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百合あい  作者: おもち
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入学式

「よし。みんな揃ったな。それじゃあ今から準備していくぞ。」


 大きく威勢の良い声が体育館に響く。

 如何にも体育会系といった風貌の男性教師(小宮)が10人程度の生徒会の生徒らに指示を出していた。


 準備……、と言っても、椅子を並べたり紅と白の紅白幕をかけたりといった作業は、昨日全校生徒総出で行っている。


 生徒会は、入学式が始まるまでの1時間半で、受付の椅子と机のセッティング、ステージの演台の配置、そして新入生が胸に付ける花を各クラスへ渡しに行くという仕事がそれぞれ割り振られていた。

 

 「いいか。30分前からご来賓の方がいらっしゃるから、挨拶しろー。あと、生徒会長はこの後俺のところに来いよー。」


 じゃあよろしくー。

 そう小宮が告げると、生徒らがぞろぞろと作業に移り始めた。


 「みく。うちら一緒の作業じゃん。」

 葵がみくの方へと駆け寄る。


 みくと葵は、各クラスへ花を渡しに行く作業が割り振られていた。

 胸花を渡す仕事は他の作業に比べて作業量が少ないため、新入生の体育館への誘導も兼ねる。

 緑が丘高校では、入学式の新入生入場は担任の先生が行うが、体育館までは生徒会が誘導することになっていた。

 

 「誘導は気が重いけどね……。」

 思わずそんな言葉が口をついて出る。

 「それな!」

 新入生いい子たちだといいな。

 葵は手のひらを合わせてお願いのポーズを取りながらそう言うのだった。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 無機質なチャイムが十時を知らせる。

 「葵とみくは胸花持って教室向かってくれ。しっかり新入生を連れて来いよ。」

 小宮にそう言われ、みくと葵はステージ上に置かれた胸花の入ったかごを手に取った。


 「みくと葵、今年誘導だっけ?頑張ってね。」

 体育館から出る道すがら、何人かの生徒会の先輩に声を掛けられ、二人はさらに重くなった足取りで、新入生のいる4階へと歩みを進めた。


 緑が丘高校は、1階に体育館、2階から4階までは各階ごとに3,2,1年生の教室となっていた。


 「なんか、階段1階分しか違わないはずなのに、すごく疲れた。」

 4階までの階段を登りきり、少し息切れしながらそう言う葵に対して、みくは返事をするのもやっとといった感じで頷いた。

 

 新入生のクラスは全部で4つ。

 みくと葵で2クラスずつ担当することになっていた。

 4階は、先日在校生全員で気合を入れて花飾りやメッセージカードを壁中に貼り付けたため、お祝いムード全快である。

 廊下には、ホームルームを行っている担任の教師の声がわずかに漏れていた。

 ホームルームが終わって先生がクラスから出ていった後に胸花をつける予定になっている。


 長く1本に続く廊下の手前側の2クラスがみく、奥側の2クラスが葵が担当する教室だ。

 扉の上の壁にある「1組」と書かれた札を確認してから、扉の横にそっと立った。

 「じゃあねみく。がんばろーね。」


 そう言いながら葵は目の前にこぶしを突き出した。

 みくはうん、と言いながらそこに自分のこぶしをこつんとあてた。


 葵が奥の教室の方へと歩いていくうしろ姿を見送る。

 新入生、どんな子がいるんだろう。

 ふと、そんなことを思いながら、ちらりと教室の後ろ側の扉から教室の中をのぞいた。

 扉は上部分がガラスになっており、中の様子が確認できるようになっている。

 

 あれ、あそこ、窓が……。

 まだ肌寒い4月初旬だが、教室の後ろ側の窓が1つだけ開いていた。

 開いた窓からは時折風が入り込むのか、白く薄い生地のカーテンがふわふわと揺れている。

 そのカーテンに見え隠れする生徒。

 茶髪の緩くウェーブした肩まで伸びた髪。

 全体的にバランスの取れたきれいな顔立ちだった。

 退屈そうに窓の外を眺めるそのまなざしはどこか儚げで、みくは吸い込まれるように彼女に見入っていた。


 不意に茶髪の彼女がこっちを見た。

 とっさにみくは顔をひっこめた。

 

 目が合った……、気がした。

 と言っても少し顔を出して覗いていただけだったため、向こうには気づかれていないかもしれないが……。


 心臓が早鐘を打つ。

 思わず扉の前にしゃがみ込む。


 ――キーンコーンカーンコーン。

 10分休憩を告げるチャイムが廊下に響きわたった。

 

 

 


 

 

 

 

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