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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第7章 募りゆく想い

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第1話 マズイこと?

 セバスチャンと何気ない話をしながら、私は王子が戻ってくるのを待っていた。


 十数分ほど経った頃、再び王子がアルフレドに乗って現れ、


「待たせて済まなかったね。カイルの介抱はアンナたちに頼んできたから、もう大丈夫だろう。すぐに医師に診てもらえるそうだし、安心してくれていいよ」


 にこやかに告げると、私に向かって手を差し出した。


 一瞬、彼の手を取ることをためらってしまったけど……。

 カイルさんも心配だし、わざわざ迎えに戻ってきてくれた王子に対し、冷たく振る舞うこともできない。


 私は彼に手を伸ばし、大人しく馬に乗せてもらった。

 そしてセバスチャンは、私たちの後をトテトテと徒歩でついてきた。





 数分ほどで城に到着し、王子に馬から降ろしてもらうと、私は一直線に城内へ駆け込もうとした。

 だけど、王子に『リア!』と呼び止められて振り向くと、


「カイルなら、私が利用させてもらっている部屋に運んだよ。看病や、その他の手配はアンナに頼んでおいたから、そう慌てずとも大丈夫だ」


 そう説明してくれて、私はホッと胸をなで下ろした。


「それでも君は……彼のところへ行くんだろうね?」


「え?……あ、はい。アンナさんがいてくれれば問題ないでしょうけど、やっぱり心配ですし。様子だけでも見てこようかなって思ってます」


「……まあ、だろうね。君のことだから、このまま放っておくわけはないだろうと予想はしていたが……」


 王子は複雑な表情でため息をつくと、どこか遠くに視線を移した。


「……へ? 何ですか? 私がカイルさんの様子を見にいくと、何かマズイことでも?」


「まずいよ。まずいに決まっているだろう?」


「はぁ……?」


 困惑顔で告げる王子の意図がわからず、私は首をかしげた。



 マズイって……何がマズイんだろう?

 寝込んでる人の様子が気になるのは、当たり前のことだと思うけど……。



 キョトンとする私の頭に、王子はそっと手を置く。


「今は気を失っているとしても、いつ目覚めるかわからないだろう? アンナだって、席を外すこともあるだろうし……。そんな部屋の中で、君と彼とが二人きりになるなんて、考えただけでも胸が騒ぐよ。正直に言えば……彼のところには行かないで欲しい。つまりは、そういうことだ」


 噛んで含めるように告げた後、王子は顔を赤らめながら私をじっと見つめた。



 ……へ?


 『胸が騒ぐ』?

 カイルさんのところには行かないでくれって、それはつまり……。



「えっ!? もしかして、私とカイルさんがどうかなるんじゃないかとか、疑ってるんですか!?」


「……そうだよ。当然だろう? 想い人が他の男と二人きりになるだなんて、平静でいられるわけがない」


「ええ? でもカイルさんは、桜さんの護衛だった人ですよ? 桜さんがいなくなっちゃったから、今は私の護衛をしてくれてるだけで……。お互い、恋愛感情なんて少しもありませんし」


「本当に? 彼をただの護衛としか思っていない? 彼も君のことを意識していないと、ハッキリ言い切れるのかい?」


 真剣な眼差しで訊ねられ、今度は私が困惑する番だった。



 だって、カイルさんは桜さんが好きなわけだし。(本人はよくわからない――とか言ってたけど、そうとしか思えないし)

 桜さんがいなくなったら、今度は私に……だなんてあるわけないじゃない?

 カイルさんの桜さんに対する気持ちは、そんないい加減なものじゃないはずだもの。


「カイルさんのことは、すごく良い人だと思ってます。優しいし真面目だし、誠実そうですし。でも、それはあくまで人としてってことで、恋とは違うんじゃないでしょうか? それと、カイルさんの気持ちはカイルさんのものですから、私が断言できるはずもありませんけど……彼の気持ちは、私には向いてないと思いますよ?」


「本当に? どうしてそう思うんだい?」


「どうしてって、それは……」



 う~ん……どうしよう?


 カイルさんは桜さんのことを好きだと思うので――なんて、言えるわけないしなぁ。

 彼の気持ちを勝手に人に伝えちゃうなんて、失礼以外の何物でもないもんね?



 どう説明すればいいのかわからず、私が言いよどんでいると、


「やはり、ハッキリとは言えないのか……」


 王子がガッカリしたように下を向いて肩を落とした。


「だからっ! カイルさんは私のことなんてなんとも思ってませんってば! でも、本人の断りもなく、言い切ることなんかできないでしょ? ただそれだ――っ、…………け?」


 最後まで言い切らないうちに、何故か私は、王子の腕の中にすっぽりと収まっていた。


「ちょ――っ? い、いきなり何してくれてんですかっ?――離してっ! 離してってばっ!」


「離さない。……君が私のことだけを見てくれるまで、絶対に離さない」


「な――っ!……何をまた、バカなこと――」


「バカなことを言っているのはわかっている!……わかってはいるが……どうしようもないんだ」


「……王子……?」


 少しも余裕の感じられない王子の態度に、私は困惑した。



 昨日まで余裕しゃくしゃくとしてて、憎たらしいくらいだったのに……。

 私をからかっては、クスクス笑って。何かと子供扱いされて、悔しくて堪らなかったのに。


 今の王子からは、そんなの少しも感じられなくて……。



「君のことになると、気持ちの抑制(よくせい)が利かない。見苦しいとわかっていても、どんなに心がやめろと叫んでも……(はや)る気持ちをどうすることもできない。君を前にすると、王子としての立場や体裁(ていさい)など、どうでもいいとさえ思ってしまう。こんなことは初めてだ」


「王……子……」


 耳元で響く切なげな声が、私の抵抗力を奪った。

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