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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第6章 初恋は突然に

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第4話 幼き姫との出会い

「あ――」


 王子の話がまだ途中だったことを思い出し、私は彼に駆け寄って頭を下げた。


「ご、ごめんなさいっ! セバスチャンが急に泣き出すもんだから、気になっちゃって……。えっと、それで……王子は十年前、私を見かけたことがある……んでしたっけ?」


「……ああ。今でもよく覚えているよ。君に初めて会った日のことは、ね……」


 王子はふっと微笑すると、昔を懐かしむような遠い目をして空を見上げた。


「聞かせてください。今度はちゃんと、最後まで聞きますから。――だよね、セバスチャン?」


「は、はい! もちろんでございますとも! 申し訳ございません、ギルフォード様。先をお続けくださいませ」


 セバスチャンは慌ててうなずき、王子へと向き直った。


「まあ、改まって聞いてもらう話でもないが……私にとっては大切な思い出だ。それに、リアの記憶を取り戻すきっかけにでもなってくれたら――とも思うしね」


 今度は子供のようにニッコリ笑うと、王子は十年前の思い出を語り始めた。


「私が婚約者の存在を知らされたのは、十歳の頃だったかな。隣国に姫がいるという話は、以前から聞いてはいたが……まさか、将来自分の妻になるかもしれない人だなんて、思ってもいなかったからね。初めは驚いたが……その頃はまだ、結婚というものがよくわかっていなかったから、拒絶のような感情は抱かなかったと思う。……ただ、その話を聞いてからというもの、姫のことで頭がいっぱいになってしまってね。会ってみたくて堪らなくなった。だから――ある時、こっそり城を抜け出して会いにいったのさ。将来、私の妻になるかもしれないという小さな女の子に――」


「城を抜け出して? 会いにいった……って……。え、どうやってですか? その時、まだ十歳だったんですよね?」


「ああ……それは、まあ……。協力者なしでは難しかっただろうが」


「協力者?」


 キョトンとする私に向かい、王子は誇らしげに微笑んだ。


「君にセバスがいるように、私にもいるんだよ。常に側にいて、支えてくれている存在が……ね」


「支えてくれる存在……? その人が、城を抜け出すために協力してくれたってことですか?」


「そうだよ。初めは反対されたが、根気よく説得したら、渋々承知してくれたんだ。――まあ、たとえ反対され続けていたとしても、どうにかして実行していたと思うけれど」


「……なるほど。昔っから、そんな感じの人だったんですね……」


 私はゲンナリして、ため息まじりにつぶやいた。


「ん? 『そんな感じの人』とは……?」


「……いえ、なんでもないです。お気になさらず、先を続けてください」


 こんなどうでもいいことで、話を中断されたくない。

 私はへららと笑って、先を(うなが)した。


「そうかい?……ええと……そういうわけで、協力者のお陰もあって、私は無事に城を抜け出し、アルフレドと共にこの国に向かったんだ。最初は本城の方を目指していたんだが……突然、この辺り騒がしい声が聞こえてきてね。気になったから、アルフレドを側にあった木に繋いで待たせておき、一人で声のする方へ歩いていった。すると、少し離れた木の下にセバスが見えた。セバスのことは、この国にきた時に見たことも話したこともあったから、知っていたんだが――そのセバスが、木の上を見上げて、何やらしきりに叫んでいたんだ」


「叫んでいた?……私が、でございますか?」


 顔を斜めに傾けて、セバスチャンが不思議そうに訊ねる。


「ああ。とても取り乱していたよ。木の下で、右へ左へいったりきたりと……。そしてこう叫んでいた。『姫様、危のうございます! 姫様! お願いでございますから、下りていらしてくださいませ!』」


「――おお! あの時のことでございましたか!……取り乱しているところをお目にかけてしまいまして、誠にお恥ずかしい限りでございます。まさか、あの場にギルフォード様がいらっしゃったとは……」


 納得したように、こっくりうなずくセバスチャン。


「……『あの時』? 『あの場』?……じゃあ、もしかして……その『姫様』って、私のこと?」


「もちろん。この国の姫は君しかいないだろう?」


「それは、まあ……そうなんでしょう、けど……」


「あの時のことは、今でもハッキリと覚えている。陽の光を浴びて、輝くような笑顔を浮かべていた、木の上の幼い女の子――。心配するセバスに向かって、『セバスもくればいいのに。気持ちいいよー!』などと、呼びかけていたな……」


「……私は、その……その頃から、少々体が重くなってきておりまして……あまり高くは、飛べなかったのでございます……。ですので、そのお申し出は……丁重(ていちょう)にお断りさせていただきました……」


 セバスチャンは心なしか顔を赤らめ、消え入りそうな声で告白した。



 セバスチャン……。

 やっぱり、ダイエットした方がいいのかも……。


 そのままの方が、ゆるキャラっぽくて可愛い気もするんだけど。

 せっかく立派な羽があるんだし。思いっきり飛べなきゃ、もったいないもんね。



 ……でも、さすが私。

 向こうの世界でも、小さい頃は木登りなんてしょっちゅうやってたもんなぁ……。



「えっと……それで王子は、どうしたんですか? 木登りなんてしてる姫が婚約者だってわかって、ガッカリ……したんですよね?」



 姫様が木登りするような〝じゃじゃ馬〟なんてねぇ。

 かなり呆れたに違いないよ……。



「がっかり?……私が? 何故?」


「え……。何故って、だって……。婚約者がそんなじゃじゃ馬……ってゆーか、おてんばってゆーか……活発過ぎると、嫌じゃありません?」


「嫌?――嫌なわけがないよ。むしろ嬉しかった」


「へっ?……う、嬉しい?」


「ああ、そうだよ。そのまばゆいばかりの明るさ、たくましさに、私は惹かれたのだから。そして、それが私の……初恋の瞬間だった」


 王子は少しはにかむように笑った後、私を意味ありげにじっと見つめた。

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