無性の愛
腐女子であることを証明するために突貫でオリジナルBLを書きました。
片方のキャラクターは同じくなろうにある私の書いた小説「鉄血のユカラ」の登場人物。猫塚大九郎君の子孫設定です。
***
屋上に出た男子生徒が空を見上げている。
抜けるような春の風が吹き、桜の花びらを舞い上げる。
明るい未来を予感させるような場所で
立っている男子生徒である犬飼は1人で手に汗を握っていた。
彼は長身で色も白く顔も悪くない。
さらに勉強も運動も一通りできるからそれはそれは女子からモテた。
だから告白はいつも受ける側だったが。
する側の経験は初めてだ。
「緊張するなぁ」
犬飼が緊張をほぐそうと背伸びした時。
屋上に呼び出した相手がやって来た。
「わざわざこんなところに呼び出しやがって、なんの用だよ」
すぐに説明しろ
つまらなかったら帰るからな。
犬飼は今から告白する相手を見る。
名前は猫塚。
黒髪のショート。猫目の幼馴染。
そして彼は犬飼と同じ黒い制服を着ている。
つまり犬飼と同性。
男だということだ。
そんな彼に今から告げることを思うと悪い事をしている気にはなったが。
これ以上は黙っていられる気がしない。
なら伝えて相手に決めてもらってもいいだろう。
今後の付き合いを。
身の振り方を。
「つまらないということは無いと思うよ。それはそうと君は怒るかもしれないね」
ふわりと笑った犬飼に猫塚はコテンと首を傾げた。
……ああ。普段粗野なのに、時折見せるそういうところが男心をくすぐるんだけど、気づいてないんだろうなぁ。
犬飼は何か言おうと思ってやめた。
これで最後になるのなら何を言ってやる必要もないのだから。
「じゃあ聞いてもらおうか。僕はね。君のことが好きなんだよ。猫ちゃん」
***
好き。
付き合いが長いからその言葉で言外の意味は十分に伝わったはずだ。
犬飼は返事を待つために猫塚の目を見る。
彼は言った。
「で?。その先は」
あれ?
てっきりここで拒否されるものだと思ったけど。
犬飼は続けた。
「だから付き合ってほしい。……どうかな?」
「念のため聞かせてもらうが、例えば図書館に付き合えとかそういう話じゃあ無いんだな?」
ここまで来ると犬飼の方が困惑していた。
どういうことなんだ。これじゃあまるでOKを貰ったみたいじゃないか。
そんな内心を何とか隠し。犬飼は答える。
「そういうこと。いわゆる恋人がやるような付き合いをしたいなって」
ダメならダメだとハッキリ言って欲しい。
そんないらだちも込めて犬飼は希望をはっきりと伝えた。
それに対する猫塚の返事はこうだった。
「いいぜ。付き合いは了承する」
「……うそでしょ」
「嘘じゃねぇ。……ただ申し訳ないんだが一つだけ条件を付けさせてもらってもいいか?」
条件。
大業な切り出し方に身構えたが、犬飼にとっては条件さえ守れば相手を手に入れられる訳だ。
その条件を飲むしかない。
「分ったよ。条件ってなんだい?」
了承した犬飼に猫塚はこう切り出した。
***
「勝手なことを言ってるのは分かってるんだが……でももしかしたらお前ならって期待しても居る。無理な願いだったら」
「とんでもない! 出来る限りのことはするよ。 ほかならぬ君の頼みなんだからさ」
ほら恋人になるわけだし。
そう照れたように言うと猫塚はクスリと笑った。
「ははっ。その向こう見ずさは結構好きだぜ。けど命がいくつあっても足りねぇから程々にしろよ」
猫塚は願いを言った。
「俺はな。人を好きになれねぇみたいなんだ。だから好きにさせて欲しい。それが条件だ」
「人を好きになれない……? そんなことがあるの?」
「ああ。アセクシュアルっていうらしいぜ」
「……ちょっとまって記憶から取り出してくるから」
「……そこは素直に知らねぇって言っていいんだぞ」
猫塚はスマホを取り出し、ポチポチと検索窓にワードを打ち込む。
そして検索画面を出したまま、犬飼の方に放り投げた。
画面を見ると犬飼は彼の言いたいことを把握する。
「えっと。……性的な意味で相手を好きになれないってことか」
「そうだ。だから友情までならなんとかなるんだが。それ以上はどうしても感覚として分からねぇんだよ」
だから、お前の力で俺を惚れさせて欲しい。
それが付き合う条件だ。
思ってもみない言葉に犬飼は手を顎に当てて考え込む。
それを難色と見た猫塚は悲しそうに言った。
正直そんな人間と付き合っても辛いだけじゃねぇかとは思うんだ。
だからこのまま友達でいる方がお互い楽なんじゃねぇかとは思うんだがな。
悲しそうに眼を伏せた猫塚の言葉が終わったのを確認した犬飼は
その両手を取って言った。
「それってさ。君に今好きな人はいないってことだよね」
「まあそういう意味での好きは無いな。断じて」
「そしてさらに。仮に好きになるとしたらまず僕だってことだよね」
「……まあその可能性は高いんじゃねぇかとは思うが。今んとこは」
そこまで言った猫塚の頬に口づけが落とされる。
何が起こったのか分らなかった猫塚は一瞬遅れて反応した。
「おい! 何しやがる」
「何って。好きになって貰おうとしてるだけだよ」
犬飼の言葉を聞いた猫塚はポカンとしている。
犬飼は言った。
「要はさ。君が僕を好きになってくれたら晴れて付き合えるわけだけど。逆に言えば好きになってくれるまでアプローチし続けるのもOKってことになるよね」
「あ……」
猫塚はそれを失念していたとばかりに頭を押さえる。
彼は言った。
「済まねぇが取り消させてもらう訳には」
「ダメ。付き合ってくれるなら了承するけど」
「クソ。図ったなてめぇ」
「君が墓穴掘っただけかな。本当に迂闊だよね。見てて不安だよ君」
まあだから気になっちゃうんだけどさ。
犬飼は言った。
「君が好きになって貰えるまでがんばるから。一緒に居よう」
「……ああ。お前なら好きになれそうな気がする。まだ答えは分からないが。これからも努力はするからな」
猫塚はそう言って犬飼に手を差し出す。
犬飼は当たり前のようにその手を取った。