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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第10話 二つの約束

 しばらくの間、私たちは沈黙したまま抱き締め合っていた。


 強く――だけど優しく、彼の両腕は私を包み込んでいる。


 ドキドキするのに、ホッとする感覚。

 これっていったいなんなんだろうと不思議に思いながら、私は彼の腕の中でそっと瞳を閉じる。


 そして、長い沈黙の後。

 王子は耳に息がかかるほどの距離まで顔を近付け、熱っぽくささやいた。


「君をこのままさらって行けたら、どんなにいいだろう。君の気持ちも全て無視して……このまま奪い去ってしまえたら。奪って、そして……永遠に君を、誰の目にも触れないところに閉じ込めておけたなら――」



 とっ、閉じ込め――っ!?



 ……王子。

 それは私のいた世界では――立派に犯罪ですっ!!



 思わず、そんなツッコミを入れたくなっちゃったけど……。



 でも……どうしてなのかな?

 王子に言われると……どんなに犯罪めいてると思うことを口にされても、全然……嫌じゃないんだ。


 嫌じゃないどころか……ちょっと、嬉しくも感じちゃったりして……。



 うぅ……ダメだ。


 私、どこかおかしいのかな……?


 束縛が嬉しいなんて……本当にどうかしてる。

 以前までの私なら、絶対こんなことあり得ないのに……。



 ……あー……ホントにダメ。


 なんだか、頭がボーっとして……。



「……すまない、リア。私が引き留めておいて、こういうことを言い出すのは失礼だと思うんだが……。そろそろ部屋に戻らないか?」


「はい……。……え?……え、えっ?」


 無意識に返事しちゃった後。

 頭の中で王子のセリフを反芻(はんすう)し、ようやくその意味を理解した。


 思わず、『どうして?』って気持ちを込めて見上げてしまう。


「これ以上、共にいると……冗談抜きで、このまま君をさらって行きかねないからね。……少し頭を冷やしたいんだ。取り返しがつかないことをしてしまう前に……」


 切なげに目を細め、王子は私の髪をゆっくりとなでた。

 そんな仕草にドキッとして、慌てて視線を外す。


「リア。私との約束――どうか忘れないでほしい。次に会う時までには、『ギル』と呼べるようにしておくこと。それから――」


 王子の手のひらが私の左頬を包み込むように撫で……親指が唇で留まる。


「――っ!」


 突然の行為にビクッとなって、私は両目をギュッと閉じた。


「ここは、他の誰にも触れさせないこと。……誓ってくれるね?」


 王子の甘い魅惑的な声と、その仕草に。

 全身が燃えたぎるように熱くなり、脳内が沸騰しそうだった私は、返事するどころではなくなってしまった。



 顔が熱い。

 頭はもっと熱い。


 ……唇がくすぐったい。



 だからもうっ!

 こういうこと、いきなりしないでってばーーーーーッ!!



「リア?……誓っては……くれないのかい?」


 王子は悲しそうに私を見つめ、力なく手を下ろした。

 私は慌てて、ブンブンと首を横に振る。


「……それは……誓ってくれるという意味? それとも……誓えないという意味?」


 また、ブンブンブンと横に振る。


「では……誓ってくれるんだね?」


 ブンブンブンブンと、今度は思い切り縦に振る。


「……よかった。君に拒否されたら、どうしようかと思ったよ」


 ホッとしたように微笑んで、王子は再び髪をなで……その流れで髪の束をすくい上げると、ゆっくりと顔を寄せて髪の端にキスした。



「ちょ……っ!?」



 かっ、髪にキスって――!


 この人、ホントに……()()()であればどこにキスしても許される――とでも思ってるんじゃないでしょうねっ!?



 ……今のでいったい、どれだけの場所にキスされちゃったことになるんだか……。

 思い返して数えるのだって怖いくらいだわっ!



 もう……、バカっ! 王子のバカっ!

 いちいち行動が恥ずかしすぎるんだからっ!



 真っ赤になって、ひたすらパニクる私をよそに、王子はどこまでも涼しい顔で、


「ありがとう、リア。私の我儘に付き合ってくれて……。それでは、戻ろうか」


 なんて言って、さりげなく片手を差し出してくる。

 私はチラッとその手を見やってから、大きく首を横に振った。


「――え? 戻らないのかい?」


「わっ、私、もう少しここにいます。戻るなら、王子一人でどうぞっ」


「それはべつに構わないが……。一人で戻れる?」


「だ、大丈夫ですっ! 一人で来たんですから!」


「……それもそうだね。では、先に失礼するよ。おやすみ、リア」


 優しく笑うと、王子は私にゆっくりと背を向けた。

 そのとたん、胸がズキリと痛む。



 もう会えないワケじゃないのに。

 ……明日になれば、また会えるのに。


 それなのに……遠ざかって行く背中を見ていたら、なんだか無性に寂しくて……。



「あ――っ、あのっ!!」


 思わず、大声で呼び止めていた。

 意外そうに振り向く王子に、慌てて訊ねる。


「あ、明日……っ。明日はいつ頃帰るんですかっ?」


「――いつ頃――。……そうだね、たぶん……昼頃になると思うよ」


「昼、頃――……。そ、そうですか。わかりました。……え、と……呼び止めてすみませんでした」


「……いや。もう一度、君の声が聞けて嬉しかったよ。……では、ね」



 らせん階段を下りて行く王子の姿は、すぐに視界から消えた。

 私は独りでその場に残り……急激な寒さと寂しさに、キツく自分の体を抱き締めた。

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