第1話 姫様の部屋
お城を見た時の率直な感想は、
(うわ~……。ホントにお城だぁ……)
だった。
ほら、ドイツの古城とかあるじゃない? ヨーロッパの貴族の住んでそうな……。
まあ、シンデレラ城とは、ちょっと違うけど。
……でも、ここまで思いっきり洋風だと、私がこの国の姫と勘違いされてることが、不思議に思えて仕方ない。
だって私、純和風――とまではいかないにしても、そこそこ日本人顔してると思うし。
少なくとも、ハーフ顔ってワケではないと思う。うん、絶対。
お城や国の雰囲気が、もっと和テイストのものだったなら、まだわかる気はするんだけど。
こうも洋テイスト前面に押し出されてるとなぁ……『マジで!?』としか思えなくなってくるよ。
どう考えても、この日本人顔に黒髪じゃあ、このお城にはマッチしないもんなぁ……。
……ホントのホントに、ここの『姫様』って私に似てるんだろうか?
鳥さんの目が、信じられないくらいの節穴! だったりするだけじゃないの?
う~ん……。
どんどん不安が広がってくよ~~っ!
私は腰かけたベッドで足をぶらぶらさせながら、深々とため息をついた。
お城に着いたとたん、
「姫様。お疲れのところ恐縮ですが、お部屋で少々お待ちいただけますか? まずは私から、陛下にご報告して参りますので」
とかって鳥さんにお願いされて。
私は今、『姫様の部屋』で待機中――ってワケなんだけど。
天蓋付きベッドとか、アンティークっぽい装飾の家具とか調度品ばかりで、なんだか落ち着かない。
私の部屋、もっとシンプルだから。
女の子っぽいところを挙げるとすれば、ぬいぐるみがいくつか置いてある程度かな。
――そう。
この部屋はやたら豪華だけど、ぬいぐるみのような和み系の置物はひとつもないのよね。
せめて、もっと暇つぶし系のアイテム(ボードゲームっぽいのとか、トランプとかけん玉とか)があればいいんだけど、それもなさそうだし……。
ここで待てと言われたものの、いい加減飽きてきて、
「鳥さん、遅いなぁ……。私の話が信じてもらえなくて、揉めてる……とかじゃなきゃいいけど」
思わず、そんな独りごとを漏らしてしまった。
……私、これからどうなるのかな?
一応、『姫様』だと信じ込んでるのは鳥さんだけで、自ら『姫様』を名乗ってるワケじゃないんだから、罪人とかにはされないと思うけど……。
でも、『姫様』じゃないってわかったら、このお城から追い出されちゃうんだよね?
そうすると、この先……見知らぬ国でたった一人、どうやって生きてけばいいんだろう。
あぁ……なんかもう、前途多難だなぁ……。
考えなきゃいけないことが多過ぎて、疲れがドッと出てしまった。
私は思い切り脱力して、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
するとそこに、ドアをノックする音がして。次に、鳥さんの声が聞こえた。
「姫様、お待たせいたしました。陛下がお会いしたいとのことです。お召し物を着替えましたら、共に参りましょう」
「え? お召し物を着替えましたら……って、わざわざ着替えるの? この服のままじゃいけないの?」
「そちらのお召し物は……国王様にお会いするには、少々ふさわしくないと思われますので」
困ったような鳥さんの声色に、『そりゃそうか』と思い直し、私はベッドから体を起こした。
「でも、お召し物って言われても……。えーっと……」
私は辺りを見回し、クローゼットらしきものを探した。
それはすぐに見つかったけど、ごくごく普通のサイズで、私は思わず目を見張った。
お姫様のクローゼットって言ったら、もっとこう……ドレスがずらずらずらーっと並べられてるような、大きなものを想像してたんだけど……。
私はかなり拍子抜けしながら、クローゼットに手をかけた。
すると、
「姫様、衣装部屋にご案内いたします。陛下をお待たせしておりますので、お早く願いますぞ」
とかって、鳥さんに急かされてしまった。
……え。
衣装……部屋?
部屋……って……。
「えーーーっ!? 服だけのための部屋があるの!?」
ウォークインクローゼットとか、そんなレベルでもないのね?
……そうですか、部屋。
部屋ですか……。
さっすがお姫様、スケールが違うわ……。
「姫様? いかがなされました?」
「あ……ううん! 今いくから、ちょっと待ってて!」
お父さんに会うってだけで、いちいち衣装部屋なんかにいって、着替えなきゃいけないなんて。
姫様って、思ってた以上に大変そうだなぁ……。
私は顔も知らない(……いや。似てるっていうなら、私と同じような顔なんだろうけど)姫様に、心底同情したくなった。