名前
入学式は、思いのほかスムーズに進んだ。
新入生の入場から始まり、国歌斉唱。
次は新入生全員の名前を学級担任が1人ずつ読み上げていく入学許可宣言だ。
みくと葵は新入生の誘導という大仕事を終え、ステージ横の音響室に移動していた。
他の生徒会の生徒らも音響室から入学式の様子をうかがっている。
ねぇ、みく、と葵が小声でみくに声をかける。
「朝話していたイケメン君、あの子だよ。名前聞けるね!」
葵がそう言って指をさしたのは、3組の真ん中あたりに座っている男子生徒だ。
なるほど。
鼻筋の通ったシュッとした顔立ちに、薄めの唇。
くっきりとした二重の彼は、みくの目から見ても整った顔立ちだった。
イケメンでしょ?と自慢げに聞き返す葵に、みくはそうだね、と適当に頷く。
確かに。
名前が聞けるチャンス。
葵の言う通りだ。
1組の窓側に座っていた新入生。
彼女の名前が分かるチャンス。
みくは彼女が座っている方に目を向ける。
背筋を伸ばし、ステージ上をぼんやりと見ている。
教室では顔全体をまじまじと見ることができなかったが、改めて見ても本当にきれいな顔立ちだった。
1組である彼女の名前が呼ばれる順番が着々と近づいてくる。
あと3人。
あと2人。
あと1人。
――ガシャン!
唐突に背後から鳴ったその音に思わず振り返る。
「ごめんごめん。落っことしちゃった。」
どうやらBGMの調節を行っていた先輩がCDファイルを落としてしまったようだ。
急いで床に散らばったCDを拾い集める。
「傷になってないですかね。」
心配そうに葵がそう言ってCDをひっくり返して確認していた。
あぁ。
そうだ、名前。
みくは立ち上がって彼女の方に目を向けるが、もう名前を呼ばれた後なのだろう。
椅子から立ち上がっていた。