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「お嬢様、その者は?」


「私の専属メイドのキーゼラよ!!何か文句ある?」


「い、いえ、いつの間に…と思いまして…」


「ほら、この間外に出たでしょ?その時拾って来たの。…悪い?いい?キーゼラは私だけのメイドなの!私と一緒に行動するから貴方達は一切手を出さないで」


乳母やメイド達を呼び出して。


同じ背丈のクラシックワンピースを着た三つ編みの厚レンズ眼鏡を装着したメイドが頭を下げる。



「キーゼラはね、声が出ないの!だから何も話さないで!」

サーシャはヒステリックになりながら。



出て行ってと部屋から彼女達を追い出した。



カイゼルが消えて四日目の出来事。


邸の者達は誰も気が付かなかった。




「私、あの宝石が欲しい!」


「あのドレス可愛い!!欲しい!買って!!」


「あのハンカチも!!」


宝石商を呼び付け、デザイナーを呼び付け。

ありし日のわがままサーシャが戻って来たと執事長が父に報告するだろう。




彼らが帰った後にメイド達を退室させ。


手芸バサミを取り出すとドレスを切っていく。


大ぶりな宝石はトンカチで砕き、砕け散った宝石を集めケースに保管していく。



「…やる事大胆だね…」

なんとも言えない顔をするメイドをよそにサーシャは満点の笑みを浮かべ、ハギれ化したドレスをリメイクしていく。




「こうやってね、中にゴムを入れて糸をむすべば髪飾りができるの。どう?街で売れそうでしょ?」


「この金属の土台にくっつけたら簡易ブローチになるでしょ?もっと長さがあればヘアアクセサリーになるし、砕いた宝石でも街では見栄えする低価格商品に早変わりするわよ!」


「ハンカチは刺繍して、所々にさっきの宝石に穴を開けたら可愛くなるし、通常のハンカチよりお高めに売れるわ」



一通り準備ができたら行くわよ!と言いながらサーシャは手を動かし。


苦笑いをしつつも手先は器用なのかキーゼラ…カイゼルは黙々と作業を進めた。



カバンいっぱいになるのには数時間もかからなかった。




移動魔法で城下町に降りて目指すは商業ギルドだった。


商業ギルドに着くと、受付窓口で商品紹介と値段を提示し、それに見合った商店を紹介してくれる。

今回で三回目になるこの作業。

サーシャのことを気に入っている商店は今回も案内された。



街の職人街と庶民の住宅街の間にある公園の目の前の商店。いつもここがサーシャの商品を引き取ってくれる。

最初は低ランクポーション。次に刺繍されたハンカチ、どれも好評でサーシャが来ると逆指名が入るくらいだ。



ドアを開けるとベルの音が鳴り、店主夫婦が姿を表す。


サーシャはカバンを両手で掲げながら笑みを浮かべ、今回のブツです!と大張り切りで叫んだ。




「ササちゃんいつもありがとねぇ〜。ササちゃんの商品いつも人気なのよー」

女将さんが言いながら前回の売り上げはきちんともらったか聞いて来たので頷き、和気藹々とした時間を少しだけ過ごす。



「そう言えば公園の敷地内にあるレストランね、店長が夜逃げしたから売りに出されるらしいわよ」

そうなんてことない会話をして。



サーシャは笑みを浮かべた。



(ここは職人街と住宅街の中間地点。…うまくいけばあれができるかも…)



「素敵な情報ありがとうございます!」


ではまた!とカイゼルを引っ張りながら店を出た。




後日。


公園レストランが売りに出された。


「パパ!サーシャ、あの場所が欲しい!欲しい!欲しいぃい!!」

珍しく父の前に現れ、サーシャは声を張り上げ不動産情報を掲げた。


「サーシャの公園にするの!サーシャ公園ってするのぅう!」

わざとらしく声を張り上げ、駄々をこね。



売りに出されて即日。

公園全てがサーシャ・チューラップ侯爵令嬢の名義になった。

サーシャ七歳の時である。





アルテ公園と名付けられた公園には子供達で溢れかえっていた。


職人達が丹精込めて作成した鉄遊具で遊ぶ者、敷地内レストランで親の仕事の帰りを待つ者。

気がつけば公園一帯の職人街は次々と商店が出店され、賑わいを一層強めていた。




「仕事をしている親をね家で待つんじゃなくて公園で遊ばせればイイと思うのよ。ごはんも低価格で提供して。子供なら食べる量も大人より少ないでしょ?赤ちゃんや幼児は託児所も兼用して育児経験のある主婦を採用すれば彼女達の財布も潤うと思うの。もちろんレストランもね、子育てが終わった世代や主婦の人を積極的に雇用して。公園で遊ぶものは私に案があるから!」



当時、サーシャはそう言いながら行きつけになっていた商店の夫婦に話した。

サーシャの正体に驚く彼らを尻目に彼女はいたずら成功と言わんばかりに驚いた。



「今後ともよろしくお願いします」




いわゆる託児所兼子供食堂。そして遊具の登場。現在はマイナスでも将来を見据えての投資ひいてはもし断罪された時の保証にもなる。

必ず成功する案件だ。実際月に二回行われる公園内チャリティーイベントは大賑わいだ。

ここまでしたらまさかシーラをいじめた悪女という不名誉なレッテルは…貼られないと思いたい。まぁ、それでも死ぬ運命なら好きなことをして今世は幕を閉じてやると心に決めていた。



なによりも、カイゼルや過去の自分に似たさみしい子供達の心の拠り所になればいいと…。



その時は思っていた。






結果はすぐに現れた。

まさかの報告が父からであった。



「サーシャ、良くやった!!」

嬉しそうに新聞を掲げ執務室で声を張り上げた父を見ながら新聞の一角に目を通す。

…結構大々的に報じられていた。



アルテ公園の評判を聞きつけ住宅街に移り住む住民が増え雇用促進。珍しい遊具や低価格の子供の食事、託児を請け負うレストランは賑わい、遊具を作った職人達も才能を買われ儲けの一部を公園レストランに寄付していると。子供を預かってる家庭の職業はさまざまで彼らは野菜や酪農品、加工食材などの寄付をレストランに行い、循環し潤っていると。

新聞社が公園近所の住民にインタビューを行ったところ、商店の夫婦を始め事業者達がサーシャの名前を出し、全てサーシャの案だと報じられていた。賑わいすぎて近々病院の設立計画など、止まるところを知らないと記載されている。



「やっぱりサーシャはやる子だと信じていた!!でかしたぞサーシャ!」

父は嬉しそうに笑いながら今夜は晩餐だ!と執事長に指示を出していた。



晩餐の中に。



カイゼルの名前は出なかった。





久々に見る義母と少し成長したシーラは父とペアルックだった。

三人だけ家族、と、遠巻きから見ながら食事を終え。


久々に義母と話したいとサーシャは二人きりにしてもらった。


背後にメイド服で変装したカイゼルを置いて。



三人になった食堂に静かな沈黙が流れる。



もちろん先に声を上げたのは、サーシャだった。




「お母様。聞きたいことがあります」


カイゼル兄様を最近見ないのですが、存じませんか?と。



「カイゼル…。カイゼルはね、メイド長が教えてくれましたの。最近はずっと勉強して忙しいそうですわ」

悪意のない笑みを浮かべながら話す後妻に、いや、自分でその姿を見たの?と思わず言いたくなるのを堪えエセ笑いを浮かべる。



「そうなのですか。私、最近ずっとお兄様を見てないので、たまに会いたくなるのですわ」

「まぁ!…まぁ!サーシャ様はカイゼルの事…もしかして?」

「お、お母様?!そ、そうではなくて!あの、あのですね…。お母様はお兄様にお会いになってますか…?」

「…この邸に来てからカイゼルが私に会いに来てくれるのです。…あれ?そう言えばあの子に会ったのは…いつかしら?」

いつもメイド長が知らせてくれるのよ、と微笑ましく笑いながら。



「最近は背がすっかり伸びたらしいわ」


「そうなのですね。…私今度お兄様をお茶にご招待しようかしら?お母様も、シーラも。家族団欒で過ごしませんこと?」

父を省いたのは悪意がある証拠。

気付かない後妻は微笑を崩さず頷いて、是非にと声を張り上げた。



後妻に見送られ部屋から出る時にカイゼルの手を握り。

別れの挨拶を告げた。



「あの、メイドの子、サーシャさんと同じ背丈でまるで姉妹みたいね」


出て行った部屋で、とても嬉しそうに微笑む後妻を残して。






悪意がないほどタチが悪い。


後妻との会話が終わり部屋に戻ると乳母のメイド長はじめメイド達が笑顔で迎えてくれた。


「お嬢様、やっぱりお嬢様は聡明で賢いですわ!!」

新聞読みました、から鼓舞を始め勝手に称え始めるメイド達。


(ドレスの件や、公園買収の時の件、陰であんた達が人のことわがままお嬢に逆戻りって悪態ついてたの知ってるんだからね)


ほんと都合の良い奴らと思いながら始まる後妻とシーラの陰口。

カイゼルは聞き流す技術を身につけ顔をうつ伏せながらテーブルを拭き始めた。



「あの親子ってば本当卑しいですよね?当たり前のように居座って!」


「たいしたこともしてないくせに偉そうにして!そう思いませんかサーシャ様!」


「サーシャ様の業績が偉大すぎて!!あのシーラって子?あの子何してるんですかねぇ?」


最後は必ずサーシャ様がかわいそうですで締めくくり、期待した瞳でこちらを向く彼ら。



「それにあのカイゼンって卑しい乞食!運良く侯爵家に拾われたから…。サーシャお嬢様を蹴落として当主の座に就こうと当主様に媚を売ってるのですよ?」


代表した乳母の一声に肯定するかのように頷く彼ら。



「…あんた達にカイゼル兄様の何がわかるのよ?」


恐ろしいくらい低い声が出て、自分でも驚いて。



思わず手に持っていた呼び鈴を乳母に投げつけ「あんた達部屋から出て行ってよ!!」叫ぶと共に鳴り響くベルの音。



気がつけばドアが開かれ、父や後妻、執事長が立っていたことに気がつかなかった。





「あんた達はいつも私に言うわよね、かわいそうだって!私かわいそうだって思ってないわよ?キーゼラがいるもの!そもそもお母様は元子爵家のご令嬢なのよ?!あんた達より偉い立場なのよ?なにが卑しい女よ、あんた達の方が卑しいじゃない!!私にいつもお母様とシーラのこと言っては憂さ晴らししたいんでしょうけどね、手を動かしなさいよ、手を!お父様とお母様のこと知りもしないあんた達が勝手に人の家族を踏みにじらないで!」



「それにね、カイゼル兄様は誰よりも優しいの!あんた達がお父様やお母様をわざと私から遠ざけてる間に沢山構ってくれたわよ!!あんた達はあの物置部屋で断食してのたれ死んでると思ってるでしょ?!」


思うがまま声を張り上げ自然と目が潤み始め。

違うと否定する乳母を制したのは父だった。



「カイゼルの世話はお前に一任していたな?」

「ご、ご当主様?!いつからそこに?!」

本当にいつからだよと内心思いながら二人を見据え、ふと手に寂しさを感じカイゼルに近づき手を繋ぐ。


やっぱり温かい子供体温。

震えてる手を安心させるように指を絡ませ、耳元で大丈夫だよを繰り返す。



父はサーシャの方を向き直り、今から乳母にカイゼルの部屋に案内するように命令したからついてくるかを聞き、頷くサーシャ達。



もう後戻りはできないと乳母始めメイド達はトボトボと歩き出し古びたドアの前に立った。



まさかカイゼルがここに押し込められていたとは思いもよらなかったのだろう。

後妻は目を見開きドアノブを掴み、カイゼルの名前を呼ぶが返事はおろか鍵は閉まって動かない。

父は魔法を使いドアを壊し、現れた部屋は蜘蛛の巣に覆われ埃まみれになっていた。



父は乳母達を一瞥し、サーシャを見る。



「サーシャ、カイゼルはどこに消えたんだい?」

今までに聞いたことのない優しい声で呟いた。





「…お父様。お父様はカイゼル兄様に何を求めてますの?」


「サーシャ?カイゼルはどこに消えたかを今話してるんだよ?」


「今までカイゼル兄様を家族として受け入れてなかったくせに?私のことも私がお父様のそばに行くまで部屋に寄り付かなかったくせに?私てっきりお父様の家族はお母様とシーラだけと思いましたわ」


「サーシャ!!」


「お父様はとても合理的ですものね。私が成功した暁には王子達の婚約者になるかもと打算もありますよね?カイゼル兄様を養子に取ったのはもしもの為の後継候補ですよね?」


ゲームの中ではそうだったはず。

実際には魔導団長の娘ということで贔屓にされてきたのは本当のことだが。


「それは違うよ、サーシャ!!」

否定する父を一瞥しながら言葉を続ける。



「お父様とお母様の事は知ってましたわ。私、人の心を読める魔法に成功しましたの。ね、執事長。先日あなたの心の中を読ませていただきましたわ」

聴力強化魔法も、と言いながら耳に手を当てると「魔女よ、この子は忌子よ」と乳母の声が聞こえた。



「まぁ、酷い。だれが魔女で忌子なのでしょう?あなたが丹精込めて育てた乳子ではありませんか?」

「ヒィィイイ!!き、聞こえてたの?!」


ばっちりとニコニコ笑いながら乳母を見て。



据わった瞳で父に顔を向ける。



「カイゼル兄様をこんなふうに追い込んだのは…この邸のみんなだということに気づきませんか?」



もう、みんな、信じられないと声を張り上げて。


目の前が真っ暗になった。







目が覚めると寝室のベッドの上で。

視界が開けてすぐに父と後妻、シーラが顔を覗かせ安堵の息を漏らす。



あの後すぐに魔力が暴走し、乳母とメイド達が氷漬けになったこと。

サーシャの魔力が父を上回っていて後妻と執事長を庇うのに必死だったこと。



「サーシャ、君を暴走から止めたのはね…」


「お姉ちゃん!シーラね、お兄ちゃんに会ったよ!」

父の言葉に被せるようにシーラが笑みを浮かべサーシャに抱きついた。


「これからはシーラね、カイゼルお兄ちゃんと一緒に暮らせるんだよ!」


何も知らないシーラは無邪気に笑い。

サーシャもシーラを強く抱きしめ周りの音を遮断させるように腕で耳を覆う。





「サーシャさん、ありがとう」

嗚咽を漏らしながら後妻はサーシャに頭を下げて、話してくれた事実に怒りが湧き上がった。



乳母達はカイゼルの死を願い、子殺しの罪を後妻に着せるつもりだったのだ。



「私にはカイゼルの事は侯爵家の方針に則り実子のサーシャさんと同じ教育を受けさせる。…男爵出の身分の者が母なら子供はそれ以上の育てをしなければ侯爵家が社交界の笑い物になると。…カイゼルが侯爵家のお荷物になるのは私にとっても困るでしょう、と。…世話をきちんとしてくれてると…思ってました」

毎日夕方にカイゼルの報告を聞いていたらしい。だからそれが当たり前になっていたと。

最近部屋を訪れないのは侯爵家の教育が本格的に始まったからだと思っていたと。



「…お母様。…カイゼル兄様はなぜお母様の部屋を訪れなかったかご存知ですか?」


(知るわけないわよね。わかるわけないものね)


目を細め、後妻を見る。

ゆっくり息を吸って、声を出した。





「カイゼル兄様は持参した衣類しか持ってなかったのです。あの者達はお兄様に与えられた経費を横領して、お兄様に従事するよう与えられた就業時間をサボっていました。お兄様は洋服を洗うことが出来なかったから会えなかったのです」


「最初の頃はお母様がお父様と過す時間を考慮して。次第に洋服も着回せなくなると部屋の中で閉じこもる時間が増えましたわ。…あの洋服も男爵嫡子である長子のお下がりだとか…」

ぼろぼろの服を洗い方もわからず誰からも相手にされず。



母親からも距離を置き。



(前世の私より待遇が酷いじゃない…)


事実を伝えた後妻は泣き崩れて。


シーラは不思議そうな顔でサーシャの方を見て首を傾げた。




「ーーーカイゼル兄様はどこに?」


一番に聞くべきだったのに。

失念していたとでも言いたげに父を見たサーシャに先ほどの話の続きを聞かせてくれた。



暴走を起こしたサーシャをメイドに化けたカイゼルが背後から抱きついて落ち着かせてくれたこと。

倒れた二人を介抱し、医師を呼び治療をさせた際メイドがカイゼルだとバレたこと。

カイゼルが先に目覚めサーシャの安否を聞くや否や眠るサーシャを三日三晩寝ずに看病して、一日中寝た後に今日。


「公園でチャリティー事業があるからと出掛けて行ったよ」

メイドに変装してね、と。



主催者は別にいるがゲストとして必ず参加していた。

代理で参加したのだろう。



(律儀な子よね…)



シーラの頭を撫でながら、公園の方角がある窓を見た。




あれから父は使用人達の入れ替えを行なった。

乳母やメイド達、後妻と子供達を貶していた者達は皆王都追放を言い渡され各々の故郷に帰って行った。



サーシャがあの日見せた魔法の能力は関係者内の秘密になり。

心を読む魔法は負荷がかかるので使いませんと約束した。



(まぁ、プレイ動画のネタバラシ見ただけで実際してないけどね…)

多分やろうと思えばできるだろう。

歴代最強魔法使いのボスにヒロインを守るヒーロー達が立ち向かう話だから。

…結局、ゲーム内のサーシャは魔力封印の王家の秘宝を使ってただの人になり、地下牢獄に永遠に閉じ込められるオチだったが。





最初は父から距離を置いていたサーシャやカイゼルもシーラを通して徐々に打ち解けて。


カイゼルは一室を与えられ、父と時々武術指導を行い始め、彼らの仲は深まったある日。


カイゼルが訓練を見に来てくれとサーシャに話しかけてきた。

本当の姿になって栄養ある食事をコックがきちんと考えてくれていたのか。

変装していた頃とは比べ物にならないほど成長した姿で微笑んだ。

最近では武術をはじめ共通の家庭教師達もカイゼルの成長に驚き、当時を知っているサーシャは感動したものだった。



頷くや否や、明日の夕方、訓練所で!と駆け出した背中が。


とても立派に見えた。






約束の時間、訓練所に着くとカイゼルはいなかった。

代わりに父がいて驚いた顔をしていて。

あの日にサーシャが伝えたことの父への思いを聞かされた。



母と結婚したあとも恋人であった後妻を忘れられずにいたこと。実母を亡くしたサーシャの可愛がり方がわからず全て乳母に育てを任せたこと。シーラとカイゼルを連れてきてもシーラの後妻離れが出来ず、乳母達がサーシャと同じくカイゼルも責任を持って育てると話していたこと。父も乳母であるメイド長達の言葉を信じて毎日カイゼルとサーシャの報告を聞いていたこと。



「カイゼルはとても優秀で賢く、物分かりがいい子だと。サーシャは…手の掛かるわがままな子だと聞かされた。何度かサーシャに会いに行こうとするのを彼らは癇癪がひどく、しばらく顔を合わせていない私を見て駄々をこねるかもしれない。カイゼルが優秀な分、サーシャもしっかりさせなければいけないと言われてたんだ…」


どこまでも腐った乳母達め、と、心の中で悪態をつきながら父の話を聞き終わり。


聞き終わった頃には、サーシャも後悔した。





前世と今世の父と言う存在を心のどこかで同じだと思っていたのかもしれない。


前世の父は滅多に家におらず、仕事終わりには必ず遊び歩いていた。

そんな父を母はよく「お父さんが養ってくれてるんだから感謝しないと!」

そう言いながら病弱な弟の看病や、問題を起こす兄の学校への呼び出し、親戚への祝儀資金集めでバイトに明け暮れていたなと。






結局、前世の父も今世の父も自分を嫌っているのだろうと思っていた。



この父はサーシャに寄り添う姿勢は確かにあったのだ。

話せば最後まで聞いてくれるし、なんだかんだでわがままも叶えてくれていた。



父はサーシャに謝罪を述べ、本当はサーシャではなくカイゼルと稽古をする予定だったと教えてくれた。




「きっと、カイゼル兄様が二人だけで話す時間を作ってくれたのね…」



ありがとう、と言う言葉は。


夜の風に消えていった。






月日はあっという間に流れた。


サーシャ十歳の夏。


子供食堂事業を始め、市政に寄り添う事業を次々と提案し、いつしか市井でサーシャは公園の名前にちなんでアルテの聖女と呼ばれるようになった。



昔馴染みの商会夫婦と団結して、売り物にならない宝石のかけらを買い取り、アクセサリーに加工。儲けが大きくなったら息子夫婦のために二号店を住宅街に作り、サイズの決まった赤ちゃんから大人までの服専門店をオープンさせた。デザインも色違いを揃え、子供達は低価格で購入できる服を仲の良いグループで購入してファッションを楽しんでいた。



また病院の病棟を、店舗の売上とサーシャの資本金で一棟購入し、子供病託児棟を設立した。公園内託児所より割高だが仕事を休めない大人達に大盛況であった。



更に職人街に子供が通える訓練所を作り、武術に興味のある市井の子供を月額制で基礎だけだが、教える教室を開いた。

侯爵家に新しく仕え始めたサーシャの護衛達を、サーシャが市井に降りる際に教室の講師として招いて。

時折カイゼルも共に街に降り、幾人かの子供達を相手にしていた。


月に二回のチャリティーは週末毎に増え、一度は公園内で護身術の練習を行う講座を開いた。

父が休日の日は家族で公園を訪れ、人々との交流を広めていった。



気がつけばヒロインであるシーラは市井の友人に囲まれ。



本来なら起きるイベントが発生してないことに気付いたのは。



サーシャが十二歳の誕生日を過ぎた頃だった。



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