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帰還パーティが終わりしばらく。

サーシャはまた学園に戻ってきた。

ヴァイオス達と側妃を支持した貴族達は消え、シーラ達を始めとする下級生の生徒会の活躍で学園の問題は次々と解消した。



ヴァイオスの側近だと思われていた宰相子息はやはりと言うべきか。王太子側の人間でカイゼルが指導していた教室の生徒だった。

医療団長子息は母親である女医から、側妃公爵家の弱みを握るためにヴァイオスの周りを探っていた王太子支持側だった。

他にもちらほらと遠目から見ていた貴族達は王太子支持派で、第二王子や他貴族の悪事の証拠を掴むためにいたらしい。



王太子とヴァイオスが同じ期間学園に滞在する二年間が王太子支持派にとって勝負だったらしい。ヴァイオスの素行の悪さは側妃支持貴族達は気づいてなかったが、気づく者達はしっかり見ていた。

きっとサーシャの事も何か事情があるのだろうと感じながらも、サーシャ自身が周りに助けを求めなかったので、黙って見ているのも嫌だと証拠集めに奮起していたらしい。

ほとんどの生徒達はヴァイオスが行っていたサーシャへの行動を逐一報告していた。



王太子即位後すぐにヴァイオス及び側妃の幽閉を行う計画だったらしい。

側妃が王太子暗殺を行った事で明るみになった違法植物の栽培。

近年における魔物増加の原因が明らかになり、これからは平和な暮らしが続くだろうと予測される。

武器流通の儲けを考えると先王時代から続いていたのだろう。国王や父の世代は遠征が特に多かったみたいで、国王も側妃を娶ったのは苦渋の決断だったのだと父から後日話を聞いた。





側妃勢力の中には母の実家子爵や男爵家も含まれていた。

シーラの救出の際子爵に見切りをつけた使用人達はその後サーシャが行う事業の補佐を行い始めた。

まさかシーラの周りにいた使用人達丸ごと副団長始め捕まえた兵達が化けていたとは思わないだろう。そもそも子爵はすでに薬物に侵され狂っていた。少しの違和感さえも気づくことはなかっただろう。



副団長達をシーラ達に変化させる際、国王達も驚いていた。

サーシャはゲーム内では歴代最強の魔術師だと紹介があったくらいだ。そうでなければ主人公側がいかに凄いのかを表現出来なかったのだろう。

シーラ救出時に子爵以外の者を皆入れ替えた事。監視さえも。

それは死んだ後も子爵は知ることはないだろう。



男爵はパーティの中で拘束された。

彼は自分は王太子妃となるシーラの実父だと叫びながら。

彼の隣には息子はいなかった。



パーティから三日後。


王太子の発言が全て実行された。






全て終わった。と、言うわけではなかった。

ヴァイオスの虚言癖と言うことでサーシャの潔白自体は証明されたし、父が決めた婚約者がきちんと存在した、という事実を世間に知らしめたのに。



当の本人も今だに話していない。

ちゃっかり周りは祝福ムードで歓迎してくれる。

今でも令嬢達に、お似合いだとか、昔からそんな気がしていました、とか今更なことを言われるが。



(本人とまだ話してないの〜!!)



周りから埋められてる気がする。確実にそうだ。





「え?カイゼル兄様とお姉ちゃんは両想いでしたよね?」


珍しくシーラをランチに誘い、意を決して話を振ると即答。

まさか、無自覚だったのですか?と言われたものならばまさしく、としか言いようがない。


「お父様が私達と初めて会った時に兄様にお姉ちゃんの事を未来のお嫁さんだと紹介してましたし」

なぜ今更言うのか?


父は確信犯か?愉快犯なのか?

一番初めにサーシャに言うべきだろうと思いながらも、もしかしたら小さな頃に話していたのかもしれない。実母の遺言で、という言葉を思い出しサーシャにはきっと「生まれた時からサーシャには婚約者がいるからね」とか言っているかもしれない、あの父の事だから。いや、そもそもサーシャが父と母の関係を知っていると嘘の証言をしたのだ。父の中ではサーシャが全て理解していると思っている線も濃厚だ。



もしかしたら、の仮定の話がサーシャの頭を駆け巡る。



父の話す家族と言うのは、サーシャは娘、カイゼルは婿養子、母は親戚の妹分、シーラは妹分の子供。一括りにして家族と呼んでいたのではないかと。

そうなれば母がサーシャに接していた程よい距離感も納得が行く。

実娘のシーラと同じくらい可愛がっていたのは仲の良かった実母に対する気持ちも混じっていたのではないかと。普通なら義理の娘を分け隔てなく可愛がる必要性はない。



じゃあ、カイゼルは?



…その本人に会えてないのだから気持ちはわからない。

遠征から王都に帰ってきた際も一定の距離を保たれ、パーティが終わった後も気まずさや恥ずかしさからお互い離れていた。

そもそもあちらは王太子の側近なのだ。後処理に追われ、サーシャは学園へ。



そんなことを考えていたらシーラが冷や汗をかきながら見ていた。



「まさか、まだお互い話していないのですか?」


サーシャのカップを持つ手が震え、あからさまに動揺を始めるのを見てシーラはため息をついた。



両想いだ、と、シーラは言ったのに。

目の前のサーシャはカイゼルの気持ちがわからないと悩んでいるように固まっていた。





あっという間に卒業した。

…シーラ達が。


そう、卒業して一年半経過していた。

気がつくとシーラが学園卒業後直ぐに王太子と結婚という話になっている中。



肝心のサーシャは未だにカイゼルと話が出来ていない。

話はするのだ、世間話は。行動も一緒なのだ、事業者達も同行して。

何故か二人きりにならない、夜も昔のように訪れなくなった。

そして邸に帰ってきた後も、母や父、執事長始め使用人達から口を揃えて「いつも一緒だったから婚約関係は良好だと思っていた」と言われる始末。

カイゼル本人は王太子の以下略で駆け回ってる時、サーシャも邸内を駆け巡った。そしてみな口を揃えて話す事。



「私はサーシャがお母様の事を知っていると話していたからね、てっきり察しているのかと思ったよ。距離がいつも近かったし。だからサーシャとカイゼルの関係は暗黙のルールだったんだよ。婚前交渉さえしなければ二人きりも許していたのに。あの屑達のせいでサーシャの気持ちが不安定だったからね、カイゼルに全て任せていたんだ。カイゼルにも私は未来の息子という視点で育てていたし。息子であり愛娘の配偶者なんだよ?徹底的に鍛えないと。と、いう事でしばらくは王太子の側近が忙しいと思うよ」


次期当主教育を父から受けながら言われた言葉がそれ。


「ちなみにあの子ね、屑にも辺境に飛ばした子息達にもみんな去勢させたらしいよ」

らしいよ、の内容が酷いです。


「あとは辺境行く前に元副団長子息が逃亡図ってね、たまたま居合わせたらしいから重刑でその場で処理したらしいよ」


誰が、とはもう聞かない。



「あとね、サーシャ達の結婚式はシーラ達が終わってすぐだから」



本人の気持ちは何処へやら。


父はニコリと微笑んだ。





王太子とシーラの結婚式が終わって三日後。



本当に式を挙げてしまったのだ。

いや、本人達の意思!と、思いながら誓いに応え、顔を見合わせて来るのは誓いのキスだと思った。

面と向かって見ると恥ずかしさが増し、カイゼルも気付いたのか頬を赤くなり始め。

数分見合わせたらしい。神父の咳払いに気付き手を繋ぎそのまま退場した。



そして初夜、だったはずなのだ。

新しい夫婦の部屋ですよ、とか案内された部屋。流されるまま押し込められて待つ事数分。母がやってきて、ごめんねの一言で終了。え?なにが?と聞き返す間もなく母は気まずげに部屋から出て行った。

そして寝室のベッドで就寝。

朝起きたらメイド長がやってきて気まずげに身支度を整えてくれた。



「あの、若旦那様は…出血多量で自室で休まれてます」



なにがあったのか?

どこを怪我したのか?


「…脇腹です」


申し訳なさそうに彼女は言うと去って行った。




結婚したはずの五日後。

ずっと別室、夫であるカイゼルも未だに王太子の仕事で邸を留守にする。

各々忙しかったんだと思う。

次の日が互いの休みという事で例の寝室に呼ばれたはずなのに。


「若旦那様は閨教育を行ってます…」


気まずげに伝えてくる執事長。


「…は?」

思わず出た言葉がそれだった。



まさかの結婚した後にそれってどうなの?

閨ってアレよね?経験済みの女性を呼んで致す事よね?!

なんで嫁がいるのにその話をするのか?

一つ同じ屋根の下で話も碌にせずに結婚まで至ったのは不本意だったと思う。


執事長が止めるのも聞かずにサーシャは寝室を飛び出すとカイゼルの自室へ足を運ばせた。




ドアをぶち壊すと別世界。

夫であるカイゼルが肉感的な女性と…父といた。女性ではなく、父だった。

二人で机に向かい合い机には写真が沢山置かれていた、サーシャの。


いつ撮ったのだろう?隠し撮り的な犯行か?学園を卒業後、社交界デビューを果たした時のドレス姿の写真や、最近の写真まで。

どこが閨教育なんだと叫びたい。

追いついた執事長は父に頭を下げると、父がカイゼルの肩に手を置いた後、写真を回収して行く。


呆然とするサーシャの方に向かってきた父は「いい加減親離れしてもいいんだよ、シーラも嫁に出たしね。そろそろ次期当主としての自覚を持ってね?」と耳元で言われて執事長と部屋を後にした。ちゃっかりドアを、修復して。



サーシャは一呼吸置いてゆっくりカイゼルの元に歩いて行った。





「…言いたいことはたくさんあると思います。婚約から始まり結婚までが突然過ぎて、主に父様が率先して動いたけど…これだけは言わせてください」


何故改まるのだろうか?正座をソファの上で始めたカイゼルの隣でサーシャは腰掛けながら彼を見た。


「僕は父様の意思関係なくサーシャのことを愛しています。今までサーシャのことを一度も妹として見たことはありません。初めて会った時や助けてくれた時。何度も君に惚れ込んで…、だからこそ君が苦手だと話していた武術を強くなりたいと剣を取りました。…その、初夜の件は…先に気持ちを伝えたいなと思って、たら…」


「…たら?」


いきなりの告白に驚きつつも続きが気になりツッコミを入れた。

今自分はどんな顔をしているのだろう?耳元は赤くなっていると思う。

ふと目が合うとカイゼルも見る目が赤くなり出して。


「その…サーシャと話すより先に関係を持ってしまいそうで…抑えきれなくて、とりあえず冷静になるために切ったんだ、脇腹を」


切るな、と脳内でツッコミが入りながらもカイゼルの目はサーシャを捉えていた。

獲物を狙う目で、静かに捕獲していく獣のように…。



サーシャ、と優しい声音と裏腹にカイゼルは頬をさする。


「一目惚れだったんだ。だからこそ自分自身を惨めに思った。邸に来たばかりの時も、キーゼラになっていた時も。サーシャはいつだって僕の前を歩いていた。サーシャが僕に向ける顔は他の人と違うって思ってたよ。それが愛情なのか、同情なのかはわからなかった。あの日、夢の内容を打ち明けてくれた時は嬉しかった。サーシャが僕だけを頼ってくれた事実が。サーシャが一言、助けて、って言えば学園にいる時もずっと離す気はなかった。実際サーシャが望んでいないということは理解していたから…ねぇ、サーシャ」


僕は君の事、愛してる。



そう言うとサーシャの唇を奪った。



サーシャも唇が離れると、伝えるのだ。


最初は同情心があった事。父と母、シーラの三人家族に交われないカイゼルに対して。本音を言えば前世の自分に似た境遇の子供に対して。そばにいる安心感、逞しくなっていく異性としての姿にいつしか愛情に変化していったと。

もしかしたらサーシャ自身が気づかない間に育っていった感情が芽吹いたのが自覚した時期なのだろう。


サーシャも気持ちを同じく笑みを浮かべる。



「ずっと愛してました」


その一言を、あなたに。







歴史上黄金期と呼ばれた時代に彼女の名前はあった。

歴代魔導団長の中でも最高級の魔法の使い手、サーシャ・チューラップ侯爵。

当時の王妃の姉である彼女は栄光の時代を作った。

国内の魔物を殲滅し、平和の世を作った国王の元、彼女は更に魔法の力で国の生活を豊かにする道具を次々と生み出した。

兵器としてではなく、日常で皆の役に立つ道具を考え、後世に語り継がれた。



そんな彼女は家族ととても仲が良かった、と、語られていた。

道具の発明の際も夫である当時の騎士副団長が考え、彼女が作り手に回ったエピソードも何点もあった。

三人の子供達は彼女達の愛情を沢山受け取り、今があるのだと。

子孫である一人が現魔導団長であり、彼女の伝記を作ったのはまた違う子孫であった。

彼らの先祖…、三人の子供の一人が残していた日記にはこう書かれていたそうな。


父と母はいつまでも初々しい恋人同士のようだった、と。

いつまでも、長い初恋を楽しんでいた、と書かれていたそうな。










別作品に書いていたヒーローの前世の本来の性格的な人を書きたかった、それだけで生まれた物です。




主人公のそばにいて支えてくれながら影が薄くて、ヘタレで、片想い期間は気の良い兄貴ツラしてるのに、主人公の好意がわかると一気にヘタレるそんなジョンが私は見てみたかった、ただそれだけです。




これにR指定付けたらあの場面はちゃっかりやらかすだろうし、カイゼルの実父はアレな人だったオチ付けになって更に病む展開になっていただろうと、主に事実を知った母が。



反吐の出るくらいのクズを一度書いてみたかったんですよね、別作品の悪役達は皆ラブコメ重視だから異性関係ガッツリ関わってくる嫉妬的な悪役多いですけど、側妃は実家繁栄のために動いてる屑です。

そこの部分ちゃっかりカットしましたが、その部分をサーシャは前世の母と重ねた話もあったはずなのです。とりあえずクズがとことんクズなシーンを書いてみたかった、そんな話。



転生モノは王妃側妃出てきた時点で「国王がしっかりしないからいけないんじゃないの?」と思いながらも、前置きにゲームの世界をつけたらあら不思議、ゲームの世界だから多少のご都合なのねで済ませてます。なので今作も国王しっかりしろと思いながらもゲーム設定だからしょうがないよね、で言い訳してます。



完結しましたがネタにしたいゲーム内話あるのでネタとしてまとまったらアップできたらいいなぁー程度に終わります。





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