第二十一話 歩みを止めぬ者たち【2/2】
第四階層を進むガスマスクをつけたセリカ達は古い遺跡にたどり着く。
第四階層《毒牙の谷》の最奥でそれは待ち構えていた。
タコのような十本の触腕。その体躯は屋敷一軒が丸ごと呑み込まれそうなほどに巨大で、体表は無数の毒腺が隆起していた。
「こいつが、第四階層のフロアボス......フルグナか」
リオが長剣を引き抜き、闘いたくてウズウズする様に笑みを浮かべた。
セリカはクロスボウを展開し、チームに指示を飛ばす。
「陣形、A-3!リオ君が中央を抑え、左右からダリル氏とロゼ氏で触腕の振り下ろしを誘発させて下さい!触腕の薙ぎ払いは回避に徹し、振り下ろしの際はリオ君の攻撃で切断を狙って下さい!」
『了解!』
「私は左右のエラから排出される毒ガスに点火を試みます。ガスが充分に蔓延したら合図を出すので各自後退を!」
「了解!」
リオが前衛中央に躍り出る。長剣を肩に担ぎながら、敵の本体へと一直線に踏み込む。
ダリルは右翼から盾を高く構え、ロゼは左翼から槍を低く突き出して挟み込む形で突撃する。
フルグナの触腕が這っていた地面が爆ぜ、フルグナの触腕が唸りを上げる。
「横薙ぎだ全員避けろ!」
リオが前衛で声をあげる。それぞれが触腕を確認する。
「わかった!」
触腕の横薙ぎをそれぞれが回避する。
「こっち!触腕が上がったぞ!」
ダリルが声をあげる。
フルグナの触腕の一本が天井高くに振り上げられている。
「よっしゃ!俺の出番だな!」
リオは長剣を肩に担ぎながら、ダリルの方へと駆け出す。
ダリルは触腕の振り下ろしを横に飛んで回避する。
フルグナの触腕の振り下ろしは地面に叩きつけられ、地面を割っていた。
「一本貰うぜタコ助!《重撃解放-クラッシュ・ブレイカー》!!!」
リオは振り翳した長剣にスキルを発動させ、フルグナの振り下ろしの風切り音にも負けない「ブン!」という音を立てて、触腕に切り込む。
フルグナの太い触腕は大きな切り傷を負ったが、切断までには至らなかった。
「ッチ!!残ったか!」
フルグナの触腕がぶらりとぶら下がったまま動き出す。
「先輩が尻拭いしてやるよ!!」
そこをダリルが切り掛かり、触腕の一本を切断する事に成功する。
フルグナの触腕の一本は完全に切断され、獣の様な悲鳴をあげる。
リオは眉間にシワを寄せて、ダリルを睨みつける。
「何が尻拭いだ!今からふた振り目行くとこだったんだよ!!」
「そうは見えなかったけどな!」
「あ“ぁ!?」
二人が言い争っているのを見かねたロゼが声をあげる。
「二人とも何やってんの!!横薙ぎ来るよ!!」
ロゼの声に二人は反応して回避行動を取る。そこにすかさずもう一度触腕の横薙ぎが迫った。
「連続!?」
回避した体制で、もう一度の横薙ぎにリオとダリルは目を見開く。
そこへセリカの放った矢が飛び、横薙ぎの動きに入っていた触腕にぶつかる。
すると、矢の先に仕込まれていた小瓶が割れて、酸性の液体が触腕に降りかかった。
フルグナは痛みから横薙ぎの動きをキャンセルさせられ、のたうち回る。
「酸性の液瓶です!やつが怯んでいる内に二人は配置に戻って下さい!」
セリカの言葉にすぐに体制を立て直した二人は頷いて配置へと戻っていく。
のたうち回っていたフルグナもすぐに攻撃へと転じる。
リオ達は互いに声をかけ合いながら、触腕の振り下ろしを誘発させては一本、また一本と触腕を切断していく。
触腕を切断されたフルグナは激昂した様にエラから大量の毒ガスを吐き出す。
「皆さん!今です下がって下さい!」
セリカが叫ぶと全員が頷いて一斉に退避する。セリカは3人が十分な距離を取ったのを見計らい声を上げた。
「行きます!」
セリカは腰のポーチから赤黒い液体が詰まった薬液瓶を取り出し、クロスボウに装填する。
(この毒ガスは可燃性……量は十分……!)
クロスボウを引き絞り、フルグナの周りに濃く溜まった毒ガスに標準を合わせ、発射する。
セリカは放たれた矢の軌道を見つめる。
(あの瓶には火龍の汗が詰まっている。鋭い衝撃を与える事で、発火する!)
──次の瞬間。
可燃性の毒ガスに引火し、フルグナの巨体が爆炎に包まれる。
獣の悲鳴のような咆哮が洞窟に響き渡る。
「うぉー!すっげぇ爆発だな!」
リオが炎に包まれるフルグナを見て感嘆の声を上げる。
「なんか香ばしくて美味しそうな匂いだな......」
ダリルがそう呟くと、ロゼの顔が引き攣る。
「あんな毒腺くっつけてる蛸の化け物によくそんな発想ができるね......」
のたうち回るフルグナを観察していたセリカが時を見計らい、再び三人に号令を飛ばす。
「ダリル氏!ロゼ氏で再度振り下ろしを誘発させて下さい!」
「了解!」
「リオ君は合図で頭部中央をできるだけ深く切りつけて下さい!!」
「まかしとけ!」
3人は再びフルグナに向かって駆け出す。
左右の二人が触腕から距離を取り、フルグナの動きが鈍った瞬間を狙い、攻撃してフルグナを刺激する。
フルグナは激昂し、残った全ての触腕で地面を叩きつける。
「リオ君!今です!!」
リオが一気に間合いを詰める。
「クラッシュ・ブレイカー!!!」
リオの長剣が「ブン」と大きな風切り音を立てて振り抜かれる。リオの斬撃はフルグナの頭部中央を一気に切り開いていた。
セリカはクロスボウを構え、リオが切り開いた傷に向かって照準を合わせる。
「これでお終いです!」
セリカの放った矢はフルグナの頭部中央にできた傷口に深く突き刺さる。
「全員後退!!」
リオ、ダリル、ロゼはセリカの指示に従い後ろに飛び退く。
3人はセリカが放った矢を凝視する。
すると一瞬矢が突き刺さった箇所がくぐもった爆発音と共に大きく膨れ上がったかと思うとフルグナの頭部が弾け飛んだ。
フルグナの巨体が大きく仰け反り、そのまま地面へと崩れ落ちた。
セリカはクロスボウを下ろし、仲間たちに微笑みを向けた。
「みなさん、お疲れ様でした。……第四階層フロアボスの討伐完了です」
セリカの言葉に男二人は手を振り翳した。
「よっしゃあ!!」
「やりましたね!」
二人が勝鬨を上げている中、ロゼはセリカに近寄ってくる。
「さっきの爆発は......?」
爆発に呆気に取られたロゼはセリカに尋ねる。
「あぁ......あれは第一階層のフロアボス、グラバルの喉袋を使った音爆弾の改良版です。火薬を使わなくても、体内で爆発させたら圧力に耐えきれなくなって弾け飛ぶんです!凄いですよね!」
セリカが悠長に説明すると、肉片が飛び散っているのを見て後のロゼの表情は引き攣っていた。
「えぇ......そ、そうですね」
「グラバルの音爆弾を考えたのはセオドア氏なんです......」
セリカは遠くを見つめる。
第四階層のフロアボスのフルグナが居座っていた遺跡の間に下へと続く階段が見てとれた。
第五階層へ続く階段。
フィオナ氏、ドラン氏、ノエル氏......
セオドア氏......
これでやっと......私も皆さんと並んで戦えますかね......
セリカもまたセオドアへの道を一歩、歩みを進めた。
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