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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第5章 神様 ~御神木の桜~

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第11話 幸せを願って

「オレには、詳しいことはわからん。あいつがどうやって最初の器を手に入れたのかも。どうやって次の器に移るのかも。そういうことは、直接本人に訊いてくれ」


「えっ!? 国王様に……?」



 ……そんなこと言われても……。


 私がリナリアだって判明してから、まだちょっとしか経ってないし。

 国王様が本当の父親って実感だって、まだ()いてない。


 なのに……国王様に直接訊け、なんてムリだよ……。



「……けど、最初の頃に比べると……あいつはどんどん、あいつの部分が減っていってる気がするんだよな。……オレのこと、遠ざけようとしてるし。ここにも、近付かないようにしてるみたいだし……」


 神様の表情が暗く沈み、その瞳は、今にも涙がこぼれそうに(うる)んでいた。


「『あいつである部分』?……それって、どういう意味?」


「だから! 器の中の()()()()()()だよ! 昔は器は変わっても、中はあいつそのものだったんだ。なのに、今の器の中のあいつは……」


「……あいつは?」


「……よく……わからん。うまく説明できない。あいつはあいつで、変わってないはずなのに……。でも、だったらどうして、あいつはオレを避けるんだ?」



 神様が、また悲しそうな顔をした。

 もしかして神様は――……。



「ねえ、神様。もしかして、国王様が会いにきてくれなくなって、寂しいの?」


「な――っ! そ、そんなんじゃないっ! オレはべつに、寂しくなんか――っ!」


「でも、国王様の話する時、すごく悲しそうな顔してるよ? それって、寂しいからじゃないの?」


「ち――っ、違うっ! 寂しくなんかないっ! オレは……オレは絶対、寂しくなんかないんだからなっ!」


 神様は真っ赤になって、プイッと顔を背けた。

 そうやってムキになるところが、肯定しているようなものだと思うんだけど。



 ……まったく、素直じゃないんだから。

 そんなに会いたいなら、『会いにきて』って頼めばいいのに。



「ねえ。私から、国王様に頼んであげようか? 神様が会いたがってるから、会いにいってあげてくださいって」


「バ、バカ言うなっ! オレがいつ、会いたいなんて言ったんだよっ!?」


「言わなくても、顔に書いてあるもん」


「えっ!?……って、そんなワケあるかぁっ!!」


 一瞬、顔に手をやりそうになったものの、神様はハッとしたように頭を横に振った後、思い切り私をにらみつけた。


「いい加減にしろっ! そんなに戻されたいのかっ!?」


「そういうワケじゃないけど……。まだまだ、神様には訊きたいことあるし」


「だったら大人しくしてろ! 桜みたいに聞き上手になれっ!」



 怒らせたくなかったら、って……もう怒ってるじゃない。

 また桜さんを引き合いに出すし……。



「神様って、ホントに桜さんのこと気に入ってたんだね。……でも、そんなに好きだった桜さんを、どうして元の世界に帰そうと思ったの?……あ。あっちの世界に戻っても、また会いにきてくれるって――そんな約束でもしてあるの?」


「約束?……してない、そんなもの」


「してないの? じゃあ、これから先は桜さんに会えなくなっちゃうよ? 神様はそれでいいの?」


「うるさいなッ! いいんだよ会えなくても! オレは――っ!」


 キッと私をにらみつけてから、またすぐに目をそらし、神様は深くうつむいた。


「オレは、桜が幸せになってくれるんなら、それでいいんだ。もう……桜が泣かずに済むんなら……」


「神様……」



 ……桜さん、やっぱり泣いてたんだ……。



 ……そうだよね。私みたいに、飛ばされる以前の記憶を失くしてた――ってワケじゃなかったんだもの。


 記憶があるまま、別の世界で別人として生きなきゃならなかったなら……お気楽に過ごしてなんかいられないよね。

 元の世界に戻りたくて……両親が恋しくて、きっとたくさん泣いてたはず。


 れに比べて、私は……。


 漠然(ばくぜん)とした不安とか焦りとかは感じてたけど、でも……記憶を失くしたお陰で、桜さんのご両親を、すんなり自分の両親だって思い込めた。

 たくさん優しくしてもらえたし、大切に育ててもらえた。


 晃人のことだって、幼なじみだとずっと思ってて……。

 たまにケンカになったりもしたけど、まあまあ仲良くやってたし……。



 私はあの世界にいても、困ることなんてなかった。

 あの世界のことが好きだった。心から好きになれた。


 記憶を失くしたからこそ、私は今まで幸せでいられたんだ。

 そのお陰で……ずっと楽しく過ごしていられたんだ。


 なのに桜さんは……記憶を失くさなかったせいで、ずっと独りぼっちで……。



 記憶があったかなかったかで、ここまで大きな差が生まれてしまうなんて……。



 なんだか、桜さんに申し訳なくて。

 私は祈るような気持ちでつぶやいた。


「桜さんは……元の世界に戻ったら、きっと幸せになれるよね……?」



 桜さんには、絶対、幸せになってほしい。

 今まで辛くて大変だった分、誰よりも幸せになってほしい……。



「ああ、なれるさ。そのためにオレは……桜を向こうの世界に戻したんだから」


 神様はやっぱり寂しそうに――でも、今度は淡い笑みを浮かべながら、小さくうなずいた。


「うん。そうだよね。幸せになれるよね」



 これからはお父さ――ううん、ご両親も、晃人もいるんだもん。



 ……あ。

 そう言えば晃人、桜さんが初恋だったんだっけ。


 ……フフッ。

 今頃、『また性格変わった』って、驚いてるかもしれないな。

 好きだった頃の性格――元の桜さんに戻って、喜んでるかも……。


 そのうち、昔の恋心が復活しちゃったりしてね。


 ……うん。

 二人がうまくいったら、それはそれで……。



 ――って、あれ?



 あー……そっか。

 桜さんは王子のことが好きなんだっけ。すっかり忘れてた。



 う~ん……王子が晃人のライバルかぁ……。


 それじゃあ、振り向かせるのは至難(しなん)(わざ)かもしれないなぁ……。

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