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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第10章 新しい日々

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第2話 天使が舞い降りた日

 新しい護衛はどんな人なのかと、ドキドキしながらドアを見守っていた私が目にしたのは。

 信じられないほどに線が細くて少し小柄な――一瞬、少女かと錯覚してしまったほどの可憐な美少年――だった。



 ……ほ……ほわぁああ……。


 て……天……使……?



 その少年が入ってきた瞬間、周りの空気が一瞬のうちに浄化され――辺り一面がキラキラとした柔らかい光の粒子に包まれたような――そんな感覚に囚われた。



 ふわっとウェーブのかかったプラチナブロンドの髪。


 透き通るような白い肌に、ほんのりピンクに色づいた頬。


 整ったアーチ型の眉に、深く澄んだセルリアンブルーの瞳。


 形のいい小さめの鼻に、ローズピンクの柔らかそうな唇……。



 か――っ、完璧だ!!

 完っ……璧な天使顔だーーーっ!!



 こんなに美しい少年が、この世に存在するなんて……。


 今まで小説や絵画の中でしか見たことないわ。

 まるで、神様が特別に心を込めて作り上げたかのよう。



 この天使みたいな子が、これから私を守ってくれるなんて……。

 なんだかとんでもなく得した気分……。



 あまりにも理想的過ぎるその容貌に、私は思いっきり飲まれてしまっていた。

 ほけ~っと見惚れたまま動くことすらできず、その場に突っ立っていると、


「姫様? いかがなさいました?」


 セバスチャンの声で現実に引き戻され、私はパチパチと両目を瞬かせた。


「あ……。いやっ、えっと……。なっ、なんでもないなんでもない! ちょっとえっと、その……あー……うううんっ、やっぱりなんでもない!」


「……は、はぁ……?」



 ……あー、危なかったぁ……。

 『天使が舞い降りてきたかと思っちゃって』なーんて恥ずかしいセリフ、思わず言っちゃうところだった。



「姫様。この者が、新しく姫様の護衛を任じられました、シリル・アウデンリートと申す者でございます。――シリル、姫様にご挨拶を」


「は、はいっ!」


 その天使――じゃない、シリルは、声変わり前みたいな可愛い声で返事すると、その場に片膝をついて頭をぐぐっと下げた。


「お、おはっ――お初っ、に、お目に、かかりますっ。シ……シリル・アウデンリートと申しますっ。あのっ、じゃ、じゃくはい者っ――では、ございますがっ、これより先はっ、ひ、姫様のごえいをせいっっ、せいいっぱいつとっ、務めさせていただき、ますっ。――ど、どうかよろっ――よろしっ――く、お願いいたしっ――ますっ!」



 言い終えた後の肩が、大きく上下していた。

 慣れないセリフを一生懸命覚えてきたんだろうなと、なんだかすごく微笑ましく思えてしまう。


 私は彼の傍までいってしゃがみ込み、両腕を膝の上で重ねて訊ねた。


「そっかぁ。シリルくんっていうだ?――歳はいくつ?」


「は、はいっ。歳は――」


 シリルは少しだけ顔を上げ、目の前に私の顔があると気付いたとたん、ビクッとなって大きく体をのけぞらせた。


「あっ!……だ、大丈夫? ごめんごめん。驚かせちゃったかな?」


 危うく後ろに倒れ込みそうになったのを見て、私は慌てて謝った。

 彼はカアッと顔を赤らめ、


「……い、いえ……。あの……」


 ものすごく恥ずかしそうに、うつむいてモジモジしている。



 う~ん、可っ愛いなぁ~~~。

 自然と顔がニマニマしてきちゃうっ。



 私がひたすら顔を緩ませていると、後ろからセバスチャンの叱責が飛んだ。


「姫様! そのようなはしたない格好をなさってはなりません! とても淑女とは思えませんぞっ?」


「……え、はしたない? 姫って、しゃがんじゃダメなの?」


「当然でございますっ! そのようなはしたないお姿……国王陛下がご覧になりましたら、さぞや落胆なさいますでしょう。ご幼少のみぎりでございましたらまだしものこと……。まったく、前代未聞(ぜんだいみもん)でございますぞっ!」



 えぇ~~~?

 しゃがんだくらいで、『はしたない』とか『前代未聞』とかって言われちゃうのぉ?



 ……ハァ。

 姫ってホント、めんどくさ~~~。



「むぅ……。わかったわよ。立てばいいんでしょ、立てば」


 私はすっくと立ち上がり、シリルへと右手を差し出した。


「ごめんね。私はしゃがんじゃダメなんだって。だからシリルが立ってくれる? 堅っ苦しいのって苦手なの」


「え……。あ、あの……。でも……」


 シリルはセバスチャンの様子が気になるみたいで、横目でチラチラと窺っている。


「セバスチャンは気にしなくていいから。――ね? ほらっ」


「えっ? あ――っ」


 私は両手でシリルの手をギュッと握り、思いきり引っ張って強引に立ち上がらせた。


「君は私の護衛なんでしょ? だったらこれからはセバスチャンじゃなくて、私のことを一番に考えてくれなきゃあ。――ねっ?」


 ニッコリ笑ってみせる私を、シリルはまん丸い目をますますまん丸く見開いて、しばらくじいっと見つめていた。

 しばらくして緊張が解けると、肩の力を抜いてはにかむような笑顔でうなずく。



 ふわぁあああ……。

 やっぱり天使ぃ~~~っ。



 その笑顔は、さっきまでの緊張した表情とはまるで違って、本当に無邪気で優しくて……。

 この子となら、きっと楽しい毎日が過ごせるはず……!



 ――と、こんな有様で。


 彼はほんの僅かな時間で、私を(とりこ)にしてしまった。

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