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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第5章 神様 ~御神木の桜~

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第12話 怒らせちゃった!

「ハァ……。可哀想な晃人」


 晃人の恋のライバルが王子だなんて。

 どう考えても勝ち目がない気がして、私がしみじみ同情していると、


「――は? 誰だ、あきとって?」


 直球で神様に訊ねられ、私はハッとなって口元を押さえた。



 ……ヤバイ。

 またしても、気持ちが声に出ちゃってたみたい。



「えっと……。晃人は、六歳からの私の幼なじみ。六歳までは、桜さんの幼なじみ」


「……おさななじみ……って、何だ?」



 ……ありゃ。

 神様にも通じないか。



「幼なじみは……えーっと……小さい頃から仲良くしてる人、かな?」


「小さい頃から?……ふーん……」



 神様、今の説明でわかってくれた……よね?



「――で? なんでそいつが可哀想なんだ?」


「え? えっと、それは……桜さんが、晃人の初恋の人だから」


「……はつこい?」


「うん。初めて好きになった人、ってこと。でも、桜さんは王子のことが好き……でしょ?」


「……ああ、そういうことか」


 神様は、急に面白くなさそうにそっぽを向いた。


「神様?」


「王子とかってヤツの話は、したくない。あいつのせいで、桜は何度も涙を流したんだぞ? そのたびにオレは、この辺りが苦しくなって……」


 胸元の布地をギュッと握り締め、神様は腹立たしそうな顔でうつむく。


「桜が『元の世界に帰りたい』って、ハッキリ口に出すようになったのも、あいつのことがあってからだ。あいつが桜を傷つけたから、桜は泣いて泣いて……ある時、オレに言ったんだ。『もうここにはいたくない。私の世界へ帰して』って……」



 ……そっか。


 やっぱり、私の思ってた通り。

 失恋の痛みに耐え切れなくなって、桜さんは……。



「王子ってヤツが桜を傷つけなかったら……オレたちは、もっと一緒にいられたかもしれないのに」


 悔しさと寂しさが混じり合ったような顔つきで、神様は(くう)をにらみつけた。



 王子が桜さんを傷つけなかったら……。



 ……ってことは、王子と桜さんがうまくいってたら、私は今でも桜さんの世界で、桜さんとして生きてたかもしれないのか……。


 だったら、私は一生……国王様に会うことも、セバスチャンに会うことも、カイルさんに会うことも、アンナさんやエレンさんや……そして、王子に会うこともなかったんだ……。



「……あれ?」



 今、胸の辺りがチクッとした。


 みんなと会えなかったかもしれないってことが、そんなに辛かった――?

 それほどまでに私は……こっちの世界の人たちを、好きになっちゃってるの?



 ……不思議。


 この世界にきて――ううん、戻ってきてから、まだ二日も経ってないのに。

 私はこんなにも……みんなのことを大切に思い始めてる。


 六歳までの記憶なんて――全然、思い出してもいないのにね。



「……おまえ、なにニヤニヤ笑ってんだ? 気持ち悪いヤツだな……」


「な――っ! に、ニヤニヤなんてしてないわよ! ただ、ちょっと……嬉しかったから……」


 ムッとして口をとがらせると、神様は怪しむように、私をじーっと見つめた。


「嬉しいって、何がだよ? 聞いてて嬉しくなるような話なんて、オレはしてないぞ?」


「……べつに、神様の話で嬉しくなったワケじゃないわよ。私は私で、いろいろ考えてたの!」


「って――……おまえ、オレが話してる時に、別のこと考えてたのか!? とことん失礼なヤツだな!」


「ちっ、違うもん! ちゃんと聞いてたってば! 聞いた上で、いろいろ思うところがあったってこと!」


 私と神様は互いににらみ合った。



 あーっ、もう!

 どうしてすぐ、神様とはこんな感じになっちゃうんだろう?


 もっと平和的に、話し合いたいんだけどなぁ……。



「う~……。とりあえず、落ち着こうよ神様。お互い、熱くなり過ぎてるよ。もっと冷静に話し合わなきゃ」



 ……でなきゃ全然、話が前に進まないし……。



「べっ、べつにオレは、熱くなってなんか……! おまえがいちいち突っかかってくるからっ!」


「な――っ! いったい誰が突っかかっ――……って、だからそうじゃなくて!」



 ……落ち着け。

 落ち着くのよ、私。


 神様は、こういう言い方しかできないんだってば。

 いい加減、慣れなきゃダメ。



 ……とにかく、冷静になるためにも。

 私と桜さんが、入れ替わるように別世界に飛ばされた理由を、おさらいしてみよう。



「え~っと、神様の話では、確か……『たまたま』私をあっちの世界へ飛ばして、桜さんをこっちの世界に引き寄せた――んだったよね? それって、ただのイタズラ心? 『面白そうだからやってみよう』って、軽いノリで実行して……すぐ戻すつもりだったのに、うまくいかなくて……十年も機会を待つ羽目になっちゃった、とか……そういうことだったりする?」


「う――っ」



 ……なるほど。


 図星だったみたいね……。



 神様は真っ赤な顔で絶句した後、うつむいたままモジモジしていたんだけど。

 少し経ってから顔を上げると、開き直ったように空中であぐらをかいて腕を組み、口をへの字にして――私をギリッとにらみつけた。


「ああ、そうだよ! 始めは、ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ。あっちの世界で桜を見つけた時、こっちの国の『姫』――おまえとそっくりだったから、少しの間こいつらを入れ替えてやったら、どんな面白いことになるだろうって。……ただ、それだけだった」


「……やっぱり。そういうことだったんだ……? 神様のちょっとしたイタズラ心が、二人の少女の運命も、周りの人たちの運命も、見事に狂わせてくれちゃったってワケなのね」


「うっ、うぅ……。おまえ、意地悪だな! そんな言い方することないだろ!? オレだって、ちょっとは反省して――」


「『ちょっとは』?……なんかさっきから、ホントに反省してるのかどうか、疑問に思えちゃうようなことばーっか言ってるよね?」


「し――っ、してるよ! 反省してる! だからさっきも謝っただろ!」


「え~? あれで謝ったって言えるの?……イマイチ、誠意が感じられない気がするんだけど……」


「お、おまえ――!……おまえというヤツはぁ~~~……」


 神様は悔しそうに歯噛みして、しばらく私をにらんでいた。

 でも、ふいにギュッと目をつむると。


「もういい! おまえと話すのも()きた! とっとと元の場所に戻れッ!」


「え!? ちょ――っ! ちょっと神様っ!?」



 マズイ!

 完全に怒らせちゃった!



 焦って取り(つくろ)おうとしたけど、遅かった。

 私は一瞬にして、再び現れた無数の桜の花びらに取り囲まれた。


「神さ――っ」


 呼びかけようと口を開けたとたん、数枚の花びらが口中に入り込んで、大きく()き込む。



 苦しい……!

 息が……でき、ない……。



 咳が全然止まらなくて、辛くて――気が遠くなりそうになる。



 ……誰、か……。


 誰か……助け……。



 ……ダメ。


 もう……限、界――……。



 徐々(じょじょ)に薄れゆく意識の中。

 誰かが私を呼ぶ声が……聞こえたような気がした。

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