表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/138

第16話 信頼の証

 私は何度か深呼吸して、どうにか心を落ち着かせてからカイルに向き直った。


「えっと、でも……。お母様の形見なんて、そんな大切なもの……どうして私に?」


「大切なものだからこそ、姫様にお持ちいただきたいとのことでした。その指輪にはめ込まれた石は、ギルフォード様のお母上の祖国から採れるもので、古くから『災いから守ってくれる』と言われているのだそうです。お守りとして姫様に持っていてほしいのだと、そうおっしゃいまして――」


「それなら、ますます受け取れないよ! この指輪が、災いからずっとギルを守ってきてくれたんでしょう? お母様の想いだって、きっとたくさん詰まってるに違いないのに……。どう考えたって、ギルが持ってなきゃいけないものじゃない」



 亡くなられたお母様だって、赤の他人の私なんかより、ギルに持っていて欲しかったに決まってる。

 この指輪だって、ギルの側から離されて、悲しい思いをしてるかもしれないし……。



「お言葉ではございますが、姫様が受け取って差し上げなければ、ギルフォード様ご自身の想いの行き場が失われてしまいます。それに……姫様にお受け取りいただけないのでしたら、このまま私がお預かりしていなければなりません。恐縮ではございますが、私には重過ぎる責務です」


「あ……」


 カイルに言われて、ようやく気付く。私が受け取らなければ、彼に迷惑がかかるということに……。


「そう……だよね。受け取らなかったら、カイルだって困っちゃうよね。……わかった。この指輪は私が受け取っておきます」


 慌てて告げると、カイルはようやくホッとしたような笑みを浮かべて立ち上がった。


「でも……この指輪、いつギルから預かったの? ここを発つ直前?」


 なんとなく気になって、訊いてみただけだったんだけど……。

 カイルはハッとしたように目を見開いた後、何故か、私から気まずく目をそらした。


「いえ、それは……。あの……昨夜、たまたまお会いした時に――」


「ふぅん……。そっか」


 カイルの言葉を受けて、何となくうなずいたものの……。

 彼の様子は明らかにおかしくて、私は思わず首をかしげた。


 なんだか、まるで何かを隠してるみたい……で……。



「あっ!」


 (ひらめ)いて、大きな声を上げてしまった。

 カイルはビクッと肩を揺らし、戸惑ったような視線を私に向ける。


「姫様……? いかがなさいましたか?」


「あ……。う、ううん! なんでもないの。ちょっと勘違いして……。あは……あはは……」


 カイルは怪訝顔(けげんがお)で私をじいっと見ていたけど、作り笑いでごまかした。



 昨夜、塔の上から二人を見かけたけど……もしかして、あの時かな?

 あの時に、指輪の話をしてたのかも……。



 気になっていた問題が一気に解消し、私は満足してうなずいた。


「ギル、カイルのことよっぽど気に入ったんだね。こんなに大切なものを預けるくらいだもの。きっと、心から信用できる人物だって思ったんだよ」



 ――うん、きっとそう。

 信用してなきゃ絶対預けないもの、お母様の形見なんて――。



 カイルにそこまで信頼を寄せてくれていたんだなと、なんだか嬉しくなって、私の顔は自然とほころんでしまっていた。


「……そんな、私のような若輩者を信用できるなどと……。畏れ多いことでございます」


 カイルは恐縮したようにうつむいて、聞き取りにくいほどの小さな声で答える。


「ううん。ギルから信用されて当然だよ。私だって、あなたのことは心から信じられるもの」



 だってカイルは、大好きな桜さんがこことは違う世界――もう二度と会えない場所――へ行ってしまったって知っても、『よかった』って思える人だもの。

 これでもう、寂しい思いをしなくて済むって……一人で泣くようなことはなくなるんだからって、笑顔で言ってあげられる人なんだもの。


 自分の幸せより、好きな人の幸せを願える優しい人――。

 そんなカイルなら、誰からの信用だってすぐに得られちゃうわよ。



 ――なんてことを思いながら、一人で納得してうなずいていると、


「……ギルフォード様も姫様も……私を買い被っていらっしゃる……」


 カイルの独り言のような声が聞こえて、私は反射的に彼を見た。


「カイル……?」


 さっきからずっとうつむいていて、どんな表情をしているのかまではわからない。

 だけど、聞こえてきた声はとても暗くて、心配になってしまうほど元気がなかった。


「どうしたの、カイル? もしかして、気分が悪かったりする……?」


「いいえ、そのよ――……。……はい。実のところを申しますと、少々……」


「えっ、やっぱりそうなの!?」


「……はい。ですので、大変心苦しいのですが……本日は、これにて下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんだよ! 今まで気付いてあげられなくてごめんね? セバスチャンには後で私から伝えておくから、早く部屋に戻って休んで?……あっ。一人で帰れる? 私じゃ頼りないかもしれないけど、歩くのが辛いようなら肩貸そうか?」


「いえ、姫様にそのようなことをしていただくわけには……。問題ございません。一人で帰れますので、どうかご心配なさらないでください」


「……そう? じゃあ、あの……お大事にね」


「はい」


 カイルは深々と一礼してから、重い足取りで部屋から出ていった。


 チラッと見えた顔は少し青白く見えて、さらに心配になってしまったけど。

 彼の性格上、大騒ぎされるのは好きではないだろうと思い、見送るだけに留めた。



 セバスチャンがきたら、『カイルの様子を見にいってあげて』って伝えなきゃなぁ。


 確か彼は、騎士見習いの人たちのための寮みたいなところ――門の近くにあるっていう、別棟で生活してるんだよね?

 騎士見習いの人たちって、身の回りのお世話は誰がしてくれてるんだろう? 寮母さんみたいな人っているのかな?


 騎士や騎士見習いって、貴族の人たちばかりだって聞いたし。

 まさか、家事は全部自分でしてるってわけじゃないとは思うけど……。



 彼が出ていったドアを見つめ、私は騎士やカイルについてまだ何も知らないことを、改めて思い知らされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ