第9話 騎士見習いの笑顔と急展開
廊下に出てきたカイルさんは、
「サクラ様――で、よろしかったでしょうか?」
改まった様子で、私の名前を確認してきた。
慌ててカイルさんに向き直った私は、そうだと返事をする。
彼は私をしばらくじっと見つめてから、深々と頭を下げた。
「先程は、失礼な物言いをしてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした! 本来なら、無関係であるあなたにお願いできることではないのですが……どうか、姫様の捜索に協力してください!」
「えっ? えっ?」
「協力してくださるのでしたら、姫様が見つかるまでの間、全力でお守りいたします! 決して危険な目には遭わせぬと、お約束いたします! ですから、どうか――っ」
……ハァ。
カイルさんって、本当に姫様のことが好きなんだなぁ……。
突然現れた正体不明の小娘に、ここまで必死に頭下げて、お願いしてくるなんて。
私はなんだかジーンとしてしまい、自然と笑みがこぼれた。
「カイルさん、頭を上げて? そんなことまでする必要ないよ。私が協力したいから、やってるだけのことなんだから」
「……サクラ様」
頭をゆっくりと上げ、カイルさんは不思議そうに首をかしげる。
「何故です? どうして、そこまでしてくださるのですか? 私たちに協力したところで、あなたには何の得もないでしょうに――」
「得? 得はあるよ。協力したら、私が元の世界に戻る方法、一緒に考えてくれるんでしょ?」
「それは、まあ……。しかし、私たち全員が知恵を出し合ったところで、良い案が浮かぶという保証はどこにもないのですよ? それなのに……」
「それは私も一緒だよ。私が協力したところで、姫様が絶対に見つかるって保証はないでしょ? でも、全部やってみなきゃわからないことじゃない。うまく行くにしても行かないにしても、何もやらずにいるよりはずっとマシだよ」
一気に言い切ると、私は笑ってうなずいた。
「とにかく、国王様にお願いしてみる! うまく話が通るかどうかわかんないけど、やるだけやってみるから! カイルさんたちは、私のお願いが国王様に受け入れてもらえるように、ここで祈りながら待ってて?」
「サクラ様……。承知いたしました。ここで良い返事を――あなたが戻られるのをお待ちしています」
「うん!――じゃあセバスチャン、案内をお願い!」
「ピッ?……は、はい! こちらでございます」
セバスチャンは片方の翼を広げて、向かう方向を指し示した。私はそれに続きながら、ふと、あることに気付く。
そう言えば、話の最後にカイルさん、笑ってたな……。
笑うとなんか、可愛いっていうか、柔らかいイメージ?
ずっと厳しい……強張ったような顔しか見せてくれてなかったから、ちょっと新鮮だったなぁ……。
「サクラ様? ご機嫌うるわしく微笑んでいらっしゃいますが……良いことでもございましたかな?」
「えっ?」
セバスチャンにツッコまれ、私は両手で顔を挟んだ。
「……私、笑ってた?」
「はい。とても嬉しそうに」
「……そっか」
「いかがなさったのでございます?」
「フフッ。……な~いしょっ」
私の返事に、セバスチャンはショックを受けたように大きく体をのけ反らせた。
国王様に再び会いにいった私は、『ギルフォード王子に会いに、ルドウィン国にいきたいんです!』と申し出た。
驚いた様子で目を見開いてから、国王様は軽くため息をつき、
「急に会いたいと言ってもな……。一国の王子に会うというのは、そう簡単なものではないのだよ」
困惑気味に眉根を寄せ、諭すように答える。
「わがままなのはわかってます! 無茶だっていうのも、なんとなくわかります」
「なんとなく、か……」
「あ、いえっ! よくわかってます……けど!」
ここで引くワケには行かないのよっ!
姫様の行方を、なんとしてでも突き止めなきゃいけないんだから!
「会わなきゃいけないんです! 会って、どうしても確かめたいことがあるんです! 国王様のお力で、どうにかなりませんか?」
「……おまえが確かめたいというのは、この間の書状の内容についてか?」
――うっ、バレてる。
……いや、普通わかるか。娘のことだもんね。
「そうです。本人の口からちゃんと理由を聞かないと、納得行かないので。直接、確かめに行きたいんです」
「おまえの気持もわかるが……。ギルフォードは真面目で誠実な男だ。気まぐれや、いい加減な気持ちで、このような言い分を伝えてくる人間ではないのだよ。そのことは、おまえが誰より理解していると思っていたが?」
……いや、わかんないです。
会ったことないですし。
――なんて、言えるワケもなく……。
私は黙ってうつむくことしかできなかった。
しばらくは重苦しい沈黙が横たわっていたんだけど。
「ピピッ!?」
突然、セバスチャンが窓辺へと近付き、両手(翼?)をバタバタし始めた。
「陛下、ルドウィンより書状が届いたようでございます。少々お待ちくださいませ」
セバスチャンが大きな窓を開け放つと、一羽の鳥が入ってきて、セバスチャンの片翼にとまった。
「……え? セバスチャン、その鳥って――?」
「私の直属の部下でございます。ルドウィンとの書状のやりとりは、この者を通して行うのです」
直属の部下? この可愛い小鳥さんが?
……部下って、どういうこと?
セバスチャンって、姫様の爺やさんなんでしょ?
爺やさんに、部下とかっているんだっけ?
それに、この世界の鳥って生き物は、みんなセバスチャンみたい(言葉話せたり、大きかったり、洋服着てたり、人間のように歩けたり)なのかな? って思ってたんだけど。
この小鳥さんは、私の世界の小鳥さんと変わらないような見ためと大きさだし……。
私がボーッと考えている間に、セバスチャンは部下の小鳥さんの足についている筒状の入れ物から、細く巻かれた紙のような物を取り出し、国王様に渡していた。
国王様はその小さな書状を読み終えると、意外そうに目を見開いた後、私に向かって苦笑まじりに告げる。
「リア。ルドウィンまでいく手間が省けたぞ。明日、ギルフォードがこの城を訪れるそうだ」
私はしばらくポカンとし、数秒ほどしてようやく意味を理解してから、心の中で絶叫した。
ギルフォード王子がこっちにくる!?
しかも明日ぁあああーーーーーッ!?




