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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第7章 募りゆく想い

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第5話 罠に掛かった姫

「ちょ――っ、ちょっと待って! そこで止まって! 止まってくださいってばッ!!」


 少しずつ距離を詰めてくる王子に、私は両手を前に出して訴えた。


「どうして?……おかしな人だな。何をそんなに怖がっているんだい?」


 余裕たっぷりに微笑を浮かべた王子は、私の訴えを聞いてくれる気はないらしい。

 ゆっくりとした歩調ではあるけど、近付くことをやめようとしない。


「こっ、怖がってなんかいません! 怪しんでるだけです!」


「怪しいって……誰のこと?」


「王子ですっ!」


「……ひどいな。リア、君は本当にひどい。この私が、君に危害を加えようとしているとでも思っているのかい?」


「……き、危害を加えるとは思ってませんけど……。でもっ! 絶対、何か変なこと考えてるんでしょうっ?」


「『変なこと』? 『変なこと』って……具体的に言えばどんなこと?」


「それがわからないからっ!……け、警戒してるんじゃないですか」



 そうやって言葉のキャッチボールをしてる間にも、王子はジリジリジリジリ近付いてきて、さらに距離を(ちぢ)めようとしてくる。

 私は王子のスピードに合わせながら、一歩ずつ、一歩ずつ後ずさりして……。


 そんな感じだから、二人の距離は縮まるようでいて、いっこうに縮まることはなかった。



「ふぅ……。仕方ない。君がそれほどまでに嫌がるのなら……残念だが、諦めよう」


 ふいに、王子はそう言って立ち止まった。


「『諦めよう』?……ほーらっ、やっぱり! やっぱり何か、変なことしようとしてたんでしょうっ?」



 あー、よかった。警戒しといて。



 私は内心ホッとしながら、手の甲で額の汗をぬぐった。


「リア……。だから、『変なこと』ではないよ。君と、ちょっとしたゲームをしようと思っていただけなんだ」


「――へっ? ゲーム?」


「そう、ゲーム。……ゲームは好きかい?」


「えっ?……そりゃ、まあ……嫌いじゃないですけど……。あ。でも、ゲームの種類にもよりますね」


「種類? たとえば、どんなゲーム?」


「……ん~……。そうですねぇ……」



 改めて訊かれると、とっさには出てこないもんだなぁ。



 ゲーム……ゲームかぁ……。

 う~ん、ゲームねぇ……?



 ゲームって言っても、この世界には家庭用ゲーム機はないだろうし、PCも携帯ゲーム機も、もちろんスマホだってないよね?


 ――とすると、ゲームって……えっと、たとえば……オセロとか?

 囲碁や将棋じゃシブ過ぎるし……第一、やったことない。


 あとは……カードゲーム?

 トランプとか、タロット――……は、ゲームじゃなくて占いか……。



 んーっと、じゃあ……そうだ! 花札はっ!?


 あれはゲーム自体より、派手な色彩とか絵柄とか、猪鹿蝶とか花見酒とか月見酒とかって役の名前が、なんか綺麗で好きなんだけど。



 ……ま、当然、この世界にあるワケないよね。



 ――っと……ん?


 ……ああ、そっか。

 そもそも、この世界にどんなゲームがあるか知らないんだから、好きなゲーム訊かれたって答えられるワケないんだ。



「王子。この世界のゲーム……って?」


 顔を上げたら、王子の顔がすごく間近にあって……一瞬、固まった。


「へ……?」


 思いっきり油断してた私は、すぐには事態が飲み込めず……。


「掴まえた」


 ニッコリと微笑む王子に私の右手首はしっかりと掴まれ、もう片方の手は腰に回されて……。

 気が付くと私は、まんまと王子の手中に落ちていた。


「……~~~っ!」


 (だま)されたとわかり、恥ずかしさと悔しさで、体中が燃えるように熱くなる。


「ひ……ひどいっ! 『どんなゲームが好き?』とかって訊いといて……騙したんですねっ!? こっちが一生懸命考えてる間に、こんな――!……バカっ! 王子のバカバカっ! 卑怯者(ひきょうもの)っ、恥知らずーーーーーッ!!」


 思いきり手足をバタつかせてもがいても、王子の体は相変わらずびくともしない。それどころか、さも余裕ありげにクスクス笑っていたりして……。


「リア、君は本当に可愛いね。だが……こうも簡単に警戒していた相手に隙を見せてしまうとなると、少し心配かな」


「――は!? 心配っ?……何がですかっ!?」


 訊ねつつも、私は往生際(おうじょうぎわ)悪く、王子の手からどうにかして逃れようと、渾身(こんしん)の力を振り絞って抵抗を続けていた。


 それでも王子は顔色ひとつ変えず、


「何がって……。君を狙って、他の男が同じようなことを仕かけたとしたら困るだろう? 君はやはり、たやすく罠に掛かってしまうのだろうし……」


「な――っ! そんな心配しなくても、こんなことする人は王子くらいしかいませんっ!」



 ……ホントに、こんな意地悪な人初めてだ。



 あっちの世界では、私の周りにいる男子は、みんなどこか子供っぽかったし、意地悪の仕方も呆れるほどレベル低くて……。

 言い返したり反撃したりなんてことは、簡単にできた。


 私が意地悪されっぱなしで終わる――なんてことは、絶対なかったのに……。



「……そうかな? 君は、男という生き物が本当はどんなものか……特に、どうしても手に入れたいと思っている人を前にすると、どう変わるのか、まだ理解してはいないだろう? 男が欲望に駆られて本気を出したら……怖いよ?」


 一瞬、王子の瞳が(あや)しく光り……ゾクッとした。

 怖いって……王子のことが怖いって、ちょっとだけ思ってしまった。


 でも、そんなこと悟られたくなくて、


「怖い? 怖いって、何がですか?――確かに、こうやって無理矢理体の自由を奪われて――次に何されるかわからないって状態は怖いですよ? でも……でも王子は、私が心の底から怖がったり嫌がったりするようなこと、絶対にしませんよね?――いいえ、できないはずです」


 ……なーんて、強気に出てしまい……。


「ふぅん……? そう考える根拠は何? 私に、君を好きだという弱みがあるから? 好きな相手に嫌われるのが怖いから、私は何もできない。できるわけがない。――そう言いたいのかい?」


「そ――っ、そこまでは言ってません、けど……」


「では、どうして? 君が――私が何もできないと思う理由を、是非とも教えてもらいたいな」


「――っ!」



 ……マズイ。


 なんだかわからないけど、王子の瞳の輝きが……ますます強くなった、ような……?



「ねえ、リア? 教えてくれないのかい?」


「――う、うぅ……」


「君がそう思うのは、何か確信めいたものがあるからだろう? だったらそれを……ハッキリと口に出して、説明して欲しいんだが」


「……う……、うぅぅぅ……っ」



 ――ヤバイ!

 完全にヤバイ!!


 王子の顔が、どんどん近付いてくるよぉおおーーーーーッ!!

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