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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第4話 王子と二人きり?

 馬上の王子は一言も発することなく、ゆっくりと馬を歩かせている。

 私も初めての乗馬と、王子の両腕に挟まれるていることで緊張してしまい、沈黙を貫いていた。



 ……う~ん……。

 なんでこんなことになっちゃったのかなぁ?


 王子がこっちに着くのは明日ってことだったから、全っ然、心の準備してなかったよ……。



 それに、一国の王子様がたった一人で馬に乗って――しかも、こんな真っ暗な中やってくるなんて、いったい誰が思うっていうの?

 てっきり馬車か何かで、供も数人引き連れて……って風に、ものすごく派手に登場するんだろうと思ってたのに。



 横向きで馬に揺られながら、私はそうっと王子の顔を窺った。



 月明かりの下で改めて確認してみても、美形という印象は変わらないけど……。


 正直なところ、もっと柔らかな雰囲気の人を想像してたかな。


 この王子、美形は美形でも〝端正〟っていうより〝精悍〟って表現の方が合ってる気がするし。

 キリッとした顔つきは、王子より騎士ってイメージなのよね……。



「リア」


「……ふぇっ?」


 唐突に名を呼ばれ(私の名前じゃないけど)、私の心臓はドックンと跳ね上がった。


「先ほどは慌てていたから、言うのが遅れてしまったが……。すまなかった。君に怪我をさせてしまうなんて……」


「え……? あ、いえっ! 確かに驚きはしましたけど、夜、あんなところに人がいるなんて誰も思わないでしょうし。ケガって言っても、ちょこっと擦っただけです。気にしないでください」


 焦って答える私をじぃっと見つめてから、王子はゆるゆる首を横に振った。


「いや。どんな理由にしろ、怪我をさせてしまったのはこちらの落ち度だ。他国の姫君に――クロヴィス様の大切な一人娘である姫君に怪我をさせたとあっては、申し訳が立たない」


「そんな! 大げさすぎて、逆にこっちが困っちゃいますよ。本人が大丈夫って言ってるんですから、それでいいじゃないですか。――ねっ?」



 この程度の傷に、そこまで深刻な反応されてもねぇ。

 まるで、国際問題になりかねない――とでも言ってるみたいじゃない? さすがにそれはないでしょ。



「リア……。ありがとう。やはり君は優しいね」


 くすぐったそう笑みをこぼす王子は、真顔の時よりも幼く――少年のように見えた。





 私たちが城に戻ると、城中は大パニックになった。



 ……まあ、明日くるはずの王子が突然現れたんだから、無理もないけど。

 しかも王子ときたら、歩けるって散々言ってるのに、半ば強引に私をお姫様抱っこしてきて……。



 うぅ……っ、恥ずかしい。


 どうしてこの人は、こんなにも平然と恥ずかしいことができちゃうんだろう?

 王子様って、みんなこんな感じなの?


 だとしたら、私は王子様という人種とは一生関わりたくない!……かもしれない。



「サクラ様!――いえ、姫様。いかがなさいました? お怪我でもなさいましたか?」


 夕食を運んできたらしいアンナさんとエレンさんが、私の姿に目を留めたとたん、慌てて駆け寄ってきた。


「腕を少し擦っちゃったの。ほんのちょこっとだけ。なのに、王子が……」


「王子――?……あ! あなた様は――」


 私を抱き上げているのが王子だと気付くと、二人は慌てて後ずさり、深々と頭を下げた。


「申し訳ございません! ギルフォード様がいらっしゃるとは存じ上げず、大変なご無礼を……!」


 二人の手が、緊張のためか微かに震えているように見えた。

 そのことから、『この人、やっぱり本物の王子なんだな』と再認識する。


「こちらこそ、突然の来訪で驚かせてしまって、すまなかったね。不躾(ぶしつけ)なのは私の方なのだから、君たちが謝る必要はないよ。二人とも顔を上げて」


 王子の言葉に反応し、二人はゆっくり顔を見合わせ、恐る恐る顔を上げた。


「どうやら、リアは食事の時間らしいね。私の分も用意しなくてはと、料理人たちは慌てているだろうが……。私は軽いもので構わないと伝えてもらえるかな? 急に押しかけた私が悪いのだから、過剰なもてなしは不要だとね」


「は、はい! かしこまりました!」


 二人は慌ててお辞儀をし、足早に去っていった。


「――さて。ここはリアの部屋のようだし……もう大丈夫かな?」


 二人を見送ると、王子は私に向き直って微笑んだ。


「だから、最初から大丈夫だって言ってます! さっさと下ろしてください!」


 ムッとして言い返すと、王子はクスクス笑いながら、ようやく私を解放した。



 ……さて、これからどうしよう?


 セバスチャンは城内の混乱を鎮めるために、今後の指示を出しまくってるだろうし。

 アンナさんたちは、王子の夕食の準備に戻っていってしまった。


 こんなところで、いつまでも突っ立ってるわけにもいかないし……。

 でも、部屋で王子と二人きり――っていうのも、何だか気まずいしなぁ……。



「リア? 何を一人でソワソワしているんだい?」


「な――っ! 別に、ソワソワなんてしてませんっ!」


「……そう? ならいいけれど」


 王子は再びクスッと笑い、落ち着いた様子で腕を組み、壁に寄りかかった。



 な……なんなの、この人!?

 さっきから、まるでからかってるみたい。


 馬に乗っていた時は、あんなに真剣な顔で謝ってたクセに……。



「それで? 私はいつまで、ここでこうしていればいいのかな? 私を部屋に入れるのをためらうのもわかるが……長い間、馬を飛ばしてきたのでね。疲れているんだ。できれば、部屋で休ませてもらえるとありがたいんだが――」



 う……っ。


 そこまで言われると、断るわけにはいかなくなっちゃうじゃない……。



「ごめんなさい、気が利かなくて。……じゃあ、どうぞ」


 私はドアを開け、王子に部屋に入るよう促した。


「ありがとう。レディの部屋に入るのは気が引けるが……。来客用の部屋の支度はまだ済んでいないようだし、仕方ないよね?」


 王子は満足そうに微笑んで、ためらう様子は少しも見せずに部屋に入った。

 まったく、『レディの部屋に入るのは気が引ける』なんて、どの口が言ってるんだか。



 それに……なんだろう?

 なんだかわからないけど、さっきから妙な違和感が……。



 王子って、最初からこんな感じの人だったっけ?



 王子の第一印象と今の印象とに、微妙なズレが発生している気がして、私が考え込んでいると、


「どうしたんだい、リア? ドアを開けたまま、またぼうっとして」


 からかうような笑みを浮かべながら、王子が話しかけてきた。


「べっ、べつに『ぼうっと』なんかしてません!」


「ふぅん……そう? ならば早くドアを閉めて、ここへきて座ったらどうだい?」


「…………」


 私は無言でドアを閉め、少し警戒しながら王子のいる方へ歩み寄った。ゆっくり椅子へ近付き、怖々腰を下ろす。

 それを見届けると、王子も向かいの椅子に座り、テーブルの上で両手を組み合わせ、私を真正面から見つめた。


「な……なんですか? 私の顔に、何か付いています?」


「いいや? ただ――今日のリアは、いつもと何か違うな……とね」


「――っ!」



 な、なんだか私……いきなり疑われてるっ!?

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