第7話 ホントの桜、ホントの家族
正直に『可愛い』って見た目の感想を話しただけなのに。
神様は急に真っ赤になって、照れ隠しの憎まれ口を叩いてきた。
「……べつに、ふざけたつもりはないんだけど……。ホントに、心から可愛いな~って思ったから」
「う――っ、うるさいうるさいっ! 黙れこの――オタンコナスっ!!」
……おたん……こなす……?
え~っと……。
意味はよくわからないけど、流れからして……けなされてるんだよね?
「まったく、おまえは本当におしゃべりだな! 桜はもっとおしとやかで、オレの話を、いつも穏やかに聞いてくれてたのに……。顔は同じでも、中身がここまで違うとはな! 本当に驚きだ」
不機嫌そうな顔に戻ってしまった神様は、そっぽを向いたり、私の顔をちらりと見たり、下を向いたり――と落ち着きなく顔を動かしながら、失礼な言葉を放ってよこした。
「『顔は同じでも』って、別人なんだから違ってて当たり前でしょっ? いちいち比べないで!」
姫様が――いや、本物の桜って子がどんなに素敵な子なんだか、私は直接会ったワケじゃないんだし、わかるはずもないんだけど。
でも、相手がどんな子であろうと、比べられるのは……やっぱり、気分のいいことじゃない。
ホントは私だって、彼女に直接会っていろいろ聞きたいし、確かめたいことだってあ――……。
「あっ、そーだっ! 神様、桜さんもここに呼んでっ? 話したいこと、たくさんあるの!」
そうだ。そうだよ!
神様の力で、呼んでもらえばいいんだ!
どうして今まで思いつかなかったんだろう?
「桜を――呼ぶ?……ここへ?」
「うん! できるんでしょ、神様なら?」
「……無理だ」
「えっ?」
当然できるだろうと思っていたのに、あっさり断られてしまった。
「え……え、なんで? どうして無理なの?」
「オレの力だって、万能なワケじゃない。桜がオレの側にいる時なら、できないこともないけど……今はいない。だから無理だ」
「……なんだ、そっか。……無理、なのか……」
そう言えば、私にも『こっちにこい』とか、『オレに触れろ』とかって言ってたっけ……。
「じゃあ、姫様――じゃなくてっ、えっと、桜……さんも、無事にあっちの世界に戻れたんだね。ホントの家族のところに……」
……ホントの、家族……。
バカだな、私。
自分で言ったことに、自分で傷ついてる……。
私だってずっと……ホントの家族だって思ってたんだけどな。……お父さんも、お母さんも。
晃人のことだって、ホントの幼なじみだって思ってたのに……。
「桜は自分の家族のこと、忘れてたワケじゃなかったからな。おまえよりは、困ったことにはならないと思うけど……。まあ、心配があるとすれば、向こうのヤツらがどう思うかだよな……」
「……え? 向こうのヤツらがどう思うか――って、どういうこと?」
「さっきも言っただろ! おまえたちは見た目はそっくりでも、中身は全然違うって。長い間、おまえを桜だと思ってたヤツらから見たら、桜の人格が変わっちまったって――そんな風にしか思えないだろ?」
あ。……そっか。
私だって、性格の違いのせいで……別人だって、すぐにカイルさんや王子にバレちゃったんだもんね……。
「桜……大丈夫かな? うまくやっていけるかな、あっちで――」
顔を曇らせてる神様を見て、内心ムッとした。
……なんなの? 私と桜さんとでの、この態度の違いは……?
それに、ずっと交流があったっぽいし……。
そのせいか、桜さんにはやたら好意的って言うか、優しい感じだし……。
「神様と桜さんって、ずいぶん仲がいいみたいだけど……しょっちゅう会ったりしてたの?」
ストレートに疑問をぶつけると、神様はあっさりうなずいた。
「ああ、会ってたぞ。しょっちゅうってほどじゃないけど、たまにな」
「な――っ!……会ってた? 会ってたの?……じゃあ、めちゃめちゃ仲良かったってこと!?」
私なんて、姿見たのも今日が初めてなのに!?
「……なんだよ、仲良くちゃ悪いのかよ? 桜には、いろいろと迷惑かけちゃったしな。ちょっとは責任感じてたし……。心配だったんだよ」
……って、ちょっとちょっと。
私には迷惑かけてない――とでも言いたいの?
しかも『ちょっとは』って……。
「それに、おまえは全っ然、オレの側にこなかっただろ。ずーっと呼びかけてたのに」
え?
呼びかけてた……?
……あっ!
もしかして、夢の中でずーーーっと、呼ばれてるような気がしてたのって……。
あの声は、神様だったの――!?
「……なんだ。そーゆーこと……だったんだ。呼ばれてる気がした――じゃなくて、ホントに呼ばれてたのか……」
「そうだよ! お陰でだいぶ長いこと、チャンスを待たなきゃいけなかったんだからな!? ぜーんぶ、おまえのせいだぞ!」
「な――っ!」
……何、その言い方!?
勝手に違う世界に飛ばしといて……悪いのは全部、私だってーの!?
ジョー……ッダンじゃないわよッ!!
……んん?
でも、待って?
それとも私……何かしたの?
異世界に飛ばされても仕方ないと思えるような――何かいけないことを、六歳の私はしちゃったの……?
だから神様は、その時のことも含めて……私のこと怒ってる……とか?
「ね……ねえ、神様? 私、もしかして……神様に何かしたの? だからそんなに怒ってるの?」
「怒ってるよ! さっきから言ってるだろ? オレが必死に呼びかけてたのに、おまえは全然気付かなかったって!」
「――じゃなくて、六歳の頃! 小さい頃に、私は何かしちゃったのかって訊いてるの!」
「……は? 小さい頃?……何の話だ?」
「だっ、だって! 神様が桜さんと私を入れ替えた理由が、そもそも全ッ然わかんないんだもん! だから、もしかしたら……六歳の私が神様を怒らせて……その罰として、異世界に飛ばされちゃったのかな? って思って……」
「……罰?……そもそもの、理由……?」
神様は一瞬、キョトンとして……。
それから急に、バツの悪そうな顔をして目をそらせた。
「……神様?」
どうしたんだろう、神様?
いきなり黙り込んじゃった……。
私は困惑しながら、神様の様子を窺った。




