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 第十九話 封じられたループ【2/2】

『冒険者の血肉を食らう事で私はもっと強くなる......そして......その個体が強ければ強いほど、美味でより強く成長できる!』


 ミノタウルスは拳を掲げる。


『私が冒険者を装い、クロー・リングを立ち上げたのはより強い個体を育てる為......言わば家畜牧場と言う訳だ!』


 ミノタウルスはそういうと獣の笑い声を上げる。


「俺たちが家畜......?」


 ザガンが意気消沈しながらも呟く。


「今までの歴代の攻略組はベルザさん以外はダンジョンでミノタウルスに挑んで全滅したって言うのは......」


 セオドアはミノタウルスに悪態をつく。



『あぁ!私が食らったのだッ!!私にとっては大事に育てた家畜を喰らう至福の瞬間だがね!!!』



「外道がっ......!」


 セオドアが吐き捨てる。


「今回の合同探索もそのつもりだったんだな!!」


『あぁ......実に惜しい事をした。まだ収獲には早いと思っていたが、あの冒険者の手記が見つかり、私の情報を知っているブックメーカーには死んで貰わなければいけなかった』


 ミノタウルスは目を細めた。


『だから......ついでに収獲時期を早めただけだ』


 さっきまで意気消沈していたザガンは双剣を握る手に力がこもっていき、怒りで震えた。


「収穫だと......!?ヴァンベッタとグウェンを何だと思ってやがる!!!」


『あぁ......あの狐と犬はクロー・リングの中でも特に嗅覚が優れていたからな。万が一匂いで気付かれない為に先に殺す予定だった』


 ミノタウルスはそう言うとギョロリとセオドアを見る。


『残念なことに、今回食せているのはその二匹だけ......君のせいだよ、セオドア君』


「僕の......せい?」


『そうだ。私に気付いてからの君の異常なまでに早い撤退の判断。私への足止め......予定では何も分からない家畜どもを蹂躙する筈だったのだが、どう言うわけか、君の仲間達も君の一声で表情を変えて撤退を進めた』


 ミノタウルスはセオドアを見下ろす。


『ループと言う......言葉でな』


「じゃあ横穴に入ってきた時点で僕達にとどめを刺さなかったのは......」


『あぁ。君と言うイレギュラーの存在の発した“ループ”と言う言葉の真意を確かめる為だ』


 セオドアはミノタウルスの言葉に絶望する。


 僕はループに関して全てをこいつに話した......!


「ザガンさん!!僕を殺して下さい!!!」


 セオドアはザガンに向かって叫んだ。


「はぁ!?あんた何言って......」


 ザガンがセオドアの意思を汲み取れずに聞き返そうとするもそれをセオドアが遮る。


「早くしろ!!もうなりふり構ってられない!!今ループしければ......!」


 セオドアがそう言い切る前に動いたのはミノタウルスであった。


『させませんよ』


 ミノタウルスはそう言ってザガンは跳ね除けた。ザガンは吹き飛び、離れた地面に転がる。


「がぁ!」


「ザガンさん!......っく!」


 セオドアはザガンに殺してもらう事をすぐに諦め、自死へと方法を切り替え、斧を自分の首元に構える。


『ループは起こさせません』


 ミノタウルスは姿を素早くベルザに戻し、セオドアの斧を払いのける。


 斧はセオドアの手を離れ、回廊の地面を滑っていく。


 セオドアはすぐに腰の短剣を引き抜き、首元へと持っていくが、ベルザは冷笑を浮かべながらセオドアの手首を捻り上げ、短剣を取り上げる。


「ぐぅぁああああ!」


 セオドアは痛みで悲鳴をあげるが、すぐに歯を食いしばり、舌を噛み切る決意を固める。


「あぁ、舌を噛み切るのもさせません」


 ベルザは強引にセオドアの口に手を突っ込む。


「がぁ!!?」


 セオドアは負けじとベルザの手を噛みちぎろうと顎に力を集中させるも、ベルザは涼しい顔のままであった。


「君のループ能力は恐ろしい。ここまで知られてしまったのであれば、過去に君を返すには脅威だ......」


 ベルザはセオドアの顔に顔を近づけて笑って見せた。


「君が死ななければ......ループは起きない」


 セオドアはベルザを睨みつけながら、荒く呼吸をする。


 ベルザはセオドアからマントを剥ぎ取るとセオドアの口に無理やりねじ込む。


 暴れるセオドアをベルザは冷静に押さえつけながら、拘束していく。


 セオドアは口と手足を縛られ、完全に動きを封じられる。


「安心してくれ。君は殺さない。この先私がまさに家畜の様に餌を与えて、何十年と世話をしてやろう」


(くそ......ループを封じられた......残るは......)


 セオドアの眼差しに気付いた様にベルザは笑みを浮かべる。


「勇者ハルトと言ったかな?」


 ベルザはセオドアの胸ぐらを掴み上げる。


「奴も50年後にこのダンジョンに現れる......そこで奴を殺してしまえば、それもループの引き金となるのだったね......」


 セオドアはベルザの考えを口に出される前に気がつき、目を見開いた。


「安心してくれ......私は勇者ハルトをこの先、決して殺さない。50年後、君達を並べて死なない様に飼ってあげるからね......」


 セオドアの目は絶望の色に染まった。


「くそがぁああああああ!!!!」


 ザガンの雄叫びが回廊に響き渡る。


 双剣を手にベルザへと駆け出した。


「テメェだけは許さねぇ!!ぶっ殺してやる!!」


 ベルザはセオドアを地面へと放ると素手でザガンの攻撃を迎え撃つ。


 ザガンは激しい剣戟をベルザに浴びせる。ベルザは涼しい顔で斬撃を素手で弾いていく。


「酷い言葉遣いだ。ザガン。まるでスラムで貴方を見つけた時の様です」


 ベルザの言葉にザガンは更に目を血走らせる。


「俺の思い出を......!俺の憧れをこれ以上汚すんじゃねぇ!!!」


 ザガンの叫びと共に放たれた斬撃をベルザは素手で受け止める。


「私は今も昔も私だ。貴方はモンスターと過ごした思い出を抱いて無念に死んでいくのです」


 ベルザは掴んでいたザガンの双剣を握り潰す。


「......っな!」


 ザガンは目を見開く。


「さぁ。収穫の時です」


 ベルザは握り潰したザガンの双剣の剣先をそのままザガンの胸元へと突き刺した。


 セオドアはその光景に目を見開き、呻き声を上げるしかできなかった。


(ザガンさん!!!)


 ザガンは両膝から地面に崩れ落ちると、だらりと前傾になる。


「セオドア君はそこで見ていなさい。クロー・リングの副クランマスターの最後を......』


 ベルザは身体をミノタウルスに変形させる。


 大きな手でザガンを摘み上げる。ザガンは抵抗する力もなくだらりと身体を重力に任せていた。


 セオドアは拘束された身体で這いつくばりながら少しでもザガンに近づこうともがきうめく。


『ザガン。貴方は私が育てた家畜の中でも素晴らしい強さを持った個体でした。どんな味がするのでしょうか......』


「クソ喰らえ......」


 ザガンは最後の力を振り絞り、折れた剣をセオドアに向かって投げつけた。


 セオドアに向かって折れた剣が一直線に飛んでくる。


 セオドアは自分の死によるループを発動させる為に自らその剣を受け入れようと身体を起き上がらせる。


 その瞬間。


『させませんよ』


 ミノタウルスの尻尾がザガンが放った最後の希望を軽く跳ね除けた。


「......チッ」


 ザガンは舌打ちをすると、セオドアの方を見る。セオドアは目に涙を溜める。


 ザガンは力無く笑みを浮かべた。


「わりぃな、坊主。上手くやれよ......」


(ザガンさ......)


 ミノタウルスの歯が無情にもザガンの頭を噛み潰す。


 セオドアの視界にボタボタと血の雨が降り注ぐ。


(あ、あぁあああああああ......)


 ザガンの身体はだらりとミノタウルスの手に垂れる。


 目の前のミノタウルスはそのまま、クチャクチャ、ボリボリとザガンを咀嚼していく。


 セオドアは縛られた口で絶叫する。


 思う様に身動きが取れない身体をなんか起き上がらせ、地面に向かって頭を打ちつける。


 何度も打ちつけるもその自傷行為は自分の命には全く届いていなかった。


 ミノタウルスはザガンの衣類などを吐き出す。血に塗れ、無惨な肉片がついた衣類が見て取れた。


 ミノタウルスは身体を縮め、ベルザの姿へと戻る。


「思ったとおり......ザガン。貴方はとても美味でしたよ」


 ベルザは血に塗れた口元を拭う。


 あたりにはセオドアの唸り声が響き渡る。ベルザは無表情で唸り声を上げるセオドアに視線を落とす。


「では、貴方に檻を用意してあげなくてはなりませんね」


 セオドアは目に涙を溜めながら鬼の形相でベルザを睨みつける。


(殺してやる......!殺してやる......!)


「威勢がいいのは良い事です」


 ベルザはセオドアの髪を無造作に掴むとそのまま第五階層、残響の回廊の奥へと歩みを進める。


 セオドアは痛みに顔を歪めながら、ベルザの背中を呪う様に睨みつける。



 クロー・リングのみんなを......ルーメンベルのみんなを......ザガンさんを騙し続けたこのモンスターだけは......



 絶対に殺してやる。



 セオドアは暗く音が響き渡る回廊でそう誓った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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次回もどうぞよろしくお願いします。

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