第10話 国王様の謎
「あいつがどうやって人間の器を手に入れたか、オレは知らない。オレが知ってるのは、『人間になる』と言って出ていったあいつが、次に会った時にはもう――ザックス王国の国王ってものになってた、ってことだけだ」
「ザックス王国の……国王、に……」
……あれ?
でも……たしか、ザックス王国の初代国王は普通の人とは違う――特別な力があったって、王子が言ってたけど……。
それがもしかして、今の国王様?
……まさか! そんなワケないじゃない。
初代国王が今の国王様――ってことだったら、どれだけ長いこと生きてるの? ってことになっちゃう。
不死身だっていうならまだともかく。
そんなこと、あり得ないよねぇ……?
国王様が不死身だとしたら、周りの人たちが気味悪がって騒ぎ出すだろうし。
不死身だと覚られないまま過ごしてくなんて、不可能だろうしね。
……ってことで、不死身の可能性は除くとしたら。
国王様がここを出ていったのは、せいぜい何十年か前――ってことになるんじゃないの?
――もう!
神様が『ずーーーっと昔のこと』だなんて言うから、勘違いするとこだったよ。
「まったく! あんまり混乱させないでよね、神様ってば。ただでさえ、理解しにくいことばっかりなのに」
ブツブツと文句を言うと、神様はキョトンとした顔で首をかしげた。
「混乱させる……って、オレがか?」
「そりゃそうでしょ! 他に誰がいるってのよ!?」
「な――っ、なんだよその言い方はっ!? オレはべつに、おまえを混乱させようなんて思ってないぞっ?」
「でも実際、思いっきり混乱したのよこっちは! 国王様が『ずーーーっと昔』に出ていったとか言うから、百年とか二百年とか、それくらい前のことなのかと思っちゃったけど……せいぜい何十年か前のことなんでしょ?」
「なんじゅうねんまえ?……オレは人間じゃないから、人間の時の流れの感覚なんかわかるはずもない。けど、あいつがザックス王国ってヤツの最初の国王になってから、かなり経ってるんじゃないのか? 今の代で十何代目とか何とか、言ってたような気がするし……」
……は?
今……『最初の国王』とか、『十何代目』……とかって、言ってなかった?
「あの……神様? 神様の言ってる『あいつ』って人は、その……何人もいるの?」
「はぁ? 何言ってんだ、おまえ? あいつはあいつだ。何人もいてたまるかよ」
……え……?
ちょ――っ、ちょっと待って?
なんだか、また混乱してきたぞ……?
『あいつ』って人は、一人。
その『あいつ』は、私の本当の父――ザックス王国の王、クロヴィス。
そしてまた、初代国王も『あいつ』で……。
えぇええっ!?
いったい、どういうことよ!?
「わかんない! 全ッ然、わかんないよ神様っ! 『あいつ』って、初代国王のことなの? でも、『あいつ』は私の父親だって――クロヴィス・ザクセン・ヴァルダムのことだとも言ったよね? いったい、どっちがホントなの? どっちかが間違ってるんでしょ?……だってそうじゃなきゃ、『初代国王』と『今の国王』は同一人物――ってことになっちゃうもん。そんなのおかしいよね?」
一気に疑問を吐き出すと、神様は怪訝な顔つきで私をじっと見つめた。
「おかしいって……何がだ? どっちも本当のことだし、間違ったことなんて言ってないぞ?」
「ええっ!? だって、そしたら……二人は同一人物ってことになっちゃうよ……?」
「そうだぞ。どっちも同じヤツで、同じあいつだぞ?」
「え――……えええええーーーーーッ!?」
さも当たり前のことのようにうなずかれ、私は驚愕のあまり絶叫してしまった。
「おかしいよ! それはどう考えたっておかしいでしょ!? だって、二人が同一人物だったら、国王様ってば今いくつなのよ!? 人間ってのは、そこまで長く生きられるもんじゃないんだから! 国王様は人間なんでしょ? 人間になったんでしょ? だったら絶対絶対ぜーーーったい、そんなのあり得ないよ!」
一気にまくし立てたせいで、酸欠状態だ。
私は喉元と胸を押さえ、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返した。
次から次へと、おかしな話を聞かされて……なんかもう、キャパオーバーって感じなんんですけど?
「ああ、だから――当然、器は変わってるぞ。最初のから今のまで、どれくらいだったかは覚えてないけど……たぶん、たくさん変わってる」
「……へ?」
神様がさらっと返した言葉に、また一瞬、私の思考は停止した。
……えーっと……。
器が、変わってる……?
しかも、たくさん?
……え?
ちょっと待って。それって、つまり――……。
「器が変わってるってことは……体が変わってる、ってことなんだよね?……でも、中身は変わってないってことは……国王様は、初代、二代、三代――って、歴代の国王様の体を乗っ取り続けてて……で、今に至る――ってこと?」
……『乗っ取る』って言い方は、正しくないのかもしれないけど……。
え~と、じゃあ……乗っ取るって言うよりは、『共有』かな?
ひとつの体に、ふたつの魂が入る……みたいな?




