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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第9章 姫様の教育係

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第3話 身分の差は絶対

 カイルから、『下賤の者は、なるべく王族の目には触れぬよう働くのがこの城の決まり』と教えられ、私はショックを受けていた。

 命じられたわけでもないのに、働いている人たちの中から自然に発生した決まりらしい――ということにも。



 だって、どう考えてもおかしいじゃない。この城で働いてくれてる人たちだよ?

 その人たちがどうして、王族の目に触れちゃいけないのよ?


 この城の王族っていったら、今は私一人だし……。

 つまり、カイルを含む四人以外は、私の目に触れちゃいけないってことなんでしょう?



 ……わからない。

 どうしてそんな働き方しなきゃいけないのか、全く理解できない。


 昔からの決まりだっていうけど。

 実は私が嫌われてて、避けられてるのかなって……そんな風にさえ思えてきて、なんだか悲しくなってくる……。



 だからつい、


「私は……もっとここで働く人たちと仲良くなりたい。話だってしたいし、許されるなら仕事だって手伝いたいよ」


 涙目になりながら、そんなことを言ってしまっていた。


「姫様……!」


 カイルは一瞬、驚いたように目を見開いた。だけど、すぐに厳しい顔つきになって、


「そのようなこと、軽々しくおっしゃってはいけません。下々の者を手伝いたいなどと……。どうか、ご自身のお立場というものをよくよくお考えになってください」


 まるで、諭すような口調でたしなめる。

 年の差をほとんど感じない彼から、叱るような言葉をかけられ、私の顔はたちまちのぼせたように熱くなった。


「どうして!? 私、そんなに無茶なこと言ってる!? 王族だからとか下賤だからとか、いちいちそんなこと気にして、仲良くなりたい人とも仲良くなれないなんて……。そんな世界、絶対おかしいよ! 私はもっと自由に――っ」


「自由などございません!」


 私の言葉をさえぎるように、カイルの鋭い声が飛んだ。


「カ……カイル……?」


「身分の差は絶対です。姫様が以前いらした世界では、どうであったのかは存じませんが……。現在のこの国では、それが当然のこととご承知おきください。正しい正しくないの問題ではございません。この国で生きていく以上、避けられぬことなのですから……姫様にも、そろそろ慣れていただきませんと」


「カイル、それ……本気で言ってるの?」


「はい。身分の差は絶対です。それがこの世界の常識なのです」


 噛んで含めるように、同じ言葉を繰り返す。

 私は急に心細い気持ちに襲われ、呆然と彼を見返した。



 身分の差は、絶対……?


 そんな……。

 王族に生まれたら、誰とも同等にはなれないの?

 身分が同じような人としか、仲良くしちゃいけないの……?



 カイルの言葉にショックを受け、しばらくは何の言葉も浮かんでこなかった。

 頭が真っ白になって固まっている私を見て、彼は言い過ぎたと思ったのか、


「も、申し訳ございません、姫様。このようなこと、お伝えするつもりはなかったのですが……」


 困ったような顔で私を見つめてから、反省しているかのようにうつむいた。

 私もどう返していいのかわからず、しばらく二人の間には重い沈黙が流れた。



 カイルの『身分の差は絶対』という言葉が、いつまでも消えてくれない。頭の中で、しつこいくらいに反響している。

 胸が苦しくて、下まぶたの縁にじわりと涙が浮かんできて……視界がぼやけた。



「そのようなお顔を……なさらないでください」


 ふいに、カイルの辛そうな声がして、私は涙を浮かべたまま顔を上げた。


 彼はうつむいたまま、拳をギュッと握り締めている。

 私を叱ったはずの彼の方が、よほど苦しそうに見えて……困惑せずにはいられなかった。


「どうか、お願いです。私は……私はあなたを責めたいわけでは――」


 言いかけて、彼は言葉を飲み込んだ。

 私の顔を見ないようにしているのか、視線は斜め下に落としている。



 どうして、そんな風に黙っちゃうの?

 どうして、私より苦しそうな顔をしているの?



 訊ねたくても、声が出てこない。

 彼を見つめたまま、沈黙しているしか――。



 私は今まで、彼の優しさに救われてきた。


 なのに今は……まるで、遠くにいるみたい。

 どんなに大声で呼びかけても届かないような……そんな遠くに。



 ……でも、どうしてもわからない。

 私……そんなにおかしなこと言ったのかな?


 ただ、仲良くなりたい、手伝いたいって思っただけなのに。

 カイルがあんなに強い口調でたしなめてくるってことは……やっぱり、私が間違ってるの?



 ……わからない。

 どうして王族は、使用人さんたちと仲良くしちゃいけないの? ねえ、どうして?


 いけないならいけないで、その理由を教えてほしいのに――!



「ねえ……カイル。私、やっぱりわからないよ。どうして王族は、使用人さんたちと仲良くしちゃいけないの?」


 思い切って問いかけても、彼はキツく唇を噛み、何も答えてはくれなかった。


「……ねえ、お願い。どうしてなのか、その理由を教えて?」


 諦めきれず、もう一度問いかけた時だった。


「愚かな」


 ため息混じりの声が背後で響き、私はハッとして振り返った。

 いつの間にそこにいたのか、見知らぬ男性が腕を組んで立っている。冷ややかな眼差しが、まっすぐに私を射抜いていた。


「ろくに考えもせず、すぐさま答えを他人に求めるなどと……。まったく、嘆かわしい。君は思考することを放棄するつもりか?」


 今度は呆れ声で訊ねられ――。

 私は驚きと困惑とで、とっさに反応できなかった。

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