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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第10章 新しい日々

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第14話 会いたいから、会いに行く

 いきなり神様に『桜に会いにいく』と宣言された私は、ポカンとして訊ねた。


「会いに行く?……桜さんに?」


「そうだ。桜に」


「会いに行くって……え、どういうこと?」


「前にも言ったろ? オレの力はすっかり弱まっちまってて……桜をここに呼び寄せるとか、たぶん、もう無理なんだ。けど、オレがあっちに行くくらいなら……もしかしたら、なんとかなるかもしれない。だから、行くんだ」


「そんな……。力が弱まってるってわかってて、それでも行くの? そこまでして、桜さんに会いたかったの?」


 私の問いに、神様は見たこともないくらい素直な――ちょっと照れたような顔で、ポツポツと語り出した。


「オレさ。あいつが――おまえの父親が恋だのなんだのってわけわかんないこと言って、出て行っちまった時……すっごく腹が立ったんだ。腹が立って、悔しくて……『何が恋だ、バカバカしい』くらいに思ってた。人間の女なんかに入れ込んで、何考えてんだってさ……。けど、桜がオレの前からいなくなって……もう二度と会えないのかもしれないって思った時に、なんかこう……。その……うまく言えないんだけど、さ……」


「え? それって……。じゃ、じゃあもしかして……神様、桜さんに恋……を?」


 頬を真っ赤に染め、恥ずかしそうに視線をそらせると、神様はコクリとうなずいた。


「そっ……か……。神様、桜さんに恋――してるんだ?」



 ……そっか。

 だからあんなに、桜さんのことばっかり気にして……。


 なんだ、そっか。

 そうだったんだ……。



「桜が、あっちでちゃんとやれてるかも気になるし……さ。だから、行こうと思うんだ。――いや。もう行くって決めたんだから、絶対行く! 何が何でも行く!」


「……神様……」



 真剣な顔の神様は――どこか嬉しそうでもあった。

 人を好きになれた喜びで、すごく輝いて見えた。



 ――でも――。



「神様……。会いたい気持ちはわかるけど、そんなに弱ってて大丈夫なの? 呼び寄せるのと、直接向こうに行くのとでは、どれくらい力の消耗具合が違うのかとか、よくわからないけど……。ちゃんと向こうまでたどり着けるの?」



 寿命がどうのって話を聞いちゃった後だから、どうしても心配になってきちゃうよ……。



「そんなの、オレにだってわからない。けど、もう決めたんだ」


「きっ、……決めたんだ、って……」


「いいんだ。たとえたどり着けなくても。途中で力尽きて、消滅することになったとしても。オレはやっぱり……桜が好きだから。ここで、ただウジウジしてるだけなんて耐えられない。結果なんて二の次だ。行きたいから行く。それでいいんだ」


 神様は、すっかり覚悟を決めているみたいだった。

 『あとは実行するのみ』。……そう顔に書いてあった。



 ……すごいな。さすが神様。

 思い立ったら即実行、か……。



「カッコイイね、神様。即断即決かぁ……。それだけ桜さんに会いたいってことだよね」


「う――っ。……ま、まあな」


 神様は照れくさそうにしながらも、ごまかそうとはしなかった。

 真っ赤な顔のまま、素直に肯定してみせた。



 生意気で意地っ張りな神様を、ここまで可愛くしちゃうなんて。


 ……すごいな、桜さんって。

 私はとうとう会うことは叶わなかったけど……きっと素敵な人なんだろうな。



 でも……桜さんがどれだけ素敵な人だとしても。

 神様がちゃんと向こうに着けるのかって考えたら、やっぱり心配だよ。

 もしかしたら、途中で力尽きて消滅しちゃうかもしれないなんて……。



「神様……」


「な、なんだよ。そんな顔するなって。たどり着けないって決まったわけじゃないだろ?」


「それはそうだけど……」


「大丈夫だって。力が弱まってるって言っても、向こうに行くくらいだったら、どうにかなると思うしさ。……まあ、こっちに戻ってくんのは無理だろうけど……」


「……じゃあ、神様とはもう会えないの? 無事に向こうに着けたら、それっきり……?」


「ああ。そういうことになるな。……たぶん、だけどさ」


「……そっか」



 神様と、本当にこれでお別れなんだ。

 なんだか実感が湧かないな……。


 でも、神様が桜さんに会いに行けるんなら、それが一番いいことなんだろうし……。



 ……それに、たとえ二度と会えなくなるとしても、神様の幸せを祈りたい。

 桜さんと、無事に再会させてあげたい。


 そう思えるくらいには、私もこの神様のこと、いつの間にか好きになってたんだな……。



 胸がギュッと締め付けられる。

 寂しさがじわじわと胸に広がって……。


 ――でも、その時ふと気付いた。


「え……。ちょ、ちょっと待って神様! 神様が向こうに行っちゃったら、私はどうなるの? まさか、このままここに閉じ込められちゃったりしない……よね?」


 一気に不安が押し寄せてきて、慌てて訊ねてはみたものの。

 神様のことを、ここでちゃんと見送ってあげたいって気持ちも強かったから、『今すぐここから出して』という言葉をとっさに飲み込んだ。


 神様はいたずらっ子のようにニンマリと笑い、


「まあ、待てって。俺がいなくなってからでも、ここからちゃんと出られるようにしといてやるからさ」


 そう言って、得意げに胸を張った。


「え、ホント? どうすれば外に出られるの?」


「おまえのために扉を用意してってやる。オレが向こうに行っちまったら、おまえはその扉を開けて外に出るんだ」


「扉を……。うん、わかった! それを開ければ外に出られるんだね?」


「ああ。そういうことだ」


 神様はニコリと笑うと、腕を組んで大きくうなずいた。

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