↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/164

第三十四話 執念の果て【1/2】


 フィオナの瞳に、死の影が映った。


 巨大な拳が振り下ろされる。黒鉄のような腕。風圧で髪が逆立ち、肺が押し潰されるような圧力。


「――っ!!」


 フィオナは動けなかった。脚が竦み、目の前に迫る死をただ受け入れるしかなかった。


 だが――その間に割って入る影があった。


 セオドアだった。


 彼は叫び声すら上げずに駆け、己の身体を盾にしようと飛び込んでいた。


(絶対に......守るんだ!!)


 心臓が爆ぜるように脈打ち、視界の端が白く光り出す。


 ――勇者の鎧が眩い光を放った。


 ミノタウロスの拳は確かにセオドアへ叩きつけられた。だが、その衝撃は彼を潰すことなく、透明な膜のような障壁に弾かれていた。


『……っ!?』


 巨腕が軋む音。地面が抉れる音。


 しかしセオドアとフィオナを包む光のバリアは揺らぎながらも破れない。


「バリア……?」


 フィオナは震える声で呟いた。頬に温かい光が降り注ぐ。それは鎧に刻まれていた古代の防御魔法陣が、自ら展開したものだった。


 セオドアは悟った。


(……俺の意志に、勇者の......鎧が応えたんだ)


 守りたいと願った。その思いに、勇者の鎧が力を貸してくれた。


 だが、安堵に浸る暇はなかった。


 ミノタウロスは獣のように咆哮を上げ、拳を何度も叩きつける。


 衝撃で大地が砕け、亀裂が走る。


『おおおおおおおおっッ!!!』


 光の障壁は軋み、ひび割れを生じさせながらも必死に持ち堪えていた。


「セオドア……!」


 フィオナは声を震わせながら見上げた。バリアを維持するために、彼は全身から魔力を流し込んでいた。額には玉のような汗。唇は紫に染まり、足は震えている。


「大丈夫です、フィオナさん……!僕が……あなたを守ります……!」


 息を切らしながらもセオドアは叫ぶ。


 ミノタウロスは怒り狂っていた。


 目の前に見えるセオドアの命を何度も奪おうとしてきた。しかし、何度も邪魔をされる。


『弱き人間ごときが……!なぜだ!なぜ喰らえぬッ!!』


 両腕を振り下ろし、角で突き、尾で薙ぎ払う。


 壁が砕け、石柱が倒壊し、第五階層そのものが揺れる。


 それでもセオドアは一歩も退かない。


(ぐっ……!)


 ついにミノタウロスの肩で荒い息が漏れた。


 それはただの怒りではなく――疲弊の証でもあった。


 だが獣の眼光にはまだ憎悪が燃え盛っている。


『一体貴様は何なのだ!!250年暴かれる事のなかった私の正体を暴き、私の食事を邪魔し!!貴様など……ただの餌にすぎん……!』


 血走った瞳でセオドアを睨みつける。


『仲間も!そこの女も!すべて目の前で喰らってやる!そして貴様は最後に絶望の中で殺す!!』


 フィオナが小さく息を呑む。


「……っ!」


 彼女の背に冷たい恐怖が走った。


 ミノタウロスは荒い呼吸を吐きながらも、なお猛り狂っていた。


『人間ごときが……ここまで私を追い詰めるなど……!』


 角の根元から血が滴り、胸は上下に激しく波打つ。


『冒険者は皆、私の糧だ!私の肉となり、血となり、骨となる!それが二百五十年、私が生きてきた証だッ!!』


 セオドアは肩で息をしながらも、斧を握り直した。


「……あなたが生き延びた証は、仲間を裏切り、嘘で欺き、仲間を喰らったことです。そのために何人の冒険者が絶望の中で死んでいったと思っているんですか……!」


 ミノタウロスは嗤う。牙を剥き出しにして。


「冒険者の命など知ったことか!私はルーメンベルダンジョン!!!迷鐘の洞!!第五階層、残響の回廊の王だ!!!冒険者とモンスター!互いに殺し、喰らい合う。それがこの世界の摂理だろう!!」


 ミノタウロスの言葉にセオドアはただ黙って静かな眼差しを向ける。


「......そうですね。あなたに問いかけたのは間違いでした......」


 セオドアは静かに呟いた。


「貴方の言う通りです。僕達冒険者はモンスターを狩ります。逆に狩られることは自然の摂理というものでしょう......」


 セオドアは目を細める。


「だから僕は自然の摂理に乗っ取り、あなたを狩ります」


 ミノタウロスの眼が赤黒く光る。


『私を狩るだと?』


「はい。かなりの私情も込めますが」


「あなたに喰われた仲間たちの無念も。命を懸けてくれた仲間の想いも。――全部、僕が抱えてあなたをここで終わらせます」


 光が鎧を駆け抜け、戦斧《ブレイバー》が眩く輝いた。


 ミノタウロスは怒号を響かせる。


『二百五十年、この回廊を守り続けた私が!お前の様な子供に屈するものかァァァ!!』


 黒い瘴気が爆発し、肉体が膨張する。


「……!」


 セオドアは一歩を踏み出し、斧を構える。


「これで終わりです!!」


 セオドアの身体からは大火の様に魔力が巻き起こり、勇者の鎧の魔力と絡み合い、金色に光り輝く。


 セオドアは斧をミノタウロスに向ける。


 斧にこれまで命を賭けてくれた者の想いを載せる。


 ヴァンベッタさん、グウェンさん、ザガンさん、フィオナさん、ドランさん、ノエルさん、リオ君、ロゼさん、ダリルさん......そして十年を掛けて僕を救ってくれたセリカさん。


 みんなの思いをこの一撃に。


 セオドアを纏う金色の大火が更に大きくなる。


『終わるのは貴様らの方だ!!!!』


 ミノタウロスは咆哮を挙げて、身体中から黒い瘴気を噴出させる。


 ミノタウロスの巨躯が地面を砕きながら跳ぶ。


 金色の魔力を纏ったセオドアも斧を強く握りしめ、駆け出す。


「あぁあああああああああ!!!!!」



『グァアアアアアアアアア!!!!!」


 

 そして――一人と一体、すべてを懸けた最後の一撃が交差した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。