君はなぜこんな人生を選んだのだろう
いつだったか、君に尋ねてみたことがある。
「君はなぜこんな人生を選んだのだろう」
雨の日の食堂だった。
とうに飲み干した空の紙コップを大事そうに手にしていた君は、椅子に腰かけたまま振り返り、顎を持ち上げて少し目を細める。
「気になりますか?」
「なる」
「そうですか。でも……ないんです、そんな、面白い理由なんて」
――ただ、じっとしていられなかっただけ。
そう言って目を伏せた。
僕には君がよく分からない。
瞳は快晴の日の青空のように澄んでいて、太陽のように明るく強いのに――時折そうやってとてつもなく切なげな表情を滲ませる。
その時君は何を思っているのだろう。
その思考は一体どこを巡っているのだろう?
「――さん、エアハルトさん?」
「ぁ」
「大丈夫ですか?」
「あ、うん」
「何だか最近ぼんやりしてることが多いような」
「はは、気のせいじゃないかな」
「そう……ならいいんです、失礼しました」
花が咲くように笑みを浮かべる君の面に少し前までの影はない。
「紙コップ捨ててきます」
君は何もなかったかのように席から立ち上がり歩き出す。
金の髪が視界をすり抜けるように揺れた。
乱れのない足取りでごみ箱の方へと歩いてゆく君の背中はぴんと伸びて。穢れなど何一つ寄せ付けないと無言で主張しているかのよう。その凛とした後ろ姿は荒野に咲く花のようであり、しかしその一方で、触れれば砕けてしまいそうな繊細さ危うさも同時に感じさせる。年頃ゆえか、生き方ゆえか、そこは定かでないが。
……今はまだ、その時ではないのかもしれない。
駆け抜けるように過ぎてゆく日々、その中では、知ろうにも知りようがないことというものもある。
だから、もしすべての果てで生きていたなら。
その時にはたどり着きたい。
君はなぜこんな人生を選んだのだろう――その問いの答えに。
◆終わり◆