第6話 姫様を捜しに
今までの経緯を全て話し終えてから、しばらくは誰からも言葉は発せられなかった。
……無理ないか。
いきなり、
『私は別世界の人間です。木の中に吸い込まれて、暗い空間をずーっと落ちてきて、気づいたらこの世界に放り出されてました』
……なんて言ったって、即座に理解できるワケがない。
「あの……信じてないとしたら、それはそれで、すごくもっともなことだと思うんだけど……。でも、これだけはわかって欲しいの。私はみんなを騙すつもりなんてこれっぽっちもないし、騙したいとも思ってない。絶対絶対、嘘なんてついてないからっ!」
すぐに受け入れられるような話じゃない。それはわかってる。
わかりつつも、何故か私には自信があった。
この人たちはきっと、私の話を信じてくれる。
みんな良い人そうだし、正直に話せば、絶対わかってくれるはず。
根拠のない自信ではあったけど……すごく不思議だけど、そんな確信があった。
「姫さ――いえ、その……」
「桜よ。神木桜。さっきは愛称――なんて言っちゃったけど、それが本名なの」
「では、サクラ様。あなた様は先ほど、神様の中に吸い込まれたと申されましたが……」
「神様?……ああ、そっか。この世界ではあの木、神様なんだっけ」
ここにくるまで結構いろいろなことがあったから、すっかり忘れてた。
「うん。そう。私は神様の中に吸い込まれて……神様の中は、真っ暗な空洞で。その中をずーっとずーっと長いこと落ちてきたら、突然視界が開けて、この世界――セバスチャンの背中の上に放り出されてたの」
「ほう? 空洞……。そのようなことが……」
セバスチャンは考え込むように下を向き、またすぐに顔を上げた。
「神様ならば……その程度の奇跡、起こせるやもしれません」
「えっ、ホント!? あの木って、そんなにすごいのっ!?」
思わずセバスチャンに詰め寄り、私は興奮して訊ねた。
「は、はい……。残念ながら、私は直接目にしたことはないのですが、神様が奇跡を起こしたという話は、古来より幾つもございますので」
「そうなんだ!――じゃあ、信じてくれるのねっ!?」
「はい。他の者はわかりませんが……私には、あなた様がそのような嘘をつくようなお方には、到底思えませんので」
「セバスチャン……! ありがとう! ホントにありがとねっ、セバスチャン!」
嬉しくなって、私はギュウゥっとセバスチャンに抱きついてしまった。
セバスチャンは、ふわふわであったかくて、気持ちよかった。
あまりにも心地よかったから、しばらくこうしていたい……なんて思ってしまうほどに。
――でも、今はそんなことしてる場合じゃない。
早く姫様を捜し出して、みんなに安心してもらって……元の世界に帰れる方法、考えてもらわなきゃ!
「セバスチャン、私も姫様捜索、手伝う! だから、姫様が見つかったら私にも協力っ……してもらえない……かな?」
「もちろんでございますとも。私がサクラ様を姫様と思い込み、ここへお連れしてしまったのですから……。責任持って、どこまでもお力添えいたしますぞ」
「セバスチャン……」
私はジーンとして、涙が出そうになった。
確かに、勘違いしたのはセバスチャンだけど。
私はそれに乗っかって、たとえ一時でも、姫様のフリしちゃったっていうのに……。
それを責めないばかりか、すぐに私の言うことを信じてくれて、協力するとまで言ってくれてる。
ホントにもう、セバスチャンったら……人(?)が良過ぎるんだから。
「セバス様。その方が姫様ではないとわかった以上、至急、姫様捜索を再開せねばなりません。ご命令を!」
私が異世界からきた人間だろうが、どこの誰だろうが、知ったこっちゃない。
そんなことより、一刻も早く姫様を捜し出し、無事を確認したい。
きっと、そんな風に思ってるんだろう。カイルさんがセバスチャンを急かす。
……まあ、恋する人が行方不明なんだもん。当たり前だよね。
「そ、そうであった。急がねば、そろそろ日も暮れる。……カイル。すまぬが、もう一度姫様を――」
「承知いたしました!」
セバスチャンの言葉に被せ気味に返答すると、カイルさんはきびすを返して、表へ捜しに出ようとした。
「ちょっと待って、カイルさん! 姫様の居場所、見当ついてるの?」
当てのないまま捜し回っても仕方ないような気がして、思わず声をかけてしまった。
「居場所の見当……ですか?……いえ、残念ながら」
「さっきまでだって、闇雲に捜し回ってただけなんでしょ? それじゃあいつまで経っても、姫様見つけられないんじゃないか……って気がするんだけど」
「……なんですって?」
……あ。ヤバ……。
つい、偉そうなこと言っちゃった。
カイルさんから向けられた冷たい視線に、私はヒヤリとして固まった。




