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長い遠征の終わりは訪れた。

第二王子の母が国王に涙ながらに訴え自身の息子の婚約者を陥れた犯人を捕まえてきたと告げた翌日だった。



大きな被害と多くの兵が亡くなったと。

前線に出ていた騎士団長と魔導団長の死。

魔物に倒された王太子、魔導団長の子息。

帰ってきた医療団長と騎士団長子息、副団長、そして死んだと思われていたサーシャ達他騎士達は力無く語った。



側妃は誰よりもサーシャの帰還を喜び、国王は亡くなった兵達の死を悲しみ、残って帰還してきたもの達に向けてその晩、貴族達を集めて帰還パーティーを行なうことにした。







学園の生徒達も特別に休校になり、王都中にいる貴族達は王城の大広間に集まった。

帰還者を祝う中、サーシャは側妃と一緒に登場し、第二王子のエスコートを受ける。

帰ってきたのかと憎々しげな態度を隠すことなく第二王子はサーシャの手を引き王族の席へ座る。

遠目から母の安否を確認し、国王の言葉でパーティは始まった。



国王の挨拶が、それはもう、長かった。

今回の戦いで多くの犠牲者が出たこと、騎士団長と魔導団長は自分の学生時代の親友だったこと。話しているはずなのに言葉が途切れ、涙を流し、言葉を途切らせ、友情の証を何度も彼らと贈り合ったと思い出に花を咲かせた。

そのまま今回帰ってきた医療団長に向けての感謝の言葉をまた涙腺を潤ませながら話し、騎士団長子息に向けて父を超える存在になってくれと、涙を流し途切らせながら話していたのでかなりの時間が経っていた。



「国王陛下、一番大事な事を皆に伝えなくてはいけませんわ」

痺れを切らした側妃が立ち上がり、泣く国王、黙る王妃の存在を無視して話し始める。



今回の戦で王太子が戦死した事を。

よって王位を継ぐのはヴァイオスだと告げた。



湧き上がるざわめきを宰相が落ち着かせ、側妃は皆に訴えかける声で話し出す。

「ヴァイオスが国王になった暁には貴方達が平和に暮らせる様に私は誓いますわ。亡くなった兄である第一王子の意思を継いで立派な国王になる事をお約束します!」


一部の貴族達の歓喜を浴びながら側妃は慈愛に満ちた顔でヴァイオスに向き直る。


まだ泣いている国王、呆然とする王妃をよそに側妃はヴァイオスに手を差し伸べ、愛息子である第二王子は甘い笑みを浮かべながら母の手を取る。


「私は約束します!!亡き兄の意思を継いで皆が平和に暮らせる様な国を作ってみせると!!」


そのための一歩を、とヴァイオスは声を張り上げた。



「サーシャ・チューラップ!お前を処刑する!!」


怒りの滲んだ声を震わせヴァイオスはサーシャを睨みつけた。



「お前は遠征に出た際、戦いに明け暮れる我が兄やお前の父の影で、幾多の男と関係を持ち戦場を遊び歩いていたな?!医療団に参加すると話していたのに実際に行っていたのは、怪我人を治療するわけでもなく、死者を弔うわけでもなく、ただ快楽に溺れ父親が亡くなっても兄が亡くなっても涙一つも見せずに!!そんな女が私の妻になるだと?!甚だしいにも程があるっ!!」


その言葉に周りはざわめき始め、視線は一斉にサーシャの方は向く。

サーシャは澄ました顔をヴァイオスに浴びせながら表情を無くし、無言を貫きただ座っていた。


沈黙は肯定と捉えたのか、何も言わないサーシャに学園在学中も人が見ていない隙にさっさと乙女を散らし沢山の男と関係を持っていた。無駄にデカい胸や成長した体が物語っていると嬉々として語るヴァイオス。


「誓ってその様なことはありません」

サーシャはその言葉だけは反論した。

…なかったはずなのだ。

あの夜の記憶が曖昧で、覚えてはいないが女医の健診の際、きちんと処女の証は存在すると聞いていたから。

それ以降もない。むしろ相手に避けられ、自分も距離を置いていると脳内劇場が始まりそうなところをきちんと引き留める。



話が突拍子もない内容で思考が停止していたのか、側妃はヴァイオスに近づき、「サーシャはそんなことしてはいないわ!!」と声を荒げた。



「母上、目を覚ましてくださいっ!母上はこの女狐に騙されているのです!この女は幾多の男をあの体で…」

「ヴァイオス!!何を言ってるの?!貴方こそサーシャを戦場に送り込んだ女狐に騙されているのよ?!サーシャは貴方の大切な婚約者。未来の貴方の配偶者!!信じないでどうするの?!私がきちんとサーシャを戦場に送り込んだ罪人を捕まえてきたわ!!」


捕まえてきた、で、会場のドアが開き、側妃の私兵だろう。彼らがシーラを連れてきた。

「サーシャ、かわいそうに…!自分の妹がまさか貴方を追い込んだ犯人だなんて思わなかったでしょう?あの女はね、第一王子の婚約者であるにも関わらずヴァイオスに懸想してたの。貴方のことが憎くて堪らなかったと…私の家の者に話してたわ」


「母上!!私はシーラのことを本気で愛しているのです!!シーラこそサーシャの被害者です!私は国王になった暁にはシーラを娶り、国を平和へと導きます!!」


始まる母子の言い合いに貴族達は困惑の色を見せ始め、ざわめきが大きくなる。



「ヴァイオス!母の言うことを聞きなさい!シーラは大罪人!サーシャは聖女なのよ!!」


「母上こそ正気ですか?!こんな穢らわしい、沢山の男に抱かれた女を国母として認めるのですか?!私の子供でない子供を産む女を?!婚約者と名乗っている時点でおかしいのです!早く罰するのです!!」


金切り声をあげヴァイオスはサーシャの手首を掴みあげる。


「シーラを貶めた罪人は王族の名の下、私が罰する!!」


そう言って王族の席。壇上から階段に向かって、サーシャを放り投げた。



(こ、ここまでする?!)


まさかの急展開に頭上から聞こえるヴァイオスの笑い声と側妃の悲痛な悲鳴。

サーシャは魔法を使おうとしたその時。



階段に配置された騎士の一人がサーシャを受け止めた。


予定どおり隠れていたのは知っていた。

それでもやっぱり嬉しいのだ。



「サーシャ、大丈夫だよ」


騎士服を着たカイゼルは優しくサーシャに語りかけた。





多分そこまで時間は経っていなかったのだろう。カイゼルに抱えられ見つめ合っていた二人を見て壇上からヴァイオスは声を上げる。


「な、なんでお前が生きてるんだっ!!」


その言葉を合図に階段に配置されていた騎士達、会場を警備していた騎士達は一斉に王族の席に視線を向ける。



「第二王子は死者の顔を覚えていたのですね。戻ってきましたよ、みんな」


みんな、と貴族達は周りの騎士達を見渡しながら気が付いたのか驚く者や青白くなる者もいた。



カイゼルの声に泣いていた国王が「では、パーティを始める」と告げた。



サーシャは国王の声に反応し、カイゼルに抱かれたまま指を鳴らす。


捕まっていたシーラの体が溶け始めそして体が作り替えられていき、悲鳴が上がる中現れたのは副団長だった。



何が起きてるのかわからない貴族達に王族専用扉から現れたのは王太子とシーラで。背後に騎士団長と父が見えた。

父と騎士団長は揃いのネクタイピンをつけておりその色は国王の指輪とお揃いであった。






「側妃よ、お前は実家の公爵家や傘下貴族達と手を組み私の暗殺、並びに各地域へ魔物を誘き寄せる違法植物を輸入増殖、魔物増加により家業の武器転売を行い多額の利益を出し、国税を隠蔽していたこと。植物を植えた近くの村の村人を証拠隠滅のため虐殺していたこと!罪状はそれだけではない!!平民の支持を得るためサーシャ嬢に目をつけ、嫌がる彼女を無理やり脅してヴァイオスの補佐に回していたこと!婚約は無効だったのを隠し今回の私兵を集める際サーシャ嬢の名前を利用していたこと!挙げ句の果てにシーラがサーシャ嬢に嫌がらせ?シーラを誘拐して隔離していたのはお前ではないかっ!!」



王太子の言葉に貴族席から上がる悲鳴。動き始めた騎士達が一斉に側妃の支持貴族達を捕まえ始めた。


側妃はありえないとでも言いたげにサーシャの名前を呼び、「あなた、盟約はどうしたの?!いいの?!いいのね?!」荒れ狂った様に叫び始めたのだ。


「お前の言う盟約とはこのことかな?」

父はネクタイピンを摘み上げ王太子達と王族席の方へ向かう。

「ちょうど新しい「盟約」の品を贈り直そうとしてたんだよ」

国王も先ほどまでの泣き顔は何処へやら。

騎士団長と三人で揃いの宝石の付いた指輪とネクタイピンを父に預け。


「王太子の未来に万歳!」


イタズラ小僧の様に笑い手の平の三点を燃やした。





「三人の友情の約束をお前はサーシャ嬢を貶めるために利用した。なんだったっけな…そう、確か。私の指輪を壊すと二人の命が絶える、だったか?いや、サーシャ嬢に伝えたのは父であるチューラップだけだったな。彼女の母親の首を斬ると脅しをかけて幼い彼女を傷付けながら行ったお茶会はさぞ楽しかったであろう」



国王は王妃と一緒に立ち上がり叫び出す側妃を見下ろす。


「王族の母でしょうに。みっともない」


初めて聞く王妃の声はとても冷たかった。



そんな王族の会話を今回完璧に巻き添えを食らっているであろう傍観貴族達は怯えた姿で見ていた。


側妃の恐ろしさに。

今まで何食わぬ顔をして政務を行なっていた側妃の顔がこんなにも恐ろしかったなんて。

そして、ヴァイオスの仮面も完璧に剥がれていたのであった。




みっともない発言をした後、王太子自ら側妃に縄をかけた。更に父が厳重に魔法で縄を強化して見せしめの様に会場のシャンデリアに縄を吊るしていく。ドレスの中は見えない様に足元までぐるぐる巻かれていた。

口も布で縛り上げられ数十分前には誓いの言葉を話していた人物の面影すらなくなっていた。



王族席に、立ちすくんだままシャンデリアを見ていた男がいた。



一瞬の栄光を、サーシャを突き落としたことによって失った男。


なぜこうなったのか、と、頭の中で考え母を見る。

そうだ、母があの女を連れてきたからだ。

ヴァイオスは階段でカイゼルに抱えられているサーシャを見た。






初めてサーシャの存在を知ったのは母からだった。ヴァイオスに相応しい子だからと何度も言われるたびに会えるのを期待していた。待てども待てどもサーシャはヴァイオスの元を訪れなかった。

だから会えると分かった時も仮病を使ってサボった。


最初に出会った時は妖精かと思った。珍しい青みがかった銀髪と大きな赤い瞳。自分が王族だから妖精は自分に許しを乞うかと思った。そしたら許してやると。


なのにサーシャは謝らなかった。

躾が必要だと思ってボールを優しく投げたつもりだった。

サーシャは額から血を流して倒れたのだ。


助けようとは、した。足が動かなかっただけだった。サーシャを支えるメイドが彼女を抱きしめた時、微かにサーシャの口元が動いた。兄様、と。メイドが優しく頭を撫でたらサーシャはそのまま眠ってしまった。



次に会えた時は婚約発表日だった。

ようやく会えたのだから、と、気持ちを込めてサーシャの皮膚を触る。

痛い、と泣きそうな顔になるサーシャを見て服従させたいと気持ちが芽生え始めた。




母は合理的だった。

目的が達成できたらあとは放置だった。

サーシャに会えないまま学園入学の日が近づいた。

歪んだ支配欲は年々増して行って。

入学した際に見たサーシャは他の令嬢よりも大人びて見えた。

可憐さの中に美しさを醸し出して。

そんなサーシャは自分だけのものだと、ヴァイオスは思っていた。


入学した後に聞く腹違いの兄の評判。

兄の次に出てくる側近達の話で、サーシャの兄の話題があった。

サーシャがあの時兄様、と言ってたな、そんなことを思いながら家族の話題に触れずに彼女と接していた。



サーシャと兄であるカイゼル。

生徒会に入り行事のたびに一緒にいる彼らを遠巻きに見ていた。

サーシャに近づく輩の誰よりも距離が近い。無自覚なのだろう。自分と言う婚約者がいるはずなのにサーシャはカイゼルに女を見せていた。

ヴァイオスに群がる令嬢と同じ懸想している瞳。カイゼルに向ける眼差しは正にそれだった。

血の繋がりのある兄、カイゼルも、サーシャを長年連れ添った恋人の様に見る時や、ふとした時に他の奴らと同じ様に卑しい視線を送っている時もあった。



サーシャとカイゼルは肉体関係があるのだ。

だからサーシャはヴァイオスに靡かないのだ。

ずっとあの男に抱かれていたからあんな身体の作りなのだと。

止まらぬ憶測はいつしかヴァイオスの中で真実になり。

サーシャに向ける感情が憎悪に変わった。



妹が入学してきた時、さらに確信に変わった。

わざとだった。カイゼルに気のあるやつを数名思い出し人数を話した時、侯爵の決めた相手がいると。

相手がいるにも関わらず妹とふしだらな関係を築いているのかと嫌悪した。



学園でのカイゼルの評判は兄が側近に選んだだけあって優秀だった。サーシャもだが学力においては学年首位。剣技の授業も兄である王太子を抜いて一番だった。

欠点があるとすれば潔癖過ぎるほど女を寄せ付けない極度のシスコンだと言う話。

そんな生温い兄妹関係ではない、とヴァイオスは心の中で舌打ちしながらもう一人の妹を見た。



サーシャとは違う部類の可憐さだった。サーシャが儚げなイメージなら彼女は草原に咲いた一輪の花。凛と佇んでそれでいて懸命に存在感を主張している。健気、と言う言葉が似合いそうな美少女だった。

腹違いの兄の婚約者。その現実がヴァイオスをさらに黒い感情で覆った。



カイゼルを見たサーシャが決められた相手の話を聞き一瞬目を見開いた。知らなかったのか、平常心を保つサーシャ。

哀れな馬鹿な女、弄ばれて、誰にも結局愛されないんだ。

妹のシーラが手に入らない現状、サーシャを甚振る快感だけが胸を軽くした。




魔物討伐の遠征に数多くの騎士が出兵した。王太子も、カイゼルも。

その時に母実家の公爵家、傘下貴族の子息達がヴァイオスに近づいてきた。

側近として認められたいのか媚を売り出す子息の中にサーシャの侯爵家と関わり合いのある子息がいた。

男爵家の嫡子だと話す男は父が母と弟、妹をサーシャの実家に売ったんだと話した。

妹は侯爵と母の不義の子で、弟のカイゼルは男のお下がりばかりもらってたのにいい暮らしをしやがってと苦言を漏らした時。

カイゼルの話していた、父が決めた相手という意味を理解した。

あの男はやっぱりサーシャのことを好んでいるのだと。



この男を使い、サーシャを甚振る計画を練った。王家の保管庫の魔力を封印する宝具を盗み、男に渡し、サーシャを襲う様に指示した時、追加遠征の便りが届いた。

戦場はどうなっているかわからない、誰が生きているのかすら情報が届かない。

それでもこの宝具さえあればサーシャを非力な女に出来るのだ。

自分の愛した男の目の前でたくさんの奴に穢されろ。

そんな期待を込めて、サーシャを戦場に送り出したのに。



サーシャは笑った。


死の最前線に行くはずなのに笑顔で。

そこまでしてカイゼルに会いたいのか、と思いながらも。

そんなサーシャを待っている地獄を想像すると、とても楽しみだった。



生きて帰ってきても、地獄。

帰ってこなくても、別にいい。



そう思っていたのに。



地獄を見たのは、ヴァイオスのほうだった。





「ヴァイオス!お前は王家の所有する保管庫に侵入し、魔導士の魔力を封印する国宝を盗みサーシャ嬢に使用しただけでは飽き足らず、彼女を今回の遠征に送り強姦させようと目論んでいたな?」

王太子の声に静まり返った会場がまたざわめき始めた。婦人達はヴァイオスのことを信じられない目で見ている。王族席にいる国王や王妃も嫌悪感丸出してそばに居たヴァイオスを隠す様に国王が王妃を庇っていた。



「加えて学園在学中においての数々の暴言、暴力の数々!事細かく証拠は残ってるんだ」

王太子が手を叩くと現れる宰相子息と医療団長子息、他数名。いつも遠くから現場を眺めていた貴族子息令嬢達。

医療団長子息が手を伸ばし宙にシャボン玉を出現させ、一つ割ると聞こえたヴァイオスの暴言。


「お前なんか、魔物に喰われて死んじまえ」


「お前はグズでノロマなんだよ!なんでこんなこともできないんだ!」


「お前なんかより可愛い奴がいるのに俺は不幸だろ?お前はなんで生きてるんだ?早く死ねよ!死んだら俺があの妹と結婚出来るからよ!!」


一つ一つシャボン玉を消していく医療団長子息。たまに聞こえるヴァイオスに言いよる令嬢達の声。サーシャの悪口に同調する同級生達。



聞こえてくる内容に実父である国王すらもヴァイオスを睨んでいた。王妃はシーラのそばにより手を握りシーラと一緒にヴァイオスを睨みつけていた。



「加えて何回もサーシャ嬢の腕や膝上に何度も殴りつけて側妃の名前を出しては従うサーシャ嬢を甚振ってました」


「こちらがその報告書です」


医療団長子息の言葉に宰相子息も続き、報告書を父である宰相に手渡した。



「ちなみに初めて会った時、第二王子と私達は砂利を入れたへこむボールで遊んでいました。その時の会話がこれです」


医療団長子息が特段小さなシャボン玉を出して小指で突いた。



「おい、おんな、謝れよ!ボールが凹んだだろ?!」


「俺は悪く無い!コイツが謝らないから悪いんだ!!俺は王子だぞ?偉いんだぞ?!」



逆に怖い。医療団長子息は何年分記録を残しているのだろうか?



医療団長子息がヴァイオスを見た後、怒りながら全てでたらめだと話す。

「こんなのイカサマだ!大体お前魔法なんで使えるんだよ!!」

喋り方に余裕がなくなってきたのか、ヴァイオスは必死の声で医療団長子息を睨みつけた。



「ヴァイオス、お前は馬鹿なのか?」


思わぬところからの伏兵、国王。


「治癒魔法が存在するのになぜそれを医療団が使えないと思うのだ?彼は医療団長の息子だぞ?」


ごもっともな返答だった。

だから、医療団は魔導団の一部として構成されているの、特殊だなと、軍隊編成を習った当時は思った。サーシャですらも。





うそだ!と繰り返し声を荒げたヴァイオスはふとサーシャ達に視線を向けて叫び出す。


「そもそもがお前がその男とデキてるから悪いんだろ?!兄妹です〜みたいな雰囲気装ってどうせその男とヤることやったアバズレ女を誰が好きになるかよ、ばぁぁか!!」


「ヴァイオス!お前は一番重要なことを忘れてないか?サーシャ嬢とお前の婚約はそもそも無効だし、何よりサーシャ嬢はチューラップ侯爵が正式に婚約届を出している婚約者がいるんだぞ?!」


ここぞとばかりに新事実を突っ込んでくる王太子に知らなかったのだろう。シーラもびっくりしてる。

荒れ狂うヴァイオスを騎士団長と父で捕縛しながら父はヴァイオスにカイゼルを指差していた。





サーシャとカイゼルの会話より先に周りが認めていくスタイル。外側から固められていく気持ちというのはきっと今の様な気持ちだろう。

よくよく考えたら今の状態はずっとお姫様抱っこ状態なんだ、と、サーシャは恥ずかしくなりカイゼルと目を合わせる。

彼も気付いたのか頬を染めサーシャを下ろし、手を繋ぐ。


その様子に気づいたのか、王太子はこちらを見、生温かい視線を送り、ヴァイオスに罪状を告げていく。

そして最後に両頬をぶん殴り倒れたヴァイオスを確認した後、階下を見渡す。



「今回の件を含め、側妃公爵家と関わった貴族は処分対象、ヴァイオスに取り入っていた生徒達は皆退学処分とし、令嬢は修女院、子息は各国境線の砦で見習い騎士として過ごしてもらう。側妃の件についてはきちんと証人がいる。今回の側妃の件が二度と起きないよう、側妃並びに関係貴族当主たちは斬首刑。ヴァイオスは廃嫡後、地下牢獄に生涯幽閉とする!」



その言葉に湧き上がる歓声と悲鳴。



王太子の成長に国王は最後まで泣いていた。



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