第二十六話 鬼ごっこ【2/2】
セオドア達は第五階層に進む道中にある事を話していた。
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「前のループで僕の仲間のセリカさんが手に入れてくれた情報があります」
「情報?」
「僕の仲間のセリカさんは十年を経て、鑑定のスキルを習得していました。決死の覚悟でミノタウロスと対峙し、奴のスキルと弱点の情報を掴んでくれたんです」
セオドアの言葉にザガンは笑みを浮かべる。
「ザガンさん?」
「あ、いや。あんたのパーティーは全員あんたを信頼してんだなって思ってな。つい羨ましくなっちまった」
「えぇ......みんなこんな僕を信頼してくれる......僕はみんなの思いを......十年掛けてくれたセリカさんの想いに報いなければいけません」
「そうだな」
「それでセリカさんの鑑定でわかった奴のスキルは《階層の主》《偽装》《擬態》《精神汚染》《捕食強化》《幻覚投影》《芽生える自我》です」
「偽装に......擬態......それであのミノタウロスが人の姿になって、俺らを騙していたのか......」
「......はい。しかし、偽装と擬態のスキルはベルザがミノタウロスだという事を知っている僕らにとっては看破したといっても過言ではありません」
「あぁ」
「そして、精神汚染と幻覚投影に関しては......」
「あんたの新しいスキルか」
「はい。僕が地獄の中で得たスキル......ブレイン・ブレイクシールはあらゆる精神汚染と幻覚から守ります」
「つまりはミノタウロスの《階層の主》《捕食強化》《芽生える自我》以外のスキルは看破してるって事だな?」
「はい。奴に残っているのはただ純粋な戦闘力と言う事になります」
「まぁ、それが一番厄介なんだがな」
「そして僕達のアドバンテージの最後は奴の弱点を知っていると言う事です」
セオドアの言葉にザガンは黙って頷く。
「奴の弱点は聖属性です」
聖属性と言う言葉にザガンは眉を吊り上げる。
「聖属性か......俺は聖属性の魔法やスキルは使えないぞ」
「僕もです......ただ、僕達はアンデッドの巣窟である第三階層の攻略をしていた」
セオドアはポーチから瓶を取り出した。
ザガンはその小瓶を見てセオドアの言わんとする事を理解する。
「聖水!」
「はい。武器に聖水を振りかけて使えば、その一撃には僅かながらに聖属性が付与されます」
ザガンは自身のポーチを確認する。
「くそ!普段から物理でアンデッド達を始末していたから聖水は念の為ってヴァンベッタに持たされた一本しかねぇぞ」
「僕は三本......」
「とてもじゃねぇが一振りや二振りで倒せる相手じゃねぇぞ」
「僕達の目的はあくまで第五階層の下の階層にいく事です!これは今から僕達が挑むのは奴の討伐じゃない......」
セオドアの瞳に決意が宿る。
「僕らが挑むのは奴との鬼ごっこです!」
ーーーーー
『......ぐっ!』
ミノタウロスは焼ける様な痛みが走る手のひらを見ると、蒸気を上げて、爛れていた。
(これは......)
ミノタウロスは地面に落ちている小瓶に目が止まる。
(聖水か!!奴ら、私の弱点まで......!!)
ミノタウロスの目が大きく開かれる。
「ザガンさん!!」
セオドアはポーチから取り出した聖水の入った瓶を空中へと放り投げた。
セオドアの身体から炎の様な魔力が巻き起こる。
ザガンは双剣を構えて、身を低く屈める。
二人は空中に放られた聖水の瓶を同時に叩き切る。
それぞれの武器に聖水が染み込む。
「いくぞ、セオドア!!」
「はい!!!」
《心身活性-ブレイン・ブースト》!!!!
《影爪穿断・連牙》!!!!
二人は同時に大技をミノタウロスの足へと叩き込む。
僅かに聖属性の付与された、セオドア達の武器はミノタウロスの外皮に弾かれる事もなく、白い閃光を描きながら、切り裂いた。
『ぁあああああ!!!』
ミノタウロスの悲痛な叫びが残響の回廊に響き渡る。
白い閃光と共に、刃が深く肉を裂いた。
血と煙が混じった臭気が鼻を突き、巨体が横に傾ぐ。
ミノタウロスの膝が床を打ち、大理石が砕け、粉塵が霧のように舞い上がった。
「今だ!! 走れ!!」
ザガンの怒号に、セオドアは振り返ることなく駆け出す。
足裏で砕けた破片が滑り、瘴気の靄が視界を濁らせる。
その向こうに、同じような柱列が何本も続いていた。
背後で、獣の咆哮が炸裂する。
『貴様らぁ――ッ!! 許さんぞ!!』
床を掻く爪の音。重い体が這いずる音。
振り返らずとも、あの巨体が再び立ち上がる光景が目に浮かぶ。
「死に物狂いで走れ!」
「分かってます!」
二人は柱と柱の間を縫うように走る。
横道には、黒ずんだ鎧が立ち上がりかける影があったが、構わず通り過ぎた。
それらが剣を振りかぶるよりも速く、靄の中を駆け抜ける。
――蹄音。
まだ遠くない。転倒させたはずのミノタウロスが、異様な速さで距離を詰めている。
血で濡れた大理石を踏むたび、吸い付くような音が耳に残った。
前方に開けた空間が見えた。
「開けたぞ!?」
「この感じ......!フロアボス部屋じゃないですか!?」
「って事はつまり......」
大理石の床が広がる先の壁に通路が見えた。
「……本当にあった!下層への階段!!」
「よし、あと少し……!」
だが、階段に近づいたところでミノタウロスのーーベルザの叫びが聞こえた。
『下の階層に行った所で貴様らには何も得る事はできない!!!』
ミノタウロスは足の傷を庇う事もなく、突進してくる。
「あいつ......追いついて来やがった!!」
「通路はすぐそこです!!」
『その先には何もない!!!貴様らはここに戻ってくる運命なのだ!!!』
「言ってろ、くそ野郎!!!」
――蹄音が階段間近まで迫る。
ザガンが先に通路を飛び入り、セオドアも続く。
段を三つ飛ばし、滑るように下へ降りる。
瘴気が背後から押し寄せる中、最後の一段を飛び降りた。
頭上で、獣の咆哮が響き渡る。
階段口に巨体が影を落とし、角が閃いた。
だが、ミノタウロスは階段の幅に体を収めきれず、角を欄干にぶつけ、破片を撒き散らした。
石片が転がり落ちる間に、二人は下層の闇へと姿を消す。
深く、冷たい空気が二人の喉を貫いた。
『クソがぁあああああああああ!!!!!』
ミノタウロスのーーベルザの遠吠えがセオドア達の耳に響く。
第五階層を舞台に繰り広げられた鬼ごっこはセオドアとザガンの勝利であった。
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