表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第11章 急展開

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/140

第1話 戻ったとたん

「えっ、地面がない!?」


 扉の外へ一歩足を踏み出した瞬間。体は空中へ投げ出され、私は真っ逆さまに落下した。


「ひゃあっ!?」


「ピギャッ!!」


 ぼふんっという弾力のある感触と、ふわふわもふもふの肌触り……。


「セバスチャン!」


 初めてこの世界に落ちてきた時と同じだ。私はまたしても、セバスチャンの上に落下してしまったようだった。


 慌てて体を起こして立ち上がると、セバスチャンはゆっくりと顔を上げた。


「ピ……? ひ、姫様っ!……ああ、ようございました。ご無事でお戻りになったのですなぁ~」


 私の顔を見たとたん、じわりと瞳を潤ませる。



 ……う、マズい。

 このままじゃ、またメソメソ泣き出しちゃう。



 焦った私は、あえて返事をすることなく、両手でセバスチャンを抱き起こした。

 彼の体についた汚れを払ってから、何気なく辺りを見回すと――。


「……ありゃ? だいぶ暗くなっちゃってるね」


 森の中ってこともあるのかもしれないけど、予想以上に薄暗くなってしまっている。



 こりゃあヤバイぞ。早く城に戻らなきゃ。



 急いで戻ろうと伝えるため、セバスチャンを振り返る。

 すると、心配そうにこちらを窺っているシリルの姿が目に入った。


「シリル!……うわー、シリルも待っててくれたんだ? ごめんねー、長いこと待たせちゃって?」


 謝りつつ近付くと、シリルはふるふると首を横に振った。


「いっ、いいえっ! だ、大丈夫ですっ! ひ、姫様のためならいつまでだって待ってます!」


「……シリル……」



 もう。可愛いことを言ってくれちゃって……。



「ありがとうっ、シリル! 私もシリルのためなら、なんだってしちゃうからねっ」


 キュンとして、思い切り抱き締める。

 シリルはしきりに恐縮して、


「そ――っ、そそっ、そんなっ!……も、ももももったいないお言葉でございます!」


 どもりまくりのシリルの頭をなで、


「うんうん。ホントにシリルは可愛いねー。……っと、いけない。そろそろ戻らなきゃ。ね、セバスチャン?」


 言いながら振り返ると、セバスチャンはのんびりと相槌を打つ。


「はい。さようでございますなぁ。急がねば、日が暮れてしまいますし……」


 ――その時だった。

 シリルはハッと息をのみ、私をかばうように片手を横に出して、辺りの様子を窺い出した。


「姫様、急いで私の後ろに!」


 普段はおっとりしているシリルの聞き慣れない鋭い声に、私はビックリして目を見張る。


「えっ? どうしたのシリル?」


「シッ!……申し訳ございません。しばらくの間、静かにしていてくださいますか?」


「へっ? あ……う、うん……」


 いつになく深刻な表情のシリルに、私の心臓はドックンと跳ね上がった。



 こんなにピリピリしたシリル、初めて見た……。

 いったい、どうしたんだろう?



「……姫様、セバス様。私が合図を出しましたら、城に向かって全力で走ってください。いいですね?」


「えっ?……で、でも、シリルは?」


「僕は大丈夫です。こう見えても、姫様の護衛役ですよ?」


「シリル……」


「姫様、シリルの指示に従いましょう」


 セバスチャンに促され、心配ないと言うようにニッコリ笑うシリルを見て、私は渋々うなずいた。



 しばらくは三人とも、周囲の様子を窺いながら、その場でじっとしていた。



 私も耳に意識を集中してみたけど……全然ダメ。

 風に揺れる木々のざわめきと、どこかで聞こえる鳥の声くらいしか捉えることができなかった。


 普段はほわ~っとしているのに。

 やはりシリルは、天才剣士と言われるだけのことはあるのかもしれない。


 すぐ目の前にあるシリルの華奢な背中を、私は初めて頼もしく感じた。



「……三人、だと思います」


 ふいに、シリルがつぶやいた。


「え? 三人って?」


「前方の木の陰に一人、右手の茂みの後ろに一人、あとは……左手の木の上に一人。こちらの様子を、さっきからずっと窺っています」


「えっ、そんなのわかるの!?――っと、ごめん……」


 思わず大きな声を出してしまい、慌てて小声で謝った。


「いいえ。……ただ、困りました。こうも囲まれていては、どの方向に走っても、すぐに行く手を阻まれてしまうでしょう」


「そっか……。でも、いったいどんなヤツらなの?」


「それは……。申し訳ございません。そこまでは――」


「あ、ううんっ。三人いるってわかっただけでもすごいよ。私なんて、全然わかんなかったもん」


 感心してシリルを見つめると、彼は恥ずかしそうにうつむいた。


「いえ、そんな……。私はまだ、見習い中の身ですし……」


「まだ見習いなのに、これだけ鋭い感性持ってるなら充分すごいってば。きっと、誰よりも立派な騎士になるよ、シリルは」


 なんだか、自分のことみたいに嬉しくなってしまって。

 一瞬、緊迫した状況下なのも忘れて、私はニヘラと笑みをこぼした。


「姫様……」


 消え入りそうな声で恐縮するシリルの頭を、またナデナデしたい衝動に駆られたけど、我に返ってググッと我慢する。



 ……いけないいけない。

 どうも私ってば、緊張感に欠けるわ……。



「ねえ、セバスチャンもわかるの?」


 ひそひそ声で訊ねると、意外にも、セバスチャンはこっくりとうなずいた。


「はい。うっすらとではございますが……。只今、配下の者に様子を探らせておりますゆえ、少々お待ちくださいませ」



 ……へ? 『配下の者』……?


 そんな人、いったいどこに?



 ぼけっと考えていると、一羽の小鳥がパタパタと近付いてきて、セバスチャンの肩に留まった。

 ピユピユと何やらさえずると、再びどこかへと飛び去る。


「……ふむ。やはり、三人の男が潜んでおるそうです。野盗のような格好はしておらず、騎士のような姿である――とのことでございます」


「え? なんでそんな詳しいことがわかったの?……え? まさか……」



 今の小鳥っ?

 鳥が教えてくれたってこと!?



「はい。私には、側にいる同族を味方にし、使役する能力がございますので――」


「へぇ~……。それも『神の恩恵を受けし者』の力?」


「はい。そう呼ばれる者たちは、皆一様にそのような能力をそなえております」


「……なるほど。そういうことなんだ……」



 ――なんて、感心してる場合じゃないって!

 三人潜んでるって、これでハッキリしちゃったんだから。

 しかも、周りをがっしり囲まれてて、袋のねずみ状態だし……。



「どうしよう……。私も剣さえあれば、ある程度は応戦できるのに」


「姫様! そのような危険な真似、許されませんぞ!」


「でも! 相手は大人の男の人たちなんでしょ? それをシリル一人に相手させるなんて……。いくらシリルが天才だからって、無茶すぎるよ!」


「シリル一人ではございません。今、あの者に仲間を呼びに行かせております」


「――仲間?……って言ったって、あんな小さい子たちじゃ……」


「姫様、セバス様!――来ます!」


 シリルの鋭い声が飛ぶ。


「え? 来るって……」


 顔を上げた私の目に、ゆるゆると三方向から近付いて来る、剣を手にした男たちが映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ