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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第4話 姫君は方向オンチ

 王子に会いに行くため、私は大急ぎで夕食を終わらせた。


「ごちそーさまでしたっ」


 両手を目の前で合わせ、ペコリと一礼してから立ち上がると、三人はギョッとしたように目を見開く。


「姫様? 『ゴチソーサマデシタ』とは、いったい……?」


「え?……あれ? ここでは言わないんだっけ、ごちそうさま?」


「……はぁ……?」


「えーと……。あっちの世界の――私がいた国での、食事が終わった後の挨拶みたいなものなの。美味しい料理をありがとうございました、って感じの意味だったと思うけど……。あ、ちなみに食べる前には『いただきます』って言うんだよ。昨日も今日も、言うの忘れちゃってたかもしれないけど」


「さ……さようでございますか……」


 三人は感心したようにうなずいている。



 う~ん……?

 こういうのってやっぱり、日本だけの風習……なのかな?



 ……ま、まあいっか。



 それより、急がなきゃ。

 王子が眠っちゃう前に、どうしても話がしたい――!



「じゃ――っ、じゃあセバスチャン。私、あの……食後の散歩に行ってくるね?」


「――は? 食後の散歩……でございますか?」


「う、うん……。えっと、ちょっとお腹いっぱいになっちゃったから……軽い運動、っていうかさ。……アハハッ」


「はあ。軽い運動でございますか……。では、時間外ではございますが、カイルをお呼びいたしましょう」


「えっ? あ。ううん、大丈夫! 散歩くらい一人で行けるからっ」



 王子に会いに行くだけなのに、わざわざカイルを呼ぶなんてとんでもないよ!

 彼だって、今頃は夕食の時間なのかもしれないし、自室で寛いでるのかもしれないし……。


 とにかく、こっちの勝手な都合で時間外に呼び出して、ムリヤリ働かせるようなブラック企業――もとい、ブラック主人にだけはなりたくない!



 心配するセバスチャンをどうにか説得して、私は一人で部屋を出た。



 正直に『王子に会いに行く』って言えばよかったんだろうけど……なんだか恥ずかしいし……。

 ヘタしたら、『では、私もご一緒に』とかって言い出しそうだもんね、セバスチャンったら。



 ……あ、いや……。

 セバスチャンが一緒じゃマズイってことでもないんだけど……やっぱり恥ずかしいし……。



 何が恥ずかしいの? って訊かれたら、私もよくわからないんだけど。


 でも、その……王子の前だと私……時々、自分でも思ってもいなかったような行動、取っちゃうことあるから……。



 ……うん。

 たぶん、それをセバスチャンに見られるのが嫌なんだろうな……。



「……そうだよ。そう言えば今日だって、セバスチャンってば木の上で私たちの話、こっそり聞いてたりして……。むうぅ~……。まったく、油断も隙もないんだから!」


 思わず独り言をつぶやいて、その場でバンバンと地団駄を踏む。


「ああもうっ、何度思い出しても恥ずかしいっ! セバスチャンのバカバカっ!……って、いやっ、こんなことしてる場合じゃないんだってば! 早く王子に会いに行かな――っ、……きゃ……?」



 ……あれ?


 王子の泊まってる客間……って、どこだったっけ……?



 ……あれ?


 えっと、確か……カイルと一緒に部屋から出た時は、あっちの方からこっちの方へ……歩いてきたんじゃなかった……?



 ……あれ?

 あれあれ?



 えっと……私の部屋があっちで……あの時、あの角を曲がって……この廊下をまっすぐ行って部屋に戻ったんだから……こっちの方向でいいはず、なんだけど……。




 う――……ヤバイ。


 完全に迷った――!




 うぅ……仕方ない。

 わからないまま歩き回って、部屋に戻れなくなったら大変だし。

 今日のところは諦めて、大人しく部屋に戻ろう――。



 王子には朝イチで会いに行けばいいかと思いながら、くるりと方向転換し、私はトボトボと歩き出した。



 ……ああ……情けない。

 これだから、方向オンチは嫌だよ。


 こんなに早く戻ったら、『おや? もうお散歩からお戻りに?』とかって、セバスチャンにキョトーンとされちゃうじゃない!



 ……うぅっ。

 もう、最悪……。



 大きなため息をつく私の視界の端に、その時、見覚えのある階段が映った。



 ……あ。


 そっか、あの階段……。

 昨夜、王子と一緒に行った塔へと続く階段が、この上の階にあるんだっけ。



 ……また、行ってみようかな?

 このまま戻るのも、なんだかマヌケだし……。



「うん、そうだよね。このまま何もしないで帰るのも……ね」


 自分に言い聞かせるようにつぶやき、私は予定を変更して塔へと向かった。



 塔まで続く階段は、結構段数多かったけど……途中で分かれてるわけでもなかったし、大丈夫だよね。

 らせん階段を、ひたすら上っていけばいいだけだもん。


 ……それに、もしかしたら。

 今日も、王子がいるかもしれないし……。



 微かな期待を抱きながら、らせん階段を見上げて一歩一歩進んでいく。


 上っている間は、ずっと心臓がドキドキしていた。階段のキツさのせいというよりも、『王子に会えるかも』という期待感が大きかったためかもしれない。



 王子に会いたい。


 ……そう。

 単純に私……王子に会いたいんだ。

 一緒にいられるリミットが迫ってるから……余計にその思いが強くなっちゃってるんだよね。


 明日までに――ううん、なんとしても今日のうちに話をしなきゃ。


 次、いつ会えるかわからないのに。

 ただ『さよなら』だけ言ってお別れ――なんて、絶対に嫌だよ。



 王子に会いたい。今すぐ会いたい!


 今夜じゃなきゃダメ。

 明日じゃもう、ダメなの――!

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