表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/140

第3話 王子の事情

 私はエレンさんの言っている意味がすぐには呑み込めず、困惑して、ただ見返すことしかできなかった。



 『大丈夫』って……何が大丈夫なの?

 エレンさんは、いったい何のことを言ってるの――?



「差し出がましいとは存じましたが、もし、姫様がギルフォード様のことで思い悩んでいらっしゃるのでしたら……どうか、ご心配なさらないでくださいませ。ギルフォード様が今夜ここへお出でにならなかったのは……『共に長くいればいるほど、別れが辛くなる』と思っていらっしゃるからでございます。決して、姫様とご夕食を共になさりたくないからではございません」


「え? 別れが辛くなるから?……王子がそう言ったの?」


「はい。先ほど、ご夕食はいかがなさいますかとお伺いしに参りました時に。『君たちの姫君は、大変魅力的だからね。これ以上共にいたら、私の国にさらっていきたくなってしまうだろう。申し訳ないが、今日はこちらに用意してくれないか』と……そのようにおっしゃっていました」


「……私をさらって?……って……」



 またそんな、大げさなこと言って……。

 しかも、エレンさん相手に。


 まったくもう!

 いちいち、恥ずかしいこと言わないでほしいんだけどっ?



 私は一気に赤面し、照れ隠しにアハハと笑った。


「ホントにもう。何ワケわかんないこと言ってるんだろうね、あの人? さらうとか何とか、そんな物騒なことしなくたって。隣の国なんだから、会いにいこうと思えばいつだって会いにいけるのにね?」


 同意を求めてエレンさんを見つめると、彼女は困ったように眉尻を下げ、そっと私から目をそらした。


「……あれ?……エレン……さん?」


 急にどうしたんだろうと目をパチクリしている私に、側にいたセバスチャンが言いにくそうに告げる。


「姫様。隣国とは申しましても、そうも容易に事は進まぬのでございます。一国の王子にお会いになる、しかも直接お会いになりたいとのことですと、まずは書状にその旨をしたため、お送りしなければなりません。書状は我が配下に運ばせますれば、半日と経たぬうちに届きますものの……国王陛下には多くのお務めがございますので、すぐにお読みいただけるとは限りませんし……」


「えっ?……でも、王子がこっちの国にくる前に出した書状は、すぐに国王様に読んでいただけてたじゃない」


「今回は、たまたま運がよろしかっただけでございますよ。クロヴィス国王陛下も、大変お忙しいお方でございますからな。それと……ギルフォード様の今回のご行為は、普段でしたら不躾(ぶしつけ)であるとされ、書状も、読まずに突き返されていてもおかしくなかったのでございますぞ?」


「ええっ、そうなの!?……でも、どうして? ちゃんと手紙――書状は出したのに、何が不躾ってことになっちゃうの?」


「書状の返信もお受け取りにならないうちに、ギルフォード様がご訪問なさったことが――でございますよ。今回は、お受け取りになったのがギルフォード様をご幼少のみぎりよりよくご存知でいらっしゃる、陛下であらせられましたからこそ、お許しいただけたようなものなのです。もしもお相手がギルフォード様以外のお方でしたら、門前払いされていたところでございます」


「も、門前払いっ?……そ、そう……なんだ……」



 ……そっか。

 今回、王子とすんなり会えたのは……国王様が寛大な人だったから、ってことなのか……。


 もし、書状を受け取って読んだ時に、『いきなり書状をよこしておいて、返事も待たぬうちに訪問するだと!? なんと不躾な!』ってことで、国王様が書状を破り捨てて、『リアには絶対会わせるな!』って命令を出してたとしたら……。

 王子は門前払いされちゃってて、私と会うこともなかったんだ……?



 ……あ。

 でも、王子が城に着く前に、森で鉢合わせしちゃってたんだから……会えてなかったってことはないのか。


 ……うん。

 一応、会えてはいたんだよね?


 会えてはいたけど……国王様が『城に入れるな』って命令を出してたとしたら、そこでお別れ……ってことになってたんだろうし。

 私が王子を好きになることも……なかったのかもしれない。



 そう考えたら、国王様には感謝しなきゃいけないよね……。


 ありがとう、国王様。

 私と王子を会わせてくれて……。



「姫様? いかがなさいました?」


 怪訝そうにセバスチャンに訊ねられ、私はハッと我に返った。


「あ……。ごめんごめん。ちょっとボーッとしちゃってた」


 慌てて笑ってごまかすと、セバスチャンは顔を横に傾け、じーっと私を見つめる。

 何を考えていたのかと訊かれたら面倒なので、私は彼から目をそらし、


「と、とにかく、今日は王子はここにこない――ってことでいいんだよね? だったら、さっさと食べちゃおっかな!」


 わざと大声で宣言した後、改めて、横で手を握ってくれていたエレンさんに視線を戻した。


「ありがとう、エレンさん。あなたのお陰で落ち着くことができたよ。……本当にありがとう」


 手の震えは、いつの間にか治まっていた。

 エレンさんはホッとしたように微笑むと、私の手を膝の上に戻し、


「不躾にお手を取るなどと……大変失礼いたしました。どうかお許しくださいませ」


 そう言って立ち上がり、深々と一礼した。


「そんな……震えが止まったのもエレンさんのお陰なんだし、謝る必要なんてないよ。……えっと……それより、早く食べちゃわないと、みんなも片付かなくて困っちゃうよね」


 王子がいないせいで、私の元気がない――みたいに思われたくなくて。私は半ば無理やり、口の中に食べ物を詰め込み始めた。


「ひ、姫様っ。そのようにたくさん、一度に召し上がられましては……喉に詰まらせてしまいますぞっ?」


 隣でセバスチャンがピーピー言ってたけど、それにはモグモグしながらうなずいてみせるだけで、サラッと流し――。

 私はただ黙々と食事を続けた。



 こうなったら、なるべく早く食べ終わらせて、王子のところにいかなくちゃ。


 だって、もう時間がないんだもの。王子は明日、帰っちゃうんだし……。

 早く――ちょっとでも早く、会いに行かなきゃ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ