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二人の王子と同じ家の二人の令嬢。

国の一大ニュースが広がる中、当のサーシャの気持ちは沈んだままだった。



王太子との婚約は父が進んで取り持ったらしい。

加えて入学した学園で王太子の側近にカイゼルが選ばれたと父が嬉々として話す。



シーラもニコニコ笑顔で、気になっていた好きな人はどうなったのかと思いながら、暗い影を落とした。



第二王子との婚約を父に告げた時、一瞬悲しそうな顔をしながらも祝ってくれた。

「辛くなったらきちんと話すんだよ」

何かを察したのか、父はそれ以降何も言ってこなかった。



以前行った側妃との約束。


婚約後は何があっても家族と市井の人達には手を出さない。


黒フード達と特別な方法で作った契約書だ。


まさかシーラと王太子が婚約なんて当時は予想はしていなかっただろう。

側妃は直ぐに署名を行った。




婚約してもサーシャの環境は驚くほど変わらなかった。

側妃からの呼び出しもなく、ヴァイオスとの約束もなく。

変化があったのは事業を再開した時だった。



サーシャの再会を喜び人々はヴァイオスとの婚約を心から祝ってくれた。

そして口々に言うのは。


平民差別の激しい貴族社会に新たな風が吹くという話だった。


主に酷いのは側妃の実家だと誰かが話し、サーシャに聞こえない様に口を閉ざす。



(尻拭いさせる気なのね…)



ありがとう、と、微笑みながらサーシャは頬を引き攣らせていた。



ちなみにカイゼルの教え子達はほとんど同い年だったらしく、育ちからすると良いとこのお坊ちゃん達だったのかもねと、訓練所の生徒達は教えてくれた。



…シーラは本当に良かったのだろうか?



その一抹の不安だけが胸をよぎった。





学園に入学する頃には対人恐怖症も見る影を無くし。

サーシャは貴族学園の門をくぐった。



しばらく親元を離れて寮生活が始まるとともに、ゲームでは本格的なストーリーが始まるのだ。



入学式は噂の王太子が祝辞を述べていた。

生徒会の会長を務める王太子が声を発するたび、新入生令嬢達の黄色い声が飛び交う。


もはや生徒会がアイドルグループ状態か?

サーシャはその中の一人、見覚えのある焦茶色の髪を見続けていた。



新入生代表挨拶はヴァイオスだった。

しかし、ヴァイオスはサーシャの元までやって来て手首を掴み上げ。

「我が婚約者が代わりに読み上げるそうです」と司会を進めていた教師に薦める。


聞いてない、と唇を噛み締めながらもサーシャは即興で話を考え、生徒に話し出す。


一部険しい顔をした貴族達もいたが概ね好評でホッと胸を撫で下ろした。



そして、生徒達に見えない様に薄ら笑いを浮かべるヴァイオスを。



カイゼルは憎々しげに見ていた。





ヴァイオスとサーシャは別々のクラスに割り当てられた。

ヴァイオスは休憩時間にはサーシャを呼び出し与えられた課題を押し付けた。

騎士副団長子息と宰相子息、医療団長子息といつも一緒にいて、周りを取り巻きで囲っていた。

厄介ごとはサーシャを呼び出し処理をさせた。

挙句、擦り寄って来ていた令嬢達に親身になって対応していた。



入学して春が終わる頃。



サーシャの笑顔は消えていた。




「お前はグズでノロマなんだよ!なんでこんなこともできないんだ!」

毎日浴びせられる罵声にのっ掛かる取り巻きの笑い声。


「この女、ヴァイオス様に言い寄って来たんだぜ?昔自分から怪我したくせに責任取れってさ!」

騎士副団長子息も手で叩きながらゲラゲラ笑う。


ひどいですわ、などと甘ったるい令嬢達の声。


抑揚ない表情で彼らを見据え、宰相子息の昔と変わらない気まずげに少し頭を下げる仕草と俯き表情が見えない医療団長子息の姿を遠巻きに見ながら。



「お前不気味で気持ち悪いんだよ!!」


ヴァイオスの声を聞いていた。




夏が過ぎ、秋の初め。


教師から呼び出しがかかり、馬鹿にしている貴族達を無視しながら教師について行く。


着いた先は生徒会室だった。



「チューラップ令嬢は学年首位だよね。生活態度も成績も良好。良ければ生徒会に入ってみないかい?」

多分入学式で聞いたであろうシーラの婚約者、王太子の声が聞こえ、彼を見ると微笑みながら話していた。

入ってみないかい?と言いながら威圧的なこの感覚。


入らなければ、いけないのだろう。


サーシャは力無く頷いた。



新入生は宰相子息も誘われたらしく、彼も返答を聞かずにほぼ強制的だった。

少し同情しながらも、放課後のヴァイオスと過ごす苦痛の時間が生徒会に変わるだけだと心ここに在らずで与えられた仕事を振り分けていた。




生徒会は三年生退会後、王太子、カイゼル、騎士団長子息の三人で回しているらしい。

実質的に王太子の側近と思われるのはカイゼルと騎士団長子息だけなのだろう。



騎士団長子息は力担当か?仕事の振り分けと処理を王太子とカイゼルで次々とこなして行く様をみて、サーシャは驚いた。



カイゼルは立派に非の打ち所がない人物になっているではないかと。


脳内で、過去のカイゼルを思い出し、出会った頃の思い出に浸りつつ雑用をこなす。

王太子の隣で宰相子息が見よう見まねで覚えながら、よくよく考えたら彼は内気な性格なのか?ただヴァイオスと同い年だから側にいるだけで本当は王太子の忠臣なのか?と思われる距離間だった。



…おかしいと勘付いたのは学園祭行事の前。

あまりの忙しさに普段声を荒げないカイゼルが宰相子息のミスを指摘したのだ。

「す、すみません!先生っ!!」

いつどこでカイゼルが宰相子息の教師になったのか?

泣きそうな顔をした宰相子息。咄嗟にサーシャはカイゼルを宥めながらその場を落ち着かせた。



気がつけば放課後のひとときがサーシャの唯一の楽しみに変わっていた。



カイゼルに会える唯一の時間だったから。




あっという間に一年が過ぎ、新たな一年を迎える年になった。


生徒会としてカイゼルと宰相子息に挟まれながら新たな新入生を出迎えた。


シーラが現れた際、生徒会長の王太子がいつもの顔を崩し甘い笑顔をシーラに振り撒く。

シーラもサーシャやカイゼルに見せないような笑みを浮かべ。

…いや、見たことがあると既視感に駆られた。

そう、あの、夜の。


シーラが気になる人が出来たと告げた夜の。



…宰相子息の様子もおかしかった。

時々騎士団長子息もカイゼルに敬語を使っていた。あれ?王太子も…時々カイゼルに…。



サーシャはチラッとカイゼルを見、気付いたのか彼もまたサーシャを横目で見る。



「入学在校生挨拶。生徒会長、アヴェルオ・ルーフォルム」


司会教師の声が聞こえ、長らくカイゼルと見合わせていたサーシャは現実に引き戻される。



(…アル…、アヴェルオ…。昔から来ていたカイゼルの生徒達…貴族らしい…)



パズルのピースが全て繋がった。


そんな気がした。





入学式が終わり、放課後。


ヴァイオスに呼び止められた。


先ほどの推測をカイゼルに話すため、早く生徒会室にいきたかったのにと思いながらいつも以上に機嫌の悪いヴァイオスは同学年生徒がいる前でサーシャの頬を殴った。




あの日以降、手を上げられた事はなかったのに。

ヴァイオスとサーシャを取り囲む生徒達はヴァイオスの取り巻きで。

遠巻きに見ている貴族達はヴァイオスの性格を知ってあえて関わってこない傍観者達。完全にこの茶番を楽しがる貴族達だ。




「なんでお前が婚約者なんだよ?!意味わからねーよ!」



「あの馬鹿の婚約者、お前の妹なんだってな?なんであの妹はあんなに可憐で可愛いのに俺の隣にはお前がいるんだ?」


妹…、で、ゲームの中でのメインはヴァイオスだったなと表情を変えずに向き合う。

泣いたら負けだ、こんな奴に涙はもう見せたくない、と。



(いくらあんたが喚こうが私にだって事情はあるのよ…)


サーシャはただ静かに踵を返す。



「お前なんかより可愛い奴がいるのに俺は不幸だろ?お前はなんで生きてるんだ?早く死ねよ!死んだら俺があの妹と結婚出来るからよ!!」


シーラの名前も知らないくせに。

仮にも兄の婚約者の名前を知らずに、人を勝手に殺して。

兄の婚約者と結婚出来るわけないじゃない。

思った以上に冷静に頭が動く。



頬を叩かれながらも声を出さず。

この男は私が魔法を使えるということをすっかり忘れているみたいだと叩かれながらもヴァイオスを睨み付ける。


側妃に比べたらヴァイオスの言葉なんか痛くもない。

一年間この男の言葉に耐えて来たんだ。もうこの男のやり方には慣れてしまった。


あの女は人が恐怖症になったことを念入りに調べて…あの時呼んだのだと叩かれながら考える。



こんな仕打ちくらい、慣れっこだ。


サーシャは目を閉じて終わるのを待った。





「チューラップ令嬢!!」

「お姉様!」


声がして目を開けると取り巻きの間をぬって宰相子息除く生徒会メンバーが現れて。


サーシャを叩く手を直ぐ止め、ヴァイオスは彼らに笑顔を向ける。


「兄上!!今、我が婚約者があの者に叩かれていたのですよ。ほら、サーシャ、大丈夫かい?」

叩く直前の手を頬に添え、信じられないという視線を送るサーシャに、指名された生徒は驚きながらも取り巻き達が一斉にその生徒に罵声を飛ばす。



(何を言ってるの?こいつ…)


頬をさすりながらサーシャから見えるシーラに熱い視線を送った事で、シーラに紳士的なところを見せようとしたのだと直ぐ理解できた。



「サーシャ」


大丈夫だよ、俺がいるからね。


ヴァイオスはサーシャの耳元に口を寄せると。




「母様から盟約の事聞いてるんだろ?黙って言うこと聞かねーとチクるぞ」


「お前はただ俺の言うことだけ聞けばいいんだよ」


お前の味方なんて誰一人いないのだから。



告げると口を離し。



「ほら、サーシャ。兄上達に説明しないと。みんなも見てたよね?サーシャがあの男から叩かれているところ」


従え、と言わんばかりにヴァイオスは周りを見て。

取り巻きやヤジ達は一同頷き始める。



「でもサーシャも悪かったよね?彼に期待させるようなことを言って弄んだらしいじゃないかっ!俺と言うものがありながら何が君の不満なんだい?」


頬に添えた手を、徐々に頭に移動させ。

ぎこちなく撫でる仕草さえ気持ち悪く感じた。

さっきの大丈夫と心配する言葉だってそうだ。



本当は、サーシャが今そばにいて欲しい人は…。




「殿下、失礼ですが、サーシャが顔色が優れないので医務室に連れて行ってもいいでしょうか?」


背後に懐かしい気配を感じ、気持ちが軽くなるのを実感した。


「…チューラップ令息、これはサーシャと私達の問題です。ほら、あの生徒の話をきちんと聞いて解決しないと。サーシャを甘やかしてばかりではいつまで経っても兄妹離れできませんよ?」


カイゼルに見えないように顔を詰め、サーシャを睨み付けるヴァイオス。



「それに令息は自身の婚約者を決めては?噂によると貴方の候補は三人いるはずでは?彼女達ときちんと向き合い誠実な交際をされてみては?」


候補が三人?

サーシャの知らなかった事実にシーラも同様驚きながらカイゼルを見。


「殿下、私の事は父が縁を用意してますので心配は無用ですよ。その候補三人はでまかせですよね?」


背後から聞こえたカイゼルの声が。


サーシャの胸を締め付けた。



すっかり忘れてた記憶。


カイゼルには、好きな人がきちんといた事。


父も公認の仲になったのかと。




カイゼルの言葉を聞いてサーシャはヴァイオスの方へ進む。


「…殿下、もう大丈夫です。心配を掛けました。私はもう平気です。私が悪かったです、申し訳ありません」


驚くほどすらすら出てくる言葉に。

ヴァイオスはサーシャの手首を掴み犯人に仕立て上げられた生徒の方へ向かう。

頭を下げ、身に覚えのない出来事の謝罪を行い、ヴァイオスに掴まれたままカイゼルを通り過ぎ王太子とシーラ達の方へ向かう。




「兄上!サーシャはしばらく生徒会活動を謹慎させます。この度は騒ぎを起こし誠に申し訳ありません。折角、兄上の婚約者様の晴れ舞台の日にこんなことが起きるなんて…。良ければ後日、お詫びをさせていただきます。名前を伺っても?」


ほら、サーシャからも伝えなよと背中をさすられ。軽く背中を押されバランスを崩してシーラの前で膝を折る。

土下座の形になりながらサーシャはごめんなさいを繰り返し。



「サーシャも不安定なんだね。…すみません、兄上。ここで失礼致します」


無理矢理サーシャの手を掴み上げヴァイオスに引っ張られる形で廊下を後にした。





生徒会謹慎の命を出して以降、ヴァイオスの罵声はより一層激しくなった。


後日取り巻きからシーラの名前を聞いたらしく、姉妹なら事前に教えておけ、恥をかいた!

シーラに謝罪を兼ねて茶会に招待しろ、準備は全てお前がしろと毎日の様に。



宰相子息は王太子側のスパイと思われるが、事実確認は出来ない。彼は遠巻きに申し訳なさそうに頭を下げながら直ぐに離れていく。

学年ごとに学棟が異なり放課後で他学年と会う事はない。


シーラに会えないヴァイオスの怒りはいつしかサーシャを殴る事によって発散されていくのであった。





あっという間に十七歳の秋。

後一年で卒業、気がつけば生徒会役員はヴァイオスが教師に頼み退会処理をされていた。

幾度か寮の前でカイゼルからの待ち伏せに遭遇したが、ヴァイオスが側妃との契約内容を知った今、ヴァイオスに従う他なかった。



「カイゼル兄様、私はヴァイオス様の婚約者で幸せですわ。カイゼル兄様も早く婚約者を紹介してくださいね」


作り笑顔が上手くなったと思った。


「サーシャ、違うんだ、本当は…」

「カイゼル兄様、私はヴァイオス様の婚約者で良かったと思ってます。カイゼル兄様も、早く幸せになって下さいね」


抑揚のない声、作り笑顔のまま彼を置いて寮の中に入って行った。





叩かれても強化補助魔法のおかげで痛みは感じない。

殴る箇所はいつも見えない腕や太ももだから、成長して手に入れた治療魔法で直ぐに直せる。



それでも心の傷だけはずっと痛い。



自分から突き放しておいて辛い時にそばにいて欲しいのはいつもカイゼルだった。



(私は…カイゼルの事が好きだったんだ)


血の繋がりは無いけど兄妹。

カイゼルは好きな人がいて、侯爵家を継ぐ。



大好きな人達を守りたいから、家族を、カイゼルを。


だからこそ、私はーー。






王太子やカイゼル達の卒業を控えたある日。


国境森近くで大量の魔物が出現したと知らせが届いた。


騎士団達は副団長他を王都に待機させ、団長は自ら戦地へ。治療団も数名残して、魔導団は全員戦地へ赴いたと。


それから卒業式の日に。


兵補充の知らせが学園に届いた。


王太子は自ら立候補し、カイゼル、騎士団長子息もそれに従った。

数名の力自慢の生徒や数少ない魔法が使える卒業生は直ぐに戦地に赴くことになった。



残された学園で。


新たな生徒会長にヴァイオスが挙げられた。

ほぼ多数決で現会長を蹴落とし、経験のあるサーシャや側近達を新たに加えた新生徒会を発足したのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] クソ王妃もクソ王子もクソ王も、役立たずに親父に後妻!もう!!!!みんな地獄に堕ちろ!!!!!!!酷いこと言うよね、何年も何年も。それで、ストーリー的にはラストでざまぁなんだろうけど、トラウマ…
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