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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第6章 初恋は突然に

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第7話 不機嫌な騎士見習い

「えっと……。それでね、カイルさん。カイルさんに伝えなきゃいけないこと、なんだけど……」


「はい」


「その……伝えなきゃいけないことが、ホントにいっぱいあってね。えー……っと……長くなりそうだから、とりあえず顔上げて?」


「――はい」


「それで……。それから、そのぉ~……」


 私はちらっと、横目で王子を窺った。


「あの……王子?」


「ん? なんだい、リア?」


「え~っと……。カイルさんと、二人だけで話したいことがあるんで……席、外してもらえませんか?」


「えっ?」


 私からそんなお願いをされるとは思っていなかったのか、王子は目を見開いた。

 いつもキリッとしている形の良い眉が、困惑したように八の字に近付く。


「……しかし、二人きりというのは――」


「お願いします!」


 王子の言葉をさえぎって大声でお願いすると、私は思いきり頭を下げた。



 カイルさんは、桜さんのことが好きなんだもの。


 その彼女が、もうこの世界には戻ってこられないかも――って知ったら、やっぱりすごくショックだろうし……。

 もしかしたら、取り乱しちゃうことだってあるかもしれない。


 そんなとこ、王子には見られたくないと思うし……王子の前では、本音で話しにくいと思うんだよね。


 だから……。



「お願いしますっ!」


 大きな声で、もう一度。

 受け入れてもらえるまで、頭は上げないつもりだった。


 そんな私の雰囲気を感じ取ったのか、頭上で王子は深々とため息をつき、


「……わかった。君にそこまでされてしまったら、無下にはできないからね」


 渋々といった感じだったけど、お願いに応じてくれた。


「ありがとうございますっ!」


 勢いよく上半身を上げ、私は満面の笑みを浮かべる。


「ただし……」


 王子はそっと、私の耳元に顔を寄せると、


「私が君に求婚している最中だったことを、忘れないで欲しい。……後でまた、私のために時間を作ってもらうよ。いいね?」


 妙に艶っぽくささやき、私の頬に素早くキスをした。


「な――っ!……なな、な~~~……っ!」


 びっくりして、金魚みたいに口をパクパクする私に、王子はにこりと笑いかけてウィンクする。


「アルフレドと、少し時間を潰してくるよ。それまでに話を終わらせておいてくれ。――カイル、リアを頼む」


「――は!」


 カイルさんに一声かけ、ひらりとアルフレドに飛び乗った王子は、颯爽(さっそう)何処(いずこ)かへと駆けて行った。

 私は両手でキスされた方の頬を押さえ、呆気(あっけ)に取られたまま、遠ざかって行く王子の背中を見送る。



 な……なんなの、あの人?

 いっつも突然、変なことしてきて――!


 ……それに、ウィンクって……。

 あんなキザなことする人、なかなかいないよね……?



 恥ずかしいやら呆れるやらで、王子の去っていった方角をしばらくボーっと見つめていた。

 すると、


「ギルフォード様と、ずいぶん親しくなられたのですね」


 気が付くとカイルさんが横にいて、すごく厳しい顔つきで私を見つめていた。

 なんだか、非難しているような……すごく冷たい眼差しで。



 カイル……さん?

 もしかして怒ってる――?


 ……でも、どうして……。



「しっ、親しいなんて、そんな――! 王子がやたらと私の反応面白がって、からかってくるだけで……。とっ、とにかく、べつに親しくなんかないですよ! 会ってからまだ二日ですよ? そんな早く、親しくなれるわけないじゃないですか!」



 ……ん?

 会ってから二日――?



 ……そっか。

 考えてみたら、王子と知り合ってから、まだその程度しか経ってないんだ。


 この国に放り出されてからだって、二日しか経ってないってことだよね?

 たった二日の間に、いろんなことがあったもんだから……なんだか信じられないけど。



 ……そっか。まだ二日。

 ……二日かぁ……。



「婚約というのは、どういうことなのですか? 姫様は、ギルフォード王子に婚約解消されたはずでは――?」


「え?……あ、あぁ、そのこと……。それは……ほらっ。なんていうか……えーっと……」


「サクラ様が姫様の代役をしていらっしゃる間に、王子の気が変わられた――ということなのですか? 本物の姫様ではないあなたに、恋をしてしまったと?」


「……へ?……いや、あの……」


「それでは、姫様が戻っていらした時に、また……また傷付くことになるのではありませんか? 姫様とあなたの違いに王子が気付いたら……再度、婚約解消ということになるのでは?」


「え? また姫様が傷付く?……って、それはないですよ。だって姫様は――」



 ――っと。

 カイルさんに、まだ何も話してないんだから、通じるはずないんだった。



「えっと……だからね? まずは落ち着いて、私の話を聞いてもらいたいんです。これから話すことは、きっと……きっと、カイルさんを悲しませてしまうことになると思うけど……。でも、聞いてほしい。聞いてもらわなきゃいけないの」


「サクラ様……?」



 桜さんを好きなカイルさんに。

 実は、桜さんはこの世界の人じゃなくて……私の方が、この世界の人間なんだってことを。


 そして、もしかしたらもう二度と……桜さんには会えないかもしれない、ってことを。



 伝えなきゃいけないのは、辛い。

 辛いけど……でも言わなきゃ。


 だって一番辛いのは……カイルさんなんだから。



 私はようやく真実を伝える覚悟を決め、カイルさんをまっすぐ見つめた。

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