないのに身体中の水分を吐き出す様に嘔吐する。


(なんで?!絶対に何も食べてないのに……!)


 むせ返りながら再び吐血を受け止めた自身の手赤黒く染まった手に絶望する。


「どうしろっていうんだよ……」


 セオドアは床に崩れ落ちる。


 すると再び脳裏に謎の男がレッドデスキャップを食べて死ぬビジョンが過ぎり……


ーー息絶えた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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次回もどうぞよろしくお願いします。

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