第10話 王子襲来!?
国王様からいきなり王子の来訪を告げられ、焦った私は早口で訊ねた。
「明日って、いつ頃ですか!? 朝? 昼? それとも夜っ?」
「いや、そこまで詳しくはわからぬが……。了承を得る前に無礼で申し訳ないが、今からそちらに向かうと――姫に会ってきちんと話をしたい、とな。書状にはそう書いてあった」
「今……?」
今こっちに向かってて、明日着くってことは……。
「ねえ、セバスチャン? 王子って、歩いてくるワケじゃないよね?」
私はひそひそ声でセバスチャンに訊ねた。
「当然でございます。一国の王子ともあろうお方が、共も連れずに、お一人で歩いていらっしゃるなどあり得ませんからな。通常は馬車でございましょう」
馬車?
……そっか。
やっぱり、この世界に自動車はないのか……。
手紙のやり取りが伝書鳩っぽいのだったり、着てる服が古めかしいデザインばかりだったから、私がいた世界とは、まるっきり違ってるんだろうなとは薄々感じてたけど……。
じゃあ、この世界にコンビニやファストフード店やレンタルビデオ店――なんかは、当然ないんだろうなぁ……。
「……サクラ様?」
――ハッ!
いけないいけない。
今は、そんなことにショック受けてる場合じゃなかった。
「え……えっと……。馬車だと、ここまでどのくらいで着くのかな?」
「……フム。あちらをお発ちになってからの経過時刻にもよりますが……。書状をお出しになってからすぐにお発ちになったとすると、恐らく明朝でしょうな」
「えっ、朝!? そんなに早く着いちゃうの?」
馬車って、すごいアナログなイメージだけど、結構速いのかな?
それとも、ルドウィンって国が、ここから近いところにあるのかな?
……あ~、でも困ったなぁ……。
王子がこっちにきちゃうんじゃ、あっちに向かう途中で姫様捜すって計画が、ダメになっちゃったじゃない。
あーもー!
会ったこともないし、どんな人か、よく知りもしないけど……。
ギルフォード王子のバカ!
大人しく向こうで待っててくれれば、こっちから訪ねてってあげたのにーーーっ!
「サクラ様、いかがいたしましょう? このままでは、姫様をお捜しする口実が……」
「わかってる。今、新しい手を考えてるとこ」
国王様の目を気にしながら、私とセバスチャンは小声で次の作戦の相談を始めた。
「私たちが動けないとなると、ここはやっぱり、カイルさんにお願いするしかないのかな?」
「それしかないと思われますが……。しかし、カイルにも姫様――この場合サクラ様のことですが――お守りするという役目がございます。他に何か特別な命でも与えぬ限り、ルドウィンに向かわせるのは難しいかと……」
「特別な命? それってセバスチャンが与えればいいの? それとも、国王様からの命令じゃなきゃダメ?」
「ダメということもございませんが、カイルは姫様専属の護衛ですので。姫様からの命であった方が、私からというよりは正当かと思われます」
「なるほど。じゃあ、私がカイルさんに何かお願いすればいいのか。……う~ん……。どんなお願いなら自然かなぁ? 今日の朝から捜してても見つからなかったんだから、捜索には、結構時間掛かっちゃうかもしれないんだよね?……とすると、数日戻ってこなくても変に思われないくらいの内容……じゃなきゃいけないよね?」
叶えるために数日掛かりそうなお願いって、どんなのだろう?
たとえば……かなり離れた場所にある、今の時期しか咲かない花を摘んできて――とか?
でも姫様って、控えめで思慮深い人……なんだよね?
そんな人がいきなりワガママ言い出しちゃあ、それこそ変に思われるか。
うぅ……、どうしよう?
全っ然、いい案が浮かばない。
ここは一度戻って、みんなに相談した方がいいかも……。
「ごめん、セバスチャン。私の頭じゃこれ以上は無理みたい。早く戻って、みんなの意見を聞こう?」
「さようでございますな。恥ずかしながら、私も良い案などさっぱり浮かんで参りません。ここは一度、失礼いたしましょう」
セバスチャンは国王様に向き直り、
「陛下。姫様は至急お部屋にお戻りになり、ギルフォード様をお迎えするための準備をなさりたい、とのことにございます」
「……準備? ギルフォードを迎えるのに、何の準備がいると言うのだ?」
国王様は怪訝そうに私たちを交互に見つめる。
「それは……いろいろあるのでございますよ。姫様もお年頃ですから……」
セバスチャンはそう言うと、私にチラッと目配せした。
……これは、話を合わせろってことよね?
「そうなんです。いろいろあるんです、いろいろ。……というワケで、失礼しますっ!」
私はペコリと一礼してから、国王様に背を向けた。
「ピッ!?……わ、私も失礼いたしますっ」
後を追うようにセバスチャンも一礼し、私たちは足早に部屋を出た。
国王様に口を挟む隙を与えないために――。
「……参ったなぁ。どうしてこう間が悪いの? ホントにもーっ。余計なことしてくれるんだから、王子ってば!」
部屋を出た瞬間、思わず愚痴がこぼれた。
「サクラ様。ギルフォード様は姫様の行方が知れぬことなど、ご存じないのですから」
「むぅぅ~。わかってる。わかってるんだけどさ~」
でもやっぱり、王子も王子よ。
会いたいなら、直接くればよかったのに。
手紙で遠回しに断るようなことするから、姫様だって傷付いたんじゃない?
まあ、姫様が自分の意思で出てったって確証は、まだないんだけど。
直接、王子の口から気持ちを伝えられてたら……姫様だって、城から出ようなんて思わなかったかもしれないのに。
……むぅ。
いろいろ考えてたら、だんだん腹立ってきたな……。
王子に会ったら、ぜーったい、文句言ってやるんだから!




