第8話 ひとつの提案
場の雰囲気を良くしなきゃと焦った私は、『手掛かりがそこにしかないなら、そこから攻めてみるしかない』というようなことを主張した。
でも、イマイチ伝わらなかったみたい。
「……は? 攻める……と申しますと?」
キョトンとした顔で、セバスチャンが首をかしげた。
「だから、隣の国の王子よ!……ねえ、セバスチャン。その王子って、最初のうちは結婚話に乗り気だったの?」
「――は? いえ、ギルフォード様がどう思っていらっしゃったのかまでは、私にはわかりかねますが……」
「でも、嫌がってる感じじゃなかったんでしょ? 急に心変わりした――ってことも、考えられるんだよね? だったら、心変わりの理由を知りたいって思うのが普通じゃない?」
「ピッ!? もしやサクラ様……。姫様がギルフォード様のお心を確かめたいがため、隣国へ向かったと思っていらっしゃるのですか?」
「それはわからないけど……。でも、可能性はあると思う」
「ですが、サクラ様。姫様は物静かで慎重なお方です。その姫様が、お一人で城を抜け出し、隣国へ向かわれるとは――」
セバスチャンは納得できていない様子だった。
他のみんなはどうかと見回してみると、
「セバス様、他に何の手がかりもないのです。私が隣国まで確かめに行って参りますので、至急、陛下に許可をいただいてきてください」
有無を言わさぬ口調で、カイルさんがセバスチャンに要請した。
「ピョピョッ!? 陛下に!?……いや、しかしそれは……」
「セバス様! こうしている間にも、姫様が危険にさらされているかもしれないのですよ!?――森を抜けなければ隣国に行くことはできません。森には野盗もうろついています。その先には危険が山と転がっているのです! セバス様は、姫様がどうなられようとも構わないとおっしゃるのですか!?」
セバスチャンはカイルさんの剣幕に驚き、しばらく口をパカーッと開けたまま固まっていた。
アンナさんとエレンさんは、どうしていいのかわからない様子でオロオロしている。
私はと言うと――実は、結構冷静だった。
だって、カイルさんが焦るのは当たり前だもんね。
姫様は大人しい性格の人みたいだし、自分の身を守ることなんて、できないに決まってる。
一刻も早く捜し出して守ってあげなきゃって、ジリジリしちゃうのもわかる。――それが好きな人なら、尚さら。
だけど……セバスチャンがためらっちゃうのも、わかる気がするんだ。
国王様は、娘が無事に戻ったって知って、安心したばかりなんだもの。
なのにまた、『さっきの姫様は偽者でした。本当の姫様は、隣国の王子に一人で会いに行ったらしいです』なんて報告受けたら、二重にショック受けちゃうだろうし……。
そう考えた私は、ダメ元で提案してみることにした。
「カイルさん。あなたの気持ちもわかるけど、国王様は私を姫様だと思ってて、ついさっき、無事に戻ったってホッとしたばかりなんだよ? そんな国王様に、また心配をかけるのは……って、セバスチャンがためらっちゃうのも無理ないと思う。だから、もう少しだけ……私に姫様を演じさせてもらえないかな?」
「姫様を……演じる?」
「うん。私が姫様のフリをして、国王様にお願いしてみるの。『王子に〝結婚したくない理由〟を直接訊ねたいので、会いに行ってもいいですか?』って」
「会いに行く?……あなたが、ギルフォード王子に?」
「姫様として会いに行くなら、問題ないでしょ? 隣国に向かう途中で姫様が見つかったら、めでたしめでたしだし。見つからなかったら、私が王子と会って時間稼ぎしてる間に、カイルさんが捜し回ることもできるし」
これがうまくいって、姫様が無事見つかったら……国王様に余計な心配かけることもないもんね。
――うん。これで全て解決!
「よっし! じゃあ早速、国王様にお願いしに行ってくるね!――行こう、セバスチャン!」
「ピッ!?……ささっ、サクラ様!? お待ちください、サクラ様っ!」
セバスチャンの制止も聞かず、私は部屋を飛び出した。
それからまっすぐ、国王様のところへ――!
……と、まっすぐ……行きたかったんだけど……。
えーっと……。
私たち、さっき……どっち側から歩いてきたんだっけ?
「サクラ様! お待ちくださ――っ、ピャヒャッ!?」
突っ立っていた私の背中に、セバスチャンがぼふんっとぶつかってきた。
前のめりになってよろけてしまったけど、それには特にツッコむことなく、私はその場に立ち尽くしていた。
「サクラ様? いかがなされました?」
「え?……あ、えー……っと……。国王様って、どこにいるんだっけ?」
このお城広いし、部屋数もやたら多そうなんだもん。
一度や二度行ったくらいじゃ、部屋の位置なんて覚えられないよ。
……私、方向オンチだし。
「それはご案内申し上げますが……。あの……本当に、先程のお話を実行に移すのでございますか?」
「当たり前じゃない! 国王様を心配させずに姫様を捜し出す方法ったら、これしかないでしょ? それともセバスチャンは、もっといい方法があるって言うの?」
「……いえ。残念ながらございません」
「だったら! まずは行動してみようよ。やってみてダメだったら、また他の方法考えればいいんだし」
「……は、はぁ……」
まだ乗り気じゃないっぽいセバスチャンを、説得するため口を開くと。
背後でドアが開き、神妙な面持ちのカイルさんがこちらに向かって歩いてきた。




