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「サーシャ、一緒に来てもらってもいいかい?」


「お父様?!生きておられたのですか?!」


昨日は錯乱状態に陥っていたのだろう。父の存在に驚きサーシャは嬉しさのあまり飛び起き抱きしめる。



「昨日のことは覚えているかい?」


昨日の…。

「確か…お母様の元主人の…カイゼル兄様の義兄が現れて…」

記憶を思い出そうにも曖昧で、何が起こったのかを右手にはめられたブレスレットが物語っていた。



「サーシャ、よく聞きなさい。昨晩は何も起きてない、ただ食事に薬を盛られてサーシャは長い夢を見ていたんだ。このブレスレットは…ここで外せば問題ないから。…サーシャは無理に思い出そうとしなくても良いよ」




父は幼子に言い聞かせるように言い続ける。



「長い夢を見ていたんだ」






父と朝食を取り、女医…医療団長と三人で砦を後にし、森に入る。


狭い道を抜け、小さな洞窟に入り、小道を進むと視界が開けた。



「お父様…なんですか?これ…」


「どうやら墓場らしい」

らしい、と不安定な言い方だが確定しているのだろう。

骸骨が無造作に散らかり、無理矢理作った穴倉に鉄格子が嵌められその中にも骸骨と古い血痕跡。



先に進むための道がありそちらへ足を進める。



抜けた洞窟の先は森がまた続きいくら歩いただろう?

しばらくすると一軒の古びた邸に到着した。




「この家紋…」


邸の玄関に彫られていた家紋は。



側妃の生家だった。




中に入ると古びたホールに拘束されていたのは過去サーシャを貶めた側妃の黒フード達だった。数はあの時より多く、なぜか同じ数遠征に志願した兵が拘束されていた。



「サーシャ様!」

黒フードの一人がサーシャを見るなり、声を張り上げ「助けて下さい!我が主人!!」と叫び出す。



(この人達を、私は知らない…)



父の背に隠れながらサーシャは「私はあなたを存じません」そう伝えた。



「何を言いますか!あの時、あの場所で、私はあなた様に忠誠を誓ったではありませんか!!子爵家のあのお茶会の日に!」


黒フードの一人ははっきり告げると。



「私の声は彼の方に届いているのですよ?!」


身を乗り出して叫ぶフードの声に肩を震わせ、あの日の出来事を思い出す。

父が振り返り、女医が隣で心配そうに話しかけるもその声さえ側妃に届いているのか?



「この男の話はデタラメだよ」


突然王太子の声が聞こえたかと思うと。


階段の上から大勢の騎士がサーシャ達を見ていた。




「そんな高等魔法使えるのは歴代魔導団長を勤める家系のチューラップ家や数限られた家系しかいないよ」

生徒会時代お世話になった王太子が軽やかな足取りで階段から降りてきて騎士団長子息、カイゼルに他主要人物が続く。



彼らに何かされたのか?一部悲鳴が上がり項垂れ始めた捕縛者をかいくぐりながら王太子達が三人に合流した。


それでも諦めがつかないのか、サーシャの名前を呼び続ける黒フード数名は痺れを切らしたのか。



「おい、お前の母親がどうなってもいいのか?盟約を破ったらお前の大事な物壊すって話だよな?大人しく王太子説得しろよ!」


「そうだぞ!お前には盟約があるんだぞ?!」


各々必死で叫び出す黒フード達にサーシャは怯えながら父を見た。


父はそんなサーシャを不思議そうな顔で見ていた。





「盟約とは選ばれた貴族が王家と誓う約束だとお前らは知っていたか?」


王太子が彼らを見据え、黒フード達は押し黙った。


ここにいる家系なら騎士団長、女医、そしてチューラップ家。どれも軍をまとめ上げる貴重な家門だと静かに告げ。




「盟約は当主と国王、国王に認められた王太子しか内容を知らないはずがなぜお前らが知っている?」



その言葉に。



捕まった兵達皆固まっていた。

もちろん、サーシャも。






「ゆ、許して下さい!俺たちは騙されてたんだっ!」

黒フード集団は一斉に頭を下げ異様な光景が広がる中、何が起きていたのかわからないサーシャは彼らを眺めていた。



騙されてた、のは。サーシャも同じか。




先ほどの一人が「は、母親、いえ、お母様のネックレスは…着けた後にすぐ取り外したんです!嘘ではありません!お母様の首は切れません!信じて下さい、サーシャ様!!」と言えば続けて上がる声。



「お、俺らもあの貴族達から脅されてたんです!!」



「俺は無実です!」



「そ、そもそも俺、あの時おかしいなぁって思ってたんですよ!!サーシャ様のお母様が断りの返事出してたのに無理矢理連れてきて、怖がってるサーシャ様とお母様の目の前で脅すように婚約こぎつけてたこと!お母様のネックレスの件にしろ、盟約のことにしろ違和感ありまくりで!」



「そ、そうそう!魔導団長の命が国王の指輪と繋がってるなんて話今考えたらおかしいもんな〜」



「ほんと!ほんと!!言うこと聞かないとお父様の命とお母様の首と大切にしている事業を力で抑えるなんてひでぇ話だ!」



勝手にあの時のことを話している黒フード集団。

サーシャが話す間も無く話がホール中に響き渡り。



今度は兵達がサーシャに視線を向ける。

が、すぐに俯き、それでも声を出していく。



「俺たちも騙されたんだ!!サーシャ様が王族になると生活水準が上がるって言うから…」


「そうだ、そうだ!サーシャ様が行っている事業を拡大するからって」


「ほら、公園レストランのご飯が無料で食べ放題になるからって!」


「サーシャ様が結婚した暁には王都で大々的な宴を行なって沢山御馳走が出るからって!」


なにをいっているのか、わからず思わず顔を顰めながら兵の方を見たら。



「サーシャ様の事業を俺らの地域でも進めてくれるって聞いたから!俺らはこの話にのったのに!」



「なぁ、心優しいサーシャ様なら俺たちのこと助けてくれるよな?!」


「だって聖女様だもんな!!あの地域の住民達もただで恩恵を受けてもらってるのにずるいよな!!」



彼らは皆顔を上げ。



期待する目でサーシャを見ていた。





「父様、私は今の状況をよく飲み込めていません…」


勝手に期待されて、勝手に嘆願され。

彼らは側妃の手のもの達だとは理解できる。


一体何故この邸にいて捕まっているのか?

助けを求めていると言うことは何かをしたのだろう。

その何かがサーシャには見当がつかなかった。



「サーシャ…先ほどの男達の話は後で詳しく聞くからね。…この者達は王太子殿下暗殺部隊だよ」


「暗殺?!」


「この地域の村人を虐殺して魔物が好む植物を生産させていたんだ。殿下の卒業と同時にこちらの地域に呼び込むようにね。最初の魔物発生で私達はこちらに来た。数が多すぎて補充として殿下達が第二陣で。この者達は味方に紛れて魔物討伐を行う殿下の背後を狙ってたんだよ」


この魔物退治の発生自体が側妃の罠だったと父は締めくくりながらもさらに詳細を話していく。





最初は本当に魔物退治の遠征で普段通りだった。しかしいくら戦えど数が多く応援を要請した。ちょうど学園を卒業した王太子が部隊を率いて駆けつけた時、戦いの混乱の中、幾多の兵が王太子を守るように側に近づき刃を向けた。が、王太子の側近と三人で返り討ちを行う。戦いに残った兵達を砦に集め、一人一人尋問を行うと、彼らは正直に白状し今回の件が明るみになった。森の中に生えた特別な植物の撤収作業を行うと同時に、王都に残っていた主犯を誘き出すためわざと偽の情報を流し危機感を煽らせた。王太子の安否がわからない主犯は自らこちらに赴き状況を確認していた際、こちら側勢力から仕掛け捕まえることができたと。



「この計画の主犯は、騎士副団長だよ」


「サーシャが行動してきた部隊、みな彼の部下だったんだ…」


父の言葉に隣に来たカイゼルが続ける。


「サーシャ嬢は彼らにとっては大切な存在だったんだろうね。君が参加したことで君の視線をかいくぐりながら私を探さないといけなくなった。焦りが生じたのだろうね」

王太子が他人事のように言うと、ふっと息を吐く。


主犯は今別の場所で隔離を行っていると騎士団長が言いながら。

「裏で糸を引いてるのは側妃公爵家だけどね。今頃知らせが届かない、魔物が近づいてきているニセ情報に怯え実家に帰って作戦を練り直してるんじゃないかな」



(殿下、その通りです…)


サーシャは事件の真相を聞いて呆気に取られながら、当時冷静に対応できずに騙された自分が恥ずかしくなった。





王太子殿下暗殺計画に加担して、騙された、助けてくれと彼らは言っていたのか?

どう見ても救いようがないではないか。

サーシャも騙された側の人間なのに、これ以上彼らは何を求めるのか?

そもそも黒フード達はサーシャをあの時貶めた奴らなのに自分達も被害者と訴えサーシャに助けを乞うのはおかしくないか?



話を聞き終えた後ですら彼らは被害者と言わんばかりに期待に満ちた目でサーシャを見つめる。


「…私は聖女ではありません。あなた方が赦しを乞うのは私ではなく王太子殿下です。私が事業を始めたのは慈善活動ではありません。きちんとした投資です。初期のレストラン経営も子供限定の、無料ではありません。きちんと低価格の商品として売り出してます。子供らの保護者が好意で食材を提供する機会が多くなったので勘違いを起こしていたと思いますが、私は決して全て善意の行動ではありません。事業の裏には一切の狂いなく、金が動いてます。彼らは私の商売を認め、共存しようとしているだけなのです。あなた方の主観で私と言う人物を作り替えないでください」



勝手に期待して、勝手に失望して。


捕まった兵達の顔がみな、前世の父と重なる。



期待していた存在じゃなかった。

お前はこうするべきだ。



勝手に自分の娘の理想を重ねて。

否定ばかりして。

自分の願望を押し付けて。

あの父は娘である私を見ようとしなかったのだろう。それなのに私と言う存在を決めつけた。



「殿下。私は彼らに話す言葉はありません」


サーシャは言うと騎士団長が一斉に指示をする。



数名残して。

目の前で命を絶った。



「サーシャ、慣れておけ。と、言うのはおかしいけど…。今後君は魔物が発生したら戦場に出るかもしれない。盟約に関わることなのだ」



父はそう言うとサーシャとカイゼルを見た。






主犯の騎士副団長の拷問を行っている最中だと飄々と話す王太子。

砦に戻り、一番豪華な作りの執務室で王太子、父、サーシャの三人はいた。


あれからサーシャはあのお茶会の事の顛末を父達に話し、ヴァイオスとの婚約に裏があると秘密裏に調べていたと。母の様子もおかしかったし、脅迫されていることは明白だった。しかしヴァイオス側の目的が不明なため表面上は普段通りに過ごしていたと。




「母の実家が住宅街の病院のパトロンなんだよ。私もよくお忍びで市井に降りていてね、病院院長の知り合いの子供としてよくあの地域に遊びに行ってたんだ」

サーシャが一棟購入した病院がまさか王妃の生家公爵家が支援していたなんて。思いもよらない驚きに「あの病院、確か公園レストランを買い取って数ヶ月後に着工を始めましたよね…?」と確認するように呟く。

王太子は頷くと、「小さい頃何度かサーシャ嬢と、キーゼラ…うん、キーゼラとも話したことあるよ。変装して公園のレストランや託児施設に行ったこともあるしね。私の側近達も変装して何度も訪れていたし。その時からね、シーラのことを気に入ってたんだ」



「母である王妃もサーシャ嬢の事業のことは目にかけていた。しかし母は私の気持ちを重視してくれてね。そもそも盟約を交わした貴族と王家は深い関係になってはいけないんだ」



その言葉に真っ先に浮かんだのは。



「その盟約を交わした貴族…我が家はそうですよね?では、シーラは…」



「サーシャ?シーラがどうしたのかい?」



「その…シーラは…お父様とお母様の実子、ですよね?」


その言葉に父は目を見開き。


シーラは母の子だと、答えた。




(どう言うこと?!ゲームでは確かそんな説明してたはずなのに??)



訳もわからず父を見るサーシャに王太子が「とりあえずサーシャ嬢のブレスレットを外そうか」と話題を変え、自分の指にフルーツナイフを当てると数滴の血が。

ブレスレットに血を垂らすと淡い光を出し始め、広がり手から離れていき、王太子の手の中に戻って行った。



「解除できるのは王家の血を引くものだけなんだ。国王と、私と、愚弟だけだね。王家の血を使用するんだ」


そんな大切な事情をサーシャに教えていいのだろうか?

そんな風に思っていると考えを読み取ったのか、王太子は笑みを浮かべる。



「サーシャ嬢は私の未来の臣下だからね。それにチューラップ家次期当主に貸しを作っておくのもいいと思って」


イタズラ成功。


そんな言葉が脳裏を横切った。





(私がチューラップ家次期当主?カイゼルは?どういうこと?!)


ゲームでは全く知らない事実ばかりに愕然としながら。

答えを求めるように父を見ると、彼は「この機会だから盟約についても、家族のことについても話そう」とサーシャを見た。


シーラと、サーシャと同じ瞳で。




「我が家と王家との間の盟約は、当主が決めた次期当主を王家と交わらせないこと。大袈裟に言えばその家族、と言うことになるがそんなことは決してない。本人だけがダメなのだ。サーシャは不思議に思わなかったかい?歴代の団長らは決まった家門からしか輩出されないことを」


問われ、歴史では確かに建国当初から今まで専門的な軍を纏める者は数名貴族家系が巡り巡り記載されていた。


「たとえば我が家。我が家と他歴代魔導団長を務めた家門二家。その三家は皆歳の近い子供がいるだろう?決められた三家の内、産まれてきた子供がより大きな宝石を手に出てきたら魔導団長の座を引き継ぐんだ。宝石の大小はあるが宝石を持って産まれてきた子はその家門の次期当主として育てられる。他の団長家系もそうだ。ーーーそれが建国当初からある一定の貴族達の間で王家と交わされた盟約なんだよ。王家と彼らは絶対的忠誠心を持って特別な関係になってはいけないとね。だから選ばれた貴族達は王家の子供と異なる性別の子が生まれたら、先に相手を決める。同性だったら側近として信頼を得る。それが今まで行ってきたことだよ」



「サーシャ、私達の家族の件だけどね。私とお母様ははとこ同士だったことは知っているよね?」



(し、知りませんでしたっ!!)



「お母様は小さな頃から妹みたいな存在でね。婚約者であった妻もとても可愛がっていたよ。ある日、お母様の両親が離婚してね、子爵家の養子に出されたんだ。その後も私達と交流が続いていて、大人になるにつれて連絡が疎かになっていった。子爵家が破産寸前で男爵家の後妻に嫁いだのを知ったのは私達が結婚した後だったんだ。

サーシャが産まれた後、妻はお母様の男爵家でお母様が暴力を振るわれている事実を知ってね、その時助けた後遺症で妻は私達を残して逝ってしまったけどね。最後に彼女はお母様を助けてやってくれと遺言を残すほど彼女のことを気にかけていたんだ。

自分がいくら訪ねてもお母様に会えなかった。何度か夜会で会うたびに気にかけて、誤解を招くだろうがお母様に装飾品を贈り、売って金にしてくれと会えるたびに彼女に話していたんだ。


シーラの瞳が突然変異すると男爵は私とお母様の不貞を疑い、男爵家の負債を肩代わりする代わりに彼らを連れてきたんだ。お母様も血筋的にチューラップの血を引いてるからね。

誓って私は妻一筋だし、お母様とは仮面夫婦だよ」



そう話し、彼女とは寝室は違うと言い続ける父。

やってきた当初、母とシーラを贔屓していたのは母とは今後の話し合いを。シーラは瞳が突然変異を起こし、不安定な時期だったためだと。



遠征が多かったのは、魔物の数がこの地域で多く出ていたとのこと。

その当時の関連についても再調査を行なっていると王太子は付け加えた。



「サーシャは乳母達が何度も大丈夫だと言ってたんだ。家庭教師もサーシャはとても賢い子だと。だからカイゼルを乳母達が面倒を見ると話してきた時もサーシャとの仲が深まればいいと思って賛成したんだけどね」



何故そこにカイゼルが出てくるのか。


答えは自ずと出てきた。





思い返せば母の言動がおかしな時があった。

乳母達が去って雇用された使用人達も当たり前のように受け入れていた。


どう考えてもおかしい、カイゼルとサーシャの距離間を。


普通なら令嬢の部屋に血の繋がりのない兄は夜堂々と入ってこない、普通の兄妹でも。実際シーラとカイゼルはそちら部分一線を置いていた。

あのおかしな距離感を皆は生暖かい目で見ていたのかと言う恥ずかしさが今となって顔に出てきた。



めくるめく思い出を辿れば何度もカイゼルは父を理由にキッカケを伝えようとしていた。

それを何度も遮り、自己嫌悪に陥っていたのは自分なんだと恥ずかしさと嬉しさがあふれ出し、そんな娘を見ていた父は話は終わったとばかりに「ヴァイオスの婚約解消が終わってからゆっくり話し合いなさい。もう私は娘達を嫁に出した気持ちだから…」悟りを開いていた。



王太子は笑っていたが、ふと真顔になり。



「シーラには隠れて護衛を付けているし、ヴァイオスにも監視を数名残している。副団長の拷問が終わり次第王都を目指し出発する予定だ。私は父に今回の件を報告するよ。側妃の実家も取り巻き貴族達も皆処刑の対象となるだろう。ヴァイオスの罪は今回出来たことだし王族という事で幽閉という形になるだろうが…」



シーラの護衛は盟約を交わした貴族達を友人として紹介しているらしい。ヴァイオスの監視は宰相子息と治療団長の子息らしい。



サーシャは思い出したように側妃と特殊な契約書を記載したと話すと、それも王族の血で解除されると王太子は話し、契約書はサーシャの自室に魔法をかけて保管していると伝えた。

「側妃周りにうろついてた奴らは皆詐欺師だったよ。彼らが言うには生家周りに魔法を使う貴族はいないらしい。そもそも魔法使いの管理は魔導団長の仕事だからね」



(お父様!そのことも早く教えておいて!)



サーシャは頬の火照りを落ち着かせながら手を添え。

ジト目で父を見た。





昨日の今日で急展開を迎えた。

疲れを隠しながらブレスレットが外れた体調健診を終えた後、あたりはすっかり闇の世界に包まれていた。

この地域は灯りが少ないのか。夜空は一段と澄んで見え、高いところから見たらより綺麗なんだろうと、サーシャは砦の見張り台をのぼる。




終わった。



込み上げてきた気持ちを抑えながら螺旋階段を一歩一歩上がっていく。

一歩上がるごとに蘇る婚約当時から今にあたる記憶。

大切な人たちを人質に取られ従って生きてきた時間。

自分を心配して支えてきてくれた彼ら。



父と王太子はこの婚約は無効だったと話してくれた。

国王自体が認めておらず婚約届も提出した後にすぐに父によって破り捨てられていたと。

それでも広がる民衆への噂と、側妃やヴァイオスの発言、そしてサーシャが認めたことにより、この婚約が事実であったかのように広がった。



国王は妃公爵家を平等に扱わないと貴族バランスを崩すと考えていた中立的な人物だった。

表立って行動できない分、今回の王太子暗殺の件、危険植物栽培の件、王家の家宝を盗難した件など国家謀反の罪で長年の恨みつらみをはっきり裁けると教えてくれた。



辛い出来事があった時はいつもそばにいてくれた。

嬉しい気持ちも分かち合いたいのに、と、先ほどの会話の中で出てきた人物を思い浮かべる。



きっと今も他の騎士達と後処理に追われているのだろう。慌ただしく砦の中を走っていた騎士達を横目にサーシャは休息を許されただけなのだから。



階段を上がり終わり、湧き出る息を落ち着かせながら見張り台のドアを開ける。



「サーシャ、どうしたの?」



今一番会いたい人は、目の前にいた。

 





補足



2で父が母との関係を話してますが、世間から見た父と母の関係です。時期を見て本当のことを話せば良いいた思いながらタイミング掴めず流れてた設定です。


そして後妻表現が母に変わったのはサーシャの心の変化です。

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