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第2話 お着替えしましょ?

 衣装部屋では、メイドっぽい服を着た二人の女性が待ち構えていた。

 一人は、五十代くらいの大柄な人。もう一人は、私と年齢が近そうな少女。


 私を見て一礼すると、まずは年配の人の方がニッコリ笑って。


「おかえりなさいませ、姫様。ご無事で何よりでございました」


「あ、えーっと……ただいま、です。ご心配おかけして、すみませんでした!」


 ペコッと頭を下げたら、二人は目をまんまるくして、一瞬固まった。


「ひ、姫様!? おやめください、そのような……。もったいのうございます」


 二人は目配せし合い、どうやら困っている様子。



 ……あれ?

 謝っただけなんだけど……何かマズかったかな?



「姫様、この者たちは姫様の身の回りのお世話をしております。年配の者がメイド頭のアンナ、隣がエレンでございます」


「セバス様?」


 鳥さんがそれぞれを紹介すると、二人は顔を見合わせた後、不思議そうに鳥さんを見つめた。



 ……ん?

 今、『セバス様』って言わなかった?


 鳥さんの名前かな?



「ねえ、鳥さん。セバスって?」


「はい。私めの名でございます。セバスティアンとお呼びください、姫様」


「セバス……ティアン?……なんか呼びにくいから、セバスチャンじゃダメ?」


「ひ、姫様……! 名を変えろとは、そんなご無体な……」


 ガビーン! って頭上に文字が出そうなくらい、セバスチャンがショックを受けている。



 でも、執事っぽい名前っていったら……やっぱり〝セバスチャン〟だよね?

 なんだかよくわからないけど、昔からそう決まってるのよ。



「あの、もしや……姫様はお加減がお悪いのですか?」


 アンナさんが不安げに私を見つめる。


「うむ。それについては後で説明するゆえ、今は支度を優先させるのだ。――それでは姫様、私は外で控えておりますので」


 セバスチャンは私に告げた後、一礼して出ていった。



 う~ん、それにしても……。

 あの翼で、どうやってドアノブをつかんでるんだろう?……不思議。



「姫様、こちらにお着替えを」


 セバスチャンが出ていったドアを見つめ、ボケーっとしていたら、アンナさんに声をかけられた。


「あ、はい」


 手を伸ばした瞬間、エレンさんが私の服に手をかけて、


「姫様。こちらのお召し物は、あの……珍しい形でございますね。それに、その……何と申しますか、おみ足が……」


 何故か顔を赤らめている。



 ……ああ、スカートの丈が短いってことか。

 そりゃあ、お姫様はこんな服着ないだろうけど……ってか、この世界の人はみんな着ないか。



「姫様、何事がおありになったのです? そのような、はしたないお召し物にお着替えさせられてしまうなんて、なんとおいたわしい……。セバス様の前では、言いにくいこともおありだろうと黙っておりましたが、もう我慢できません! どうかこのアンナに、全てお話しくださいませ!」


 いきなり何を勘違いしたのか、アンナさんがうっすら涙を浮かべながら、私に詰め寄ってきた。


「え、はしたないお召し物?……これが? この程度で?」


「この程度!? 何をおっしゃいます! 姫様ともあろうお方が、お肌をお(さら)しになって外をお歩きになるなど……前代未聞(ぜんだいみもん)でございますよ!? さあ、お早く! そのはしたないお召し物をお脱ぎあそばしませ!――エレン!」


「は、はいっ」


「えっ? ちょ、ちょっとちょっと、何を――!?」


 二人は寄ってたかって、私の制服に手を伸ばし、強引に脱がせようとしてくる。

 私は自分を抱き締めるようにして体を丸め、手伝おうとする彼女達の手を頑なに(こば)んだ。


「ちょっ、やめ……っ! 着替えなんて一人でできるからっ!」


「何をおっしゃいます? 姫様のお着替えは、エレンの仕事でございますよ? 今までずっと、そうしていらしたではございませんか」


「それは――っ、そうなのかもしれない、けどっ!……でも、もう大丈夫だからっ!」


 私は二人の手から逃れ、アンナさんからドレスを奪い取った。


「これからは着替えは一人でします! たった今、そう決めました! だから二人は、着替えるまで外に出ててっ?」


 キッパリと宣言すると、アンナさんは『これが私達の仕事でございます』だの、『セバス様にお叱りを受けます』などと訴えてきたけど。

 セバスチャンには後で私から説明しておくからと説得し、ようやく部屋から出ていってもらえた。



 お姫様にとっては日常的なことでも、私にとっては未知のことだし。


 第一、人に着替えさせてもらうなんて恥ずかし過ぎる!

 誰が何と言おうと、これだけは断固拒否してやるんだから!



 そんなことを思いながら、私は制服を脱ぎ捨てた。

 そしてブラに手をかけた瞬間、ふと疑問が脳裏をかすめる。



 そう言えば、この世界に〝ブラジャー〟なんてものは存在するんだろうか?

 存在しないとしたら、この先どうしたらいいんだろう?



 着替える服を広げて、デザインを確認してみる。


 お姫様のドレスというから、レースやリボンがこれでもか! って付いてるような、ひらひらふわふわしたドレスを想像していたけど、思ったよりシンプルだった。


 レースやリボンは胸元にちょこっと付いてる程度。袖は上の方だけ(ふく)らんでいて、他は腕にぴったり沿()う感じかな?

 丈は結構長め。くるぶし辺りまである。


 簡単に言えば、ちょっと飾りのついた長めのワンピース。

 このくらいなら、着るのに抵抗はないけど……ブラは外せそうにないな。



 ……仕方ない。この世界の下着のことは、あとでアンナさんかエレンさんに訊くことにして。

 とりあえず、今はブラを付けたまま着ちゃうしかないみたい。



 私は慌てて〝姫様のドレス〟に着替え、大きく深呼吸してから、衣装部屋のドアを開けた。

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