第1話 午後のまどろみ
カイルに部屋の前まで送ってもらって中に入ると、私はベッドまで歩いていき、
「あー、疲れたぁああーーー」
ヘッドスライディングするみたいに、うつ伏せに倒れ込んだ。
……疲れた。
一日にいろんなことが起こったからか、ドッと疲労感が襲ってきてしまったみたい。
「あー……。こっちの世界にきてから、まだ二日だっていうのにねぇ……」
しみじみとつぶやいて、ゴロリと仰向けになる。
元の世界にいた時は、毎日同じような日常の繰り返しで……。
こんなにドラマチックなこと、ひとつも起こったことなんてなかったのに。
それが今では、王子様からプロポーズされたり……って、とても現実とは思えない。
でも、確かに現実なんだよね、これ……?
……まったく。
たった二日の間に、どれだけのことがあったことか。
まずセバスチャンに会って、姫様と勘違いされてこの城にきて、アンナさんとエレンさんに会って、国王様に会って、カイルに会って別人だって見抜かれて……。
事情を説明して信じてもらって、その後また国王様に会って……。
そんでもって、今度は王子がくるってんで、カイルが姫様捜しにルドウィンに向かって。
王子に会って、そこからまたいろいろあって……って、あー……。
もう順番に思い出すのもめんどくさいくらいに、たくさんのことがあったなぁ。
神様にも会って、真実も聞かされたし。
王子にはプロポーズされて……キス、されそうになったりも……して……。
あの時の王子の、真剣な……でもどこか寂しそうな、瞳の色とか……甘く、低く響く声とか……。
距離が縮まった瞬間の、ドキドキ……とか……。
うぅ……。
なんだか、今思い出しても顔が熱くなっちゃうけど……。
でも、同時に……ちょこっとだけ、怖くも感じちゃったりして……。
こんな気持ち、今まで経験したことなかったからなぁ……。
ホントに、どう受け止めていいのかわからないよ……。
「あーーーっ、もぉっ! また思い出しちゃったじゃない! 私のバカぁあああーーーっ!!」
王子にキスされそうになった瞬間のことが再び脳裏をよぎり、あまりの恥ずかしさに大声を張り上げてしまった。
ゴロンゴロンと右に転がり左に転がり、手足をバタバタさせ、髪をグッシャグシャにかき乱しても、恥ずかしさは少しも消えてくれない。(……まあ、当たり前だけど)
もう、次からは絶対、甘い雰囲気になったとしても流されたりしないんだから!
王子だって、明日には自分の国に帰っちゃうんだし……さっきもなんか、様子がおかしかった気もするし。
これから先は、甘い雰囲気になることなんてきっとないよね……。
……って、何ちょっと寂しく感じちゃったりしてるのよ、私ったら?
これじゃまるで……また甘い雰囲気になることを望んでるみたいじゃない。
……甘い雰囲気、か……。
そりゃあ……私だって一応、女の子なんだし。
そういう展開にだって、憧れくらいはあるけど……。
……ハァ。
私の気持ちが、疑いようもなく『これは恋だ!』って言い切れるくらい、確実なものだったらなぁ……。
すぐにでも王子に会いにいって、『私も好きです! この気持ちはやっぱり恋でした!』……って、伝えられるのに。
でも、未だにドキドキの正体が恋なのかどうかわからない、今のこの状態じゃ……なれるワケないよ、甘い雰囲気になんて。
……そう。なっちゃいけないのよ。
うやむやのまま流されちゃったら、きっと後悔すると思うし。
だけど、頭の中では王子に言われたセリフや、その時の彼の表情なんかが、いくつもいくつもグルグルと回り続けてて……。
顔のほてりや胸のドキドキは、なかなか治まってくれなかった。
あ~……なんかもう、慣れない感情でお腹いっぱい……って感じ。
今日はこれ以上、何も食べられない気がする……。
……あ。
でも……そっか。
まだ、夕食前なんだよね。
ん~……。
今日のメニューも、昨夜と似たような感じなのかな……?
……ふむ。
こっちのお腹は、ちゃんと空いてるけど……。
考えてみれば、当然だよね……。今日、お昼食べてないもん。
午前中に、神様の中で……神様と話したり、してて……。
昼食とってる暇なんて、これっぽっちもなかったもんなぁ……。
……あれ?
私……どれだけの時間、神様の中にいたんだろう?
あっという間だった気もするのに……結構、長い時間……だったん……だなぁ……。
神様……怒らせちゃった……けど……。
でも……そのうち、また……会いに行って、みよう……。
その前に、国王様にも、話……聞かなきゃ、だけど……。
神様と……国王様が、元は二人……で……一人、とか……ふたつで……ひとつ、とか……。
そんなようなこと……言ってた気がする、し……。
……考えても、頭こんがらがるようなことばかり……言わ……れて……。
……あぁ、もう……。
ワケ……わかんな……い……。
これから、この世界や……国の、こと……もっと……もっと、知らなきゃ……だし……。
やること……いっぱい……だぁ……。
うつらうつら、意識が遠のいていくのをベッドの上で感じながら……。
いつしか私は、深い――深い眠りへと沈んでいった。




